2000.9c / Pulp Literature

2000.9.23 (Sat)

シェイマス・スミス『Mr.クイン』(1999)

Mr.クイン(114x160)

★★★
Quinn / Seamus Smyth
黒原敏行 訳 / ハヤカワ文庫 / 2000.8
ISBN 4-15-100151-4 【Amazon

犯罪プランナーのクインが、不動産業者の一家を事故に見せかけて殺害し、財産を乗っ取ろうとする。

これはクインの立ち位置が面白い。犯罪プランナーとして計画は立てるものの、自らは表舞台に姿を表さず、実行者とは決して接点を持たない。殺人をビジネスと割り切っており、他人を虫ケラのように踏みつぶしている。そして彼は妻子持ちだ。非情なビジネスとは裏腹に、プライベートでは子供を溺愛している。この矛盾する人物像が何とも魅力的。殺人者と家庭人って両立しないものだと思ってた。

2000.9.25 (Mon)

田中芳樹『創竜伝12 竜王風雲録』(2000)

創竜伝12 竜王風雲録(98x160)

★★★
講談社ノベルス / 2000.8
ISBN 4-06-182126-1 【Amazon
ISBN 4-06-273821-X 【Amazon】(文庫)

宋の時代に落ちた東海青竜王を、南海白竜王が探しに行く。当時の宗は政治が不安定で、隣国・遼の侵攻に脅かされていた。

『創竜伝』は中国の神話をモチーフにした伝奇小説。神の生まれ変わりである4兄弟が、その人間離れした身体能力でもって、権力者の手先や人外の化け物をなぎ倒していく。このシリーズは、他の作品に比べて著者の思想(中国好き・日本嫌い)が露出している。なので読んでいて引っ掛かることが多い。中国の文化を褒めるために、いちいち他の文化を貶すのはどうにかならないかと思う。

本書は5巻・11巻に続くシリーズの外伝。兄弟が宋の趙匡義の時代に落ち、歴史上の人物と関わりを持つことになる。本筋である化物退治はどうでもいいような話で、著者も宋の時代を書けさえすればそれで良かったのだろう。兄弟たちは歴史を変えるような行動はとらず、激動の時代に身を任せている。ディテールがしっかりしているので、歴史好きにはたまらないんじゃなかろうか。

2000.9.28 (Thu)

鮎川哲也『死のある風景』(1961)

死のある風景(112x160)

★★★
ハルキ文庫 / 1999.1
ISBN 4-89456-483-1 【Amazon

阿蘇山の火口で女性が投身自殺、さらに内灘海岸では女性の射殺体が発見される。2つの死は何を意味するのか? 鬼貫警部が捜査する。

著者がひいた設計図があまりに複雑で、よくこんな繋がりを考えたものだと感心。その一方、複数使われたアリバイトリックは、お世辞にも巧いとは言えない代物だった。

2000.9.29 (Fri)

さいとうたかを『ゴルゴ13 (118) 未明の標的』(2000)

ゴルゴ13 (118)(112x160)

★★★
リイド社 / 2000.9
ISBN 4-8458-0118-3 【Amazon

「未明の標的」、「遺作」、「老いた獅子」、「ラストジハード 最後の聖戦」の4編。

「未明の標的」(1995.12)

標的が乗ったインド行きの飛行機を、シーク教徒のテロ組織がハイジャックした。予定の狂ったゴルゴは、カウンターテロリストの部隊に紛れ込む。

思わぬアクシデントで難易度は上がった(当初は外から狙撃する予定だった)けれど、騒動のなかきっちり仕事している。テロリストを脇に置いた射殺シーンは迫力満点。鬼気迫る表情で神技を見せている。また、標的の情報を得る手段もなかなかトリッキーで、『海外特派員』【Amazon】みたいな意外性がある。

「遺作」(1995.10)

やり手の老女流カメラマンは、若い頃ヒトラーの愛人だった。彼女は密かにヒトラーの最後を撮影しており、そのフィルムを現在に至るまで隠匿している。戦後50年目、今度はゴルゴ13を撮影するのだった。

リアルゴルゴは戦場なんかよりも危険すぎた。いちおうフィルムに収めて死んだのだから本望だったのかなあ。本人は生き延びるつもりだったろうけど、こういう病気は死ななければ治らない。会見のとき、目玉にカメラを仕込んでいたことにゴルゴは気づいていたのだろうか? あれで我慢しておけば良かったのにと思う。最後、仇討ちに挑む老人がせつない。

「老いた獅子」(1996.5)

クルド人ゲリラの依頼で、イラク軍の司令官を射殺することに。山岳地帯を踏破するゴルゴだったが、道中、年老いたゲリラにつきまとわれる。彼には悲劇的な過去があった。

クルド人の棲息地域は天然資源の宝庫であり、国としてはアルメニア、イラン、イラク、シリア、トルコにまたがっている。だからいろいろ手駒にされているというわけ。

臆病者が過去を清算するというストーリーは、なかなかくるものがある。戦争は人に無理な決断を迫るからたちが悪い(成功して死ぬか、失敗して死ぬか)。誰だって我が身が可愛いのだから、老いた獅子を笑うことはできないだろう。人の世は生きづらいってことだ。

「ラストジハード 最後の聖戦」(1996.7)

チェチェン独立運動の指導者による依頼。「血の掟」に背き、マフィアとして私腹を肥やす弟を殺してくれという。弟は日本円の精巧な偽札を作ろうとしていた。

神話みたいな兄弟のすれ違い。「後悔先に立たず」と言うし、普段からのコミュニケーションが大事だね。

お札(1万円札)の蘊蓄が面白かったのでメモ。

  • NIPPON GINKOの文字は、幅1ミリに11本の線が彫ってある。欧州の精密な札でもせいぜい8本。
  • 印刷には独特の磁性インキを使っている。
  • スカシは通常の白スカシと異なる黒スカシ。
  • 紙の厚さは10ミクロン。10万回折り曲げても切れない。
  • “網紋”はジェオメトリカル・レーシング・マシンという手作業機械で作っている。
  • 文字部分は30ミクロンの厚さで盛り上がっている。凹版印刷じゃないと駄目。
  • 色は表10色・裏5色の計15色。レインボー印刷と呼ばれる技術を使っている。凹版印刷じゃないと駄目。

2000.9.30 (Sat)

麻耶雄嵩『木製の王子』(2000)

木製の王子(97x160)

★★★
講談社ノベルス / 2000.8
ISBN 4-06-182141-5 【Amazon
ISBN 4-06-273829-5 【Amazon】(文庫)

比叡山の奥にある屋敷で殺人が起きる。ピアノの上に生首が置かれ、指輪が奪われていた。木更津と烏有が捜査する。

容疑者全員に緻密なアリバイがあり、それを図入りで説明している。どうせ合理的解決など有り得ないだろうとタカを括っていたら……。

まあ、いつもの崩壊感はあるけれど、次回作への繋ぎみたいで物足りなかった。この人って最近はまったく本気を出してないよな。もっと濃密なのが読みたい。