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2000.5.5 (Fri)
△ガストン・ルルー『オペラ座の怪人』(1910)

★★★★★
Le Fantome de L'opera / Gaston Leroux
長島良三 訳 / 角川文庫 / 2000.2
ISBN 4-04-284001-9 【Amazon】
ISBN 4-488-53002-8 【Amazon】(創元推理文庫)
19世紀末のパリ。オペラ座では幽霊の噂が持ち上がり、楽屋裏の人たちを戦々恐々とさせていた。首吊り死体、シャンデリラの落下、蛙の声で鳴く女優。次々と怪奇現象が起きるなか、幽霊は歌手のクリスティーヌを誘拐する。
ゴシックロマンの名作。半ば義務感で読んだのだけど、これが期待以上に面白かった。映画などで既に知っていた話にもかかわらず、オペラ座の雰囲気や怪人の情念に呑まれてしまう。名作というのは、あらすじだけでは決して真価は分からないと痛感した。特に小説は、細かい言葉の積み重ねが重要なのだ。
序盤はエリックのことをいちいち幽霊扱いしていてきつかった。というのも、現実を舞台にしている以上、幽霊なんか存在するはずがないので、彼らの大袈裟なリアクションが、作劇上の退屈な手続きにしか思えなかったのである。お前らもっと理性的になれよと。幽霊以外の可能性を考えろよと。しかし、巨大建築の魔力というのか、オペラ座の存在があまりに大きく、ホラーの入れ物として無類の説得力を誇っている。奈落をはじめとした数々の仕掛けに、オペラという由緒正しい芸術。この入れ物がエリックの狂おしい情念と共鳴して、比類なきゴシック空間を作り出している。
才能ある音楽家のエリックは、異形であるがゆえにまともな生活を送ることができない。かつては見世物として、サーカスから王宮まで各地を渡り歩いていた。彼は生涯で1度も愛されたことがなかったから、愛に対しては常軌を逸するほど貪欲だ。惚れたクリスティーヌを誘拐し、彼女と心中する覚悟で地下室に監禁している。このストーカーと呼ぶには生ぬるい、命を賭けた愛情への固執。フリークスであることの悲劇が、オペラ座の世界観とマッチしていて大迫力だった。
2000.5.8 (Mon)
▼ベルンハルト・シュリンク『朗読者』(1996)

★★
Der Vorleser / Bernhard Schlink
松永美穂 訳 / 新潮クレスト・ブックス / 2000.4
ISBN 4-10-590018-8 【Amazon】
ISBN 4-10-200711-3 【Amazon】(文庫)
15歳の少年ミヒャエルが、36歳の女性ハンナと恋に落ちる。2人は肉体関係を結ぶようになるも、突然ハンナが失踪してしまう。ハンナには秘密があった。
ドイツお馴染みのテーマをミステリの枠組みで表現した小説。前半では年上のお姉さんとの蜜月が語られる。何だかある種の読者サービスみたいなシチュエーションだけど、ここから物語はある社会問題へとシフトする。
社会問題といっても中身は感傷的なロマンスである。ハンナのコンプレックスは、ミヒャエルが恩義を施してやるためだけに設定されており、ご大層にそれを秘密にすることでヤマを作っている。監獄に朗読のテープを送るなんて、そりゃ自己満足ってやつじゃないかね? 前述の社会問題なんか、2人の間に壁を作るためだけに用いられているし。せっかくドイツお馴染みのテーマなのだから、もっと真面目に掘り下げようよと思う。ドイツを覆う諸々の問題が、青臭い恋愛に収斂してしまうのに閉口したのだった。
2000.5.10 (Wed)
▲ジョンストン・マッカレー『快傑ゾロ』(1924)
★★★
The Mask of Zorro / Johnston McCulley
井上一夫 訳 / 創元推理文庫 / 2005.12
ISBN 4-488-50401-9 【Amazon】(新装版)
18世紀末のスペイン領カリフォニア。人々は総督の圧政に苦しんでいた。そこへ快傑ゾロが颯爽と登場、正義のために剣を振るう。
先に『アラン・ドロンのゾロ』【Amazon】を観ていたせいか、ゾロに対するイメージが崩れてしまった。まさかゾロがピストルを携帯し、それを脅しの道具としているとは……。また、『アラン・ドロン〜』のプロットのほうが筋が通っているし、義侠ものらしい爽快感があると思う。あの映画は「殺された友人のために」という動機づけと、観客にゾロの正体を提示しておく枠組みが良かった。
ちなみに、今回読んだ版本は定価260円、ISBNが導入される前のものである。そのせいか、現在では自主規制されてしまいそうな表現が、本書では堂々と使われている。
ベルナルドというのは唖でつんぼの土人の召使で、ドン・ディエゴはその召使を奇妙なことに使うのだった。(p.158)
「唖」に「つんぼ」に「土人」だって! 現代版ではどうなっているのだろう……。