2000.5a / Pulp Literature

2000.5.3 (Wed)

古処誠二『UNKNOWN』(2000)

UNKNOWN(98x160)

★★★
講談社ノベルス / 2000.4 / 第14回メフィスト賞
ISBN 4-06-182120-2 【Amazon
ISBN 4-16-771709-3 【Amazon】(文庫)

自衛隊の駐屯地。侵入不可能な部屋に盗聴機が仕掛けられた。防諜の朝香二尉と野上三曹が事件に挑む。

メフィスト賞とは思えないまっとうな社会派だった。事件を通して自衛隊組織の問題点を炙り出している。密室トリックは無理矢理ひねり出したという感じだけど、本作の焦点は動機──それも自衛隊ならではの──にあるのだから、これはこれで仕方がないのかな。著者が元自衛隊員ということで、彼の組織に渦巻く“声”を聞かされたような気がする。

2000.5.5 (Fri)

ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』(1910)

オペラ座の怪人 (角川文庫)(114x160)

★★★★★
Le Fantome de L'opera / Gaston Leroux
長島良三 訳 / 角川文庫 / 2000.2
ISBN 4-04-284001-9 【Amazon
ISBN 4-488-53002-8 【Amazon】(創元推理文庫)

19世紀末のパリ。オペラ座では幽霊の噂が持ち上がり、楽屋裏の人たちを戦々恐々とさせていた。首吊り死体、シャンデリラの落下、蛙の声で鳴く女優。次々と怪奇現象が起きるなか、幽霊は歌手のクリスティーヌを誘拐する。

ゴシックロマンの名作。半ば義務感で読んだのだけど、これが期待以上に面白かった。映画などで既に知っていた話にもかかわらず、オペラ座の雰囲気や怪人の情念に呑まれてしまう。名作というのは、あらすじだけでは決して真価は分からないのだな。特に小説は、細かい言葉の積み重ねで成り立っているわけだし。

序盤はエリックのことをいちいち幽霊扱いしていてきつかった。というのも、現実を舞台にしている以上、幽霊なんか存在するはずがないので、彼らの大袈裟なリアクションが作劇上の退屈な手続きにしか思えなかったのである。お前らもっと理性的になれよと。幽霊以外の可能性を考えろよと。しかし、巨大建築の魔力というのか、オペラ座の存在があまりに大きく、ホラーの入れ物として無類の説得力を誇っている。奈落をはじめとした数々の仕掛けに、オペラという由緒正しい芸術。この入れ物がエリックの狂おしい情念と共鳴し、比類なきゴシック空間を作り出している。

才能ある音楽家のエリックは、異形であるがゆえにまともな生活を送ることができない。かつては見世物として、サーカスから王宮まで各地を渡り歩いていた。彼は生涯で1度も愛されたことがなかったから、愛に対しては常軌を逸するほど貪欲だ。惚れたクリスティーヌを誘拐し、彼女と心中する覚悟で地下室に監禁している。このストーカーと呼ぶには生ぬるい、命を賭けた愛情への固執。フリークスであることの悲劇が、オペラ座の世界観とマッチしていて大迫力だった。

2000.5.8 (Mon)

ベルンハルト・シュリンク『朗読者』(1996)

朗読者 (新潮クレスト・ブックス)(106x160)

★★
Der Vorleser / Bernhard Schlink
松永美穂 訳 / 新潮クレスト・ブックス / 2000.4
ISBN 4-10-590018-8 【Amazon
ISBN 4-10-200711-3 【Amazon】(文庫)

15歳の少年ミヒャエルが、36歳の女性ハンナと恋に落ちる。2人は肉体関係を結ぶようになるも、突然ハンナが失踪してしまう。ハンナには秘密があった。

ドイツお馴染みのテーマをミステリの枠組みで料理した小説。前半では年上のお姉さんとの蜜月が語られる。百戦錬磨の熟女から性の手ほどきを受けるチェリーボーイ。何だかある種の読者サービスみたいなシチュエーションだけど、ここから物語はある社会問題へとシフトする。

社会問題といっても中身は感傷的なロマンスである。ハンナのコンプレックスは、ミヒャエルが恩義を施してやるためだけに設定されており、ご大層にそれを秘密にすることでヤマを作っている。監獄に朗読のテープを送るなんて、そりゃ自己満足ってやつじゃないかね? 前述の社会問題なんか、2人の間に壁を作るためだけに用いられているし。せっかくドイツお馴染みのテーマなのだから、もっと真面目に掘り下げようよと思う。男の身勝手な感傷に閉口したのだった。

>>新潮クレスト・ブックス

2000.5.10 (Wed)

ジョンストン・マッカレー『快傑ゾロ』(1924)

★★★
The Mask of Zorro / Johnston McCulley
井上一夫 訳 / 創元推理文庫 / 2005.12
ISBN 4-488-50401-9 【Amazon】(新装版)

18世紀末のスペイン領カリフォニア。人々は総督の圧政に苦しんでいた。そこへ快傑ゾロが颯爽と登場、正義のために剣を振るう。

先に『アラン・ドロンのゾロ』【Amazon】を観ていたせいか、ゾロに対するイメージが崩れてしまった。まさかゾロがピストルを携帯し、それを脅しの道具としているとは……。また、『アラン・ドロン?』のプロットのほうが筋が通っているし、義侠ものらしい爽快感があると思う。あの映画は「殺された友人のために」という動機づけと、観客にゾロの正体を提示しておく枠組みが良かった。

ちなみに、今回読んだ版本は定価260円、ISBNが導入される前のものである。そのせいか、現在では自主規制されてしまいそうな表現が、本書では堂々と使われている。

ベルナルドというのは唖でつんぼの土人の召使で、ドン・ディエゴはその召使を奇妙なことに使うのだった。(p.158)

「唖」に「つんぼ」に「土人」だって! 現代版ではどうなっているのだろう……。