2000.9a / Pulp Literature

2000.9.2 (Sat)

船戸与一『山猫の夏』(1984)

★★★
講談社文庫 / 1987.8 / 第6回吉川英治文学新人賞
ISBN 4-06-184048-7 【Amazon
ISBN 4-06-184049-5 【Amazon

ブラジル。アンドラーデ家とビーステフェルト家に支配される町エクルワは、100年前から両家の殺し合いの場になっていた。その町に、弓削一徳こと「山猫」がやってくる。

『赤い収穫』【Amazon】を下敷きにした悪漢小説。山猫が両家を争わせて漁夫の利を得ようとする。

山猫の活躍は爽快なんだけど、敵との戦力差が開きすぎているのが難点だろうか。山猫があまりに強くて死ぬ気がしない。たとえるなら、竹槍と核兵器くらいの差がある。山猫は何でも跳ね返す超人のような存在であり、だから最後の展開は納得がいかない。作者の都合が見え見えなのである。

2000.9.5 (Tue)

ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』(1975)

鷲は舞い降りた(111x160)

★★★★
The Eagle Has Landed / Jack Higgins
菊池光 訳 / ハヤカワ文庫 / 1997.4
ISBN 4-15-040834-3 【Amazon

第二次大戦末期。ドイツ落下傘部隊の精鋭たちが、チャーチル首相を誘拐すべくノーフォークの寒村に降下する。無事村に溶け込んだ彼らだったが、標的の到着を前に思わぬアクシデントが出来する。

前半はプロジェクトが動くまでを丹念に追っていて死ぬほどかったるかったけれど、後半に入ってからドラマチックに加速してぐいぐい引き込まれた。ドイツ軍人を人間味あふれるナイスガイとして描いているのが良い。部隊に先行して村に潜入したIRAの闘士が、現地の娘と恋に落ちて悲しい別れをするはめになる。かと思えば、落下傘部隊がみな誇り高き男たちで、子供の危機を咄嗟の判断で救ってやる。そして、隊長が見せる任務への飽くなき執念……。登山家が山に挑むのはそこに山があるからであり、軍人が任務に挑むのはそこに任務があるからなのだ。すげーなー、かっこいいなー。読者としては失敗するのが分かっているから、余計に悲哀とダンディズムを感じてしまう。彼らは男の鑑だね。

それにしても、翻訳はどうにかならないものか。ところどころ文章がぎこちなく、せっかくの名作が台無しになっている。カタカナ語の表記も独特(Bar=バア、Table=テイブル)でイラっとくるし。早く別人を起用して新訳を出すべきだと思う。

2000.9.9 (Sat)

アイザック・アシモフ『ミクロの決死圏』(1966)

★★
Fantastic Voyage / Isaac Asimov
高橋泰邦 訳 / ハヤカワ文庫 /
ISBN 4-15-010023-3 【Amazon

手術不可能な脳内手術を行うべく、医師らを原子力潜水艇ごとミクロ大に縮小し、患者の体内に入り込む。

映画のノベライゼーション。こういうのは無名の作家が請け負うイメージがあるけれど、本作ではあのアシモフが書いている。

閉ざされた空間を舞台にしているんだから、もっと人間の猜疑心を書いて欲しかった。映画と違って、ノベルスには心理描写という武器があるわけだし。また、体内へ入るまでがおそろしく冗長で、紙幅の半分も費やしている。わざわざ小説にする意味があるとは思えなかった。

ただ、文章は素晴らしい。科学関係の描写は、30年前のものとは思えないくらい臨場感があった。