2000.5c / Pulp Literature

2000.5.23 (Tue)

リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』(1985)

(95x140)

★★★★
Three Farmers on Their Way to a Dance / Richard Powers
柴田元幸 訳 / みすず書房 / 2000.4
ISBN 4-622-04517-6 【Amazon

(1) デトロイトに移住した語り手が1枚の写真に惹きつけられる。写真は第1次大戦直前にドイツ人が撮ったもので、スーツを着た3人の農夫が写っていた。 (2) 1914年。写真の3人がそれぞれ戦争の渦に巻き込まれる。(3) 1984年10月、復員軍人の日。雑誌の編集者がパレードに出ていた赤毛の女に興味を抱き、独自に捜索する。

複製芸術をはじめとして難しい蘊蓄がちらほらあったけれど、話自体はとても素朴で面白かった。場所も時代も違う3つの物語が、絡まり合って1つの像を浮かび上がらせている。1枚の写真を起点として大きな風呂敷を広げつつ、また1枚の写真に収斂していく構造が絶妙。各話の繋がりが見えてからは、先が知りたくてほとんどジェットコースターだった。

自分を創造することと、自分を説明することとは、平行して、分かちがたく進んでいく。個人の気質とは、自分自身に注釈を加える営みそのものだ。(p.238)

想像力の大切さを教えられたような気がする。大量生産、大量消費、大量複製の洗礼によって、個人が大衆と化した時代。大衆それぞれが戦争の責任を負わされ、総力戦と称して死体の山を築いてきた時代。歴史という壮大な事象のなかで、埋もれていた個人に光を当てる。それは一枚の写真だっていい。写真を見る者は物語を読む者とパラレルであり、物語を読むとは、同時に頭のなかで物語を創っていることにもなる。歴史と個人の媒介になるのは想像力だ。想像力によって個人が立ち上がっていく。

平和船を率いるヘンリー・フォードが印象的だった。船に著名人を乗せて戦争に抗議しようとするも、計画はあえなく頓挫する。そのヒューマニズムはナルシシズムを母体にしており、彼がユダヤ人陰謀論の信者であったこと、そして死の商人に転じたことも加味すると、ひどく滑稽に映る。にもかかわらず、本書は彼をどこか憎めない人物として捉えていて、その暖かい眼差しが微笑ましかったりする。著者はインテリのキレ者でありながらも、根っこの部分はすこぶる良心的で好感がもてる。

>>Author - リチャード・パワーズ