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- 22 : フィリップ・K・ディック『地図にない町』
- 24 : 立花隆『サイエンス・ミレニアム』(1999)
- 27 : ルシアン・ネイハム『シャドー81』(1975)
- 30 : ジョン・ディクスン・カー『帽子収集狂事件』(1933)
2000.8.22 (Tue)
▲フィリップ・K・ディック『地図にない町』
★★★
The Commuter and Other Stories / Philip K. Dick
仁賀克雄 編訳 / ハヤカワ文庫 / 1976.8
ISBN 4-15-040122-5 【Amazon】
日本オリジナル編集の短編集。「おもちゃの戦争」、「薄明の朝食」、「レダと白鳥」、「森の中の笛吹き」、「輪廻の豚」、「超能力者」、「名曲永久保存法」、「万物賦活法」、「クッキーばあさん」、「あてのな船」、「ありえざる星」、「地図にない町」の12編。
訳者あとがきによると、当時の未収録作を集めているとのこと。50年代のものが多いようだけど、発表年代を明記しない手抜き編集のため、正確なところは分からない。小説でもっとも重要なのは書かれた年代なのだから、これを抜かすのは勘弁してくれと思う。
以下、各短編について。
「おもちゃの戦争」"The Little Movement"
父親の買ったおもちゃの兵隊が少年の部屋に。兵隊は徒党を組んで大人たちと戦争していた。
『ジョジョ』【Amazon】の第4部に出てきたバッドカンパニーみたい。小さくても武器は実弾並の威力だったりするのだろうか。というのも、戦争の描写はいっさいなく、すべて子供部屋の伝聞で処理されている。話によると相当ハードなようだけど、どこか遠くの出来事みたいになっているのが面白い。時期的にいって、やはり朝鮮戦争の暗喩なのだろうか。平和な子供部屋(アメリカ)に対し、遠く(朝鮮)では血みどろの戦いが繰り広げられている。★★★★。
「薄明の朝食」"Breakfast at Twilight"
3人家族が自宅ごと未来へタイムスリップする。ちょうど戦火の真っ只中だった。
何という不条理。わずか8年後には自宅付近でドンパチやっている。しかも、共産国との全面戦争ときた。これって外交が失敗したから戦火に巻き込まれているわけで、確かにもっと前に点検しておくべきだった。冷戦時代は常にこういう危機意識があったのだろうか。★★★★。
「レダと白鳥」"Out in the Garden"
ロバートの妻はペットの白鳥を溺愛していた。ある日、夫婦の間に子供が産まれる。数年経ってすくすく成長するも、何か様子がおかしい。
神話と絡めたブラックな小品。神話が美しいのはあくまで作り話だからで、現実に起きると途端にグロテスクになる。★★★。
「森の中の笛吹き」"Piper in the Woods"
駐屯地の軍人が「植物になった」とか言って職務を放棄する。
ひきこもりを先取りした小説。心理分析がかなり鋭い。思えば、大人とは成長した子供なんだよなあ。特に明快な変身を遂げて大人になったわけではない。従って、日々の抑圧から逃げたくなるのも当然だし、本作みたいな心理に陥るのもよく分かる。何たって、人生の大部分は苦痛で出来てるしね。★★★★。
「輪廻の豚」"Beyond Lies the Wub"
異星人から<ワブ>という豚に似た動物を貰う。料理にすべく殺そうとしたとき、<ワブ>が英語で喋った。
「鯨は知性があるから殺しては駄目」とか言うけれど、その知性の基準は何なのか? というわけで、家畜の代表格である豚が喋り出した。<ワブ>は人間の心を読む特殊能力を持っていて、船員たちに説得を試みる。その内容はあまりに高度だった。普通だったら倫理的に悩むところだけど、そこをあっさりはね除けるのだから可笑しい。タイトルに直結するオチも良いね。★★★。
「超能力者」"Psi-Man"
戦争で荒廃した近未来。超能力者が郊外のシェルターで共同体を作っている。
大統領は超能力者の警告を聴かずに戦争を起こし、戦後になってからは彼らを社会からオミット、さらに超能力者は超能力者で内紛を起こしている。ずいぶん救いようのない状況だけど、最後に一筋の希望が示唆される。なるほど、ディックって意外と良心的だ。ただのヤク中かと思ってたよ。★★★。
「名曲永久保存法」"The Preserving Machine"
ラビリンス博士が名曲永久保存器を発明した。この道具は曲を動物に変換することができる。
ワーグナー獣には笑ってしまった。確かにあれは物々しいよなあ。この小説は制御できない動物たちをエデンの園に重ねるのが上手い。生物であれ無生物であれ、創作物は創作者の手を離れると独立した存在になる。あの話にはそんな教訓があったのだ。★★★。
「万物賦活法」"The Short Happy Life of the Brown Oxford"
ラビリンス博士が万物賦活器を発明した。この道具は万物に生命を与えることができる。
「万物賦活器」とはずいぶん翻訳のセンスが良い。「文化女中器」【Amazon】に匹敵する素敵ネーミングだ。話もなかなか洒落ていて、靴がダンスする場面は微笑ましくなる。★★★。
「クッキーばあさん」"The Cookie Lady"
少年が学校帰りに老婆の家に立ち寄る。クッキーを貰うかわりに本を読んであげるのだ。少年がいる間、老婆は一時的に若返っている。
おいおい、この結末は強烈だなー。小説内では誰も悪意を持っていない。にもかかわらず、少年の無垢や善意が押し流されてしまう。かなりブラックなホラーだった。★★★★。
「あてのな船」"The Builder"
妻子持ちの男がガレージで船を造る。しかし、彼は目的も何もなく、ただ制作に熱中しているだけ。そのことで妻と揉めるようになる。
ノアの箱船を予想していたらそのままどんぴしゃりだった。冷戦初期は原爆の不安が切実だったということか。SFは時代を映す鏡だね。★★★。
「ありえざる星」"The Impossible Planet"
宇宙船内部。350歳の老婆が地球行きを希望してきた。ところが、地球は神話上の存在であり、実在しないとされている。
宇宙時代になっても人類は戦争に明け暮れていた。荒廃した地表でコインを拾うシーンは、『猿の惑星』【Amazon】で自由の女神像を発見するシーンと重なる。
全体的に本書は悲観的な未来像が多い。SF作家とは多かれ少なかれ「炭坑のカナリヤ」(by カート・ヴォネガット)なのだ。★★★。
「地図にない町」"The Commuter"
回数券を買いにきた客が存在しない駅名を告げる。駅員が地図で確認をすると、客はいつの間にか消えている。気になった駅員が実地で町を探すことに。
これは面白かった。「地図にない町」という夢想的状況にわくわくする。もの悲しい町の由来も良ければ、自縛霊っぽい町のあり方も最高。もっと長くこの場所に浸っていたかった。★★★★。
2000.8.24 (Thu)
▲立花隆『サイエンス・ミレニアム』(1999)

★★★
中央公論新社 / 1999.11
ISBN 4-12-002965-4 【Amazon】
対談集。「ニュートリノの正体」(戸塚洋二)、「性転換最前線を行く」(原科孝雄)、「鯨衛星」(林友直)、「地球史46億年を解読する」(熊澤峰夫)、「遺伝子でさぐる脳形成の謎」(堀田凱樹)、「脳を侵す環境ホルモン」(シーア・コルボーン)の6編。
とりあえず、興味を持ったトピックをメモ。
「性転換最前線を行く」(原科孝雄)
性の自己意識は生まれながらに備わっていて、人工的に変えることは出来ない。昔は性の自己意識に問題がある場合、その人は精神異常として扱われていた。今は性的快感を損ねずに、男から女、女から男、双方の性転換手術が可能だという。人体はおもしれーなー。
「地球史46億年を解読する」(熊澤峰夫)
6億年前の地球の自転速度は約22時間、1年は約400日だったとか。壮大すぎる話である。
「脳を侵す環境ホルモン」(シーア・コルボーン)
昨今の学級崩壊やキレる若者問題は、環境ホルモンによる前頭葉の機能不全症の可能性がある? そういえば、この説は真保裕一の小説『ボーダーライン』【Amazon】でも検証されていた(*1)。当時は「嘘くせー」と鼻で笑っていたけれど、実はあながち的外れではないのかもしれない。
2000.8.27 (Sun)
▽ルシアン・ネイハム『シャドー81』(1975)

★★★★
Shadow 81 / Lucien Nahum
中野圭二 訳 / 新潮文庫 / 1977.4
ISBN 4-10-215801-4 【Amazon】
元軍人がジャンボ旅客機を戦闘機でハイジャックする。目的は乗客の身代金だった。
計画的犯罪としてはいささか運に頼る要素が大きいのだけど、しかしよくよく考えてみれば、実際のハイジャックもこんなものなのだろう。全てがこちらの思い通りにはいかないわけで、計画の細部や状況の推移にこのうえない説得力がある。
ハイジャックと一言でいっても、犯人側の目的によってその性質が変わる。獄中の仲間の釈放であったり、異なる勢力圏への亡命であったり、単に目立ちたいだけであったり。今回は乗客の身代金ということで、読者の興味は金銭の受け渡しに集中することになる。で、本作はこの部分にとんでもない仕掛けがあった。こんなのよく考えついたなーと膝をバシバシ叩きまくったのだった。