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2000.7.3 (Mon)
▼スティーヴン・グリーンリーフ『血の痕跡』(1992)
★★
Blood Type / Stephen Greenleaf
黒原敏行 訳 / ハヤカワ文庫 / 1999.9
ISBN 4-15-171402-2 【Amazon】
私立探偵ジョン・タナー・シリーズ。タナーの飲み友達が殺されたので捜査する。
この著者の小説を読むのは今回がはじめて。本書は等身大の中年探偵が主人公の、正統派ハードボイルドだった。系統はロスマクとチャンドラーの合いの子といった感じ。アナーキー入った主人公の視点と、男のハーレクィンといった風情の白けるロマンスが、何とも言えないハードボイルド感を醸し出している。
一応、血液事業問題という当時の社会問題が主題なのだけど、時制が湾岸戦争中ということもあってか、被害者の造詣にベトナム戦争後遺症が取り入れられていた。といっても、PTSDのような深刻な後遺症ではなく、戦争体験によって思索的になったみたいな軽度の影響である。被害者は復員後に結婚し、そのまま15年間結婚生活を送ってきた。ところが、彼は男根誇示的な金持ちに妻を取られてしまう。被害者の正義感が不穏な方向にエスカレートしていくところは、モヒカンのロバート・デ・ニーロが悪党を射殺しまくる映画、『タクシードライバー』を想起させる。そういえば、あの映画でも問題の人物は女性不信だった。
しかし、本作においてこの問題のプライオリティはあまり高くない。問題は金持ちの傘下にある血液事業団体の所業で、弱者を搾取する社会悪の糾弾がメインになっている。それなりに共感できる問題を扱ってはいるものの、最後の数ページまで見せ場がないのがつらいところだろうか。
2000.7.5 (Wed)
▲サマセット・モーム編『世界100物語(1) おしゃべりな小説』(1939)

★★★
Tellers of Tales / W. Somerset Maugham
中野好夫・他 訳 / 河出書房新社 / 1996.10
ISBN 4-309-70871-4 【Amazon】
サマセット・モーム編集のアンソロジー。ウォルター・スコット「二人の牛追い人」、ワシントン・アーヴィング「リップ・ヴァン・ウィンクル」、ワシントン・アーヴィング「でっぷり肥った紳士」、バルザック「ラ・グランド・ブルテッシュ」、ホーソーン「老闘士」、バルベイ=ドールヴィリー「真紅のカーテン」、ポー「黄金虫」、フローベール「純な心」、E・エッシェンバッハ「クラムバムブリ」、ブレット・ハート「ポーカー・フラットの流罪人たち」の10編。
このアンソロジーは、19世紀から20世紀初頭にかけての欧米の短編小説がチョイスされており、河出書房新社の本シリーズでは全8冊で合計100編という構成になっている。
本書の中で面白かったのは、バルザック「ラ・グランド・ブルテッシュ」、バルベイ=ドールヴィリー「真紅のカーテン」の2編。どちらもひどく冗長だけれど、インパクトは並々ならぬものがある。次点は、ウォルター・スコット「二人の牛追い人」、ポー「黄金虫」、E・エッシェンバッハ「クラムバムブリ」。この3編はどれもとっつきやすい。
以下、各短編について。
ウォルター・スコット「二人の牛追い人」(1827)"The Two Drovers"
仲の良かった2人が喧嘩をして死人が出て裁判になる。
中野好夫訳。牧歌的な風景から殺伐とした雰囲気に一変する。名誉のためとはいえ、殺される覚悟があるから殺すというメンタリティは、そこらのキチガイどもと大して変わらないような気がする。少なくとも英雄的行為ではないはずだ。
ワシントン・アーヴィング「リップ・ヴァン・ウィンクル」(1819,20)"Rip Van Winkle"
山に入った主人公が変な酒を飲んで寝る。起きてみると既に30年が過ぎていた。
松村達雄訳。ものは言いようで、悪妻から解放されて幸せに暮らしたみたいになっている。でも、やっぱり失った30年の損失は大きいよなあ。
ワシントン・アーヴィング「でっぷり肥った紳士」(1822)"The Stout Gentzeman"
宿泊客がでっぷり肥った紳士をあれこれ想像する。
松村達雄訳。人間心理をユーモアたっぷりに描いている。結末はマーフィーの法則っぽい。
バルザック「ラ・グランド・ブルテッシュ」(1832)"La Grabde Breteche"
「ラ・グランド・ブルテッシュ」という建物にまつわる話。
岡部正孝訳。医者が会合の席で物語るという趣向。無駄に長い気がするが、オチが強烈だった。
ホーソーン「老闘士」(1835,1837)"The Gray Champion"
ニュー・イングランドに白髪の老人が現れる。
土井治訳。アメリカン・ナショナリズムを描いた作品らしい。独立戦争が1775年から1776年。南北戦争が1861年から1865年。本作はその谷間の時期に書かれている。
バルベイ=ドールヴィリー「真紅のカーテン」(1874)"The Crimson Curtain"
ダンディーな大尉が真紅のカーテンにまつわる逸話を告白する。
河盛好蔵訳。娘の態度が不可解という。
ポー「黄金虫」(1843)"The Gold Gugs"
暗号を解いてお宝を手に入れる。
松村達雄訳。再読だけど、やはり暗号を解くロジックが凄いな。お宝云々はオマケ。
フローベール「純な心」(1877)"A Simple Heart"
メイドさん。
岡部正孝訳。あまりにつまらなかったので、途中から飛ばし読みしてしまった。
E・エッシェンバッハ「クラムバムブリ」(1883)"Krambambuli"
主人公と狩猟犬。
辻セイ(王編に星) 訳。神視点の語り手は気づいているけど、主人公はそれに気づいていない。このズレが物語に哀愁を漂わせている。
ブレット・ハート「ポーカー・フラットの流罪人たち」"The Outcasts of Porker Flat"
賭博者一行の食糧が盗まれる。
横沢四郎訳。罪人として流刑にされたけど実は善人で誇り高き人でした、という話。