2000.7c / Pulp Literature

2000.7.22 (Sat)

ジェイムズ・エルロイ『血まみれの月』(1984)

★★★★
Blood on The Moon / James Ellroy
小林宏明 訳 / 扶桑社ミステリー / 1990.7
ISBN 4-594-00608-6 【Amazon

LAPDの部長刑事ロイド・ホプキンズが、女性を専門に狙うシリアルキラー「詩人」を追う。

ひとことで言えば、エルロイ版『レッド・ドラゴン』【Amazon】。感情移入型捜査官が、サイコパスの「心の闇」を覗きこんで同化していく。手法的には『レッド・ドラゴン』に似ているけれど、本作はそれよりもう少し踏み込んでいて、2人の精神的相似関係を前面に出している。

でまあ、この因果関係が秀逸だった。人物の性質とその原点を、強力なエピソードでもって納得のいくように説明している。エルロイが描くロサンジェルスは紛れもないファンタジーだけど、それでも妙にリアリティがあるのは、人物を構成するエピソードが並外れて詳しいからだろう。たとえば、アンドリュー・ヴァクスや馳星周に顕著な「嘘臭さ」を、エルロイは全く感じさせない。

終盤ではエンタメ小説の定石である「誤解」のシナリオが展開する。これが捜査官と殺人者の危険な関係と相俟って、物語に緊張感をもたらしている。そして、対決後の「合一」は壮絶のひとことだ。まるで江戸川乱歩の猟奇小説を読んでいるような、倒錯的感覚に襲われる。

2000.7.26 (Wed)

レジナルド・ヒル『ベウラの頂』(1998)

ベウラの頂−ダルジール警視シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(92x160)

★★★★★
On Beulah Height / Reginald Hill
秋津知子 訳 / 早川書房 / 2000.6
ISBN 4-15-001690-9 【Amazon

ダルジール警視シリーズ。湖底に沈んだ村で連続少女失踪事件が発生、未解決のまま終わる。15年後、村人たちが移り住んだ先で、またもや少女失踪事件が起きる。

今回は親子関係がテーマ。子供が失踪した親は、「なぜ自分の子供が」と理不尽な思いをし、失踪しなかった近所の親は、「自分の子供じゃなくて良かった」と安堵する。そこへパスコーの娘とその友人が、髄膜炎で瀕死になるというエピソードを挿入、前述のテーマを強調させている。子供を失う悲しみとは、当然、親から子へ向かう感情的なアプローチである。ところが、本作はそこへ裏返しとなった別のアプローチを隠すことで、意外な動機というのを効果的に演出している。しかも、序盤からバリバリ伏線を張るほどの念の入りよう。その巧みな心理トリックに舌を巻いたのだった。これは叙情と技巧を備えた傑作だと思う。

2000.7.31 (Mon)

さいとうたかを『ゴルゴ13 (117) 情報遊戯』(2000)

ゴルゴ13 (117)(115x160)

★★★
リイド社 / 2000.7
ISBN 4-8458-0117-5 【Amazon

「情報遊戯」、「北海の煙突船」、「フルマーク」の3編。

「情報遊戯」(1996.4)

ゴルゴへの依頼を先回りして妨害する組織。彼らは世界中に張り巡らされた情報システムを持っていた。

ゴルゴってジャンボ旅客機まで操縦できるのか……。個人情報を抹消されて万事休すに見えたけれど、スパイみたいな技能で脱出している。殺し屋は狙撃だけじゃ駄目なんだな。

今回はエシュロンと思しき情報機関が題材。近づくまでが大変とはいえ、本体は大学の頭でっかち集団なので、殺しそのものはたやすい。遠隔操作のスタンドは接近戦に弱いってことだ。みんなあっけなく殺されている。

娼婦に乗られても眉一つ動かさず、マグロ状態で考えごとをしているゴルゴが可笑しい。ひょっとして不感症なんだろうか。

「北海の煙突船」(1995.12)

産業廃棄物を煙突船に乗せ、北海を航行しながら処理する業者。そこに環境保護団体が表れ……。

これは環境問題を描いた力作ではなかろうか。物語は大企業に翻弄される人間ドラマが中心で、ゴルゴの出番は最後にちょっとだけ。フィクションだから多少の色はついているけれど、図式としてはこんなもんなんだなあと思えてくる。

結婚式の場面は『ゴッドファーザー』を想起させる。もしや参考にした?

「フルマーク」(1996.8)

女子ライフル射撃のアメリカ代表選手が、偶然出会ったゴルゴに教えを乞う。

この作品だけ目に見えて絵柄が汚いけれど、ゴルゴだけはいつものクオリティだった。たぶん、さいとうたかを本人がゴルゴにペン入れして、残りはアシスタントがやっているのだろう。締切にむりやり間に合わせたような感じだ。