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- 03 : 星新一『おみそれ社会』(1970)
- 07 : ジェフリー・ディーヴァー『コフィン・ダンサー』(1998)
- 10 : 三島由紀夫『永すぎた春』(1956)
2000.12.3 (Sun)
▲星新一『おみそれ社会』(1970)
★★★
新潮文庫 / 1985.1
ISBN 4-10-109835-2 【Amazon】
短編集。「おみそれ社会」、「女難の季節」、「ねずみ小僧六世」、「キューピッド」、「牧場都市」、「はだかの部屋」、「手紙」、「回復」、「古代の神々」、「殺意の家」、「ああ祖国よ」の11編。
面白かったのは、「おみそれ社会」、「女難の季節」、「手紙」の3編。今回は風刺の効いたブラックな短編が多かった。
以下、各短編について。
「おみそれ社会」
スリの男が医者と知り合う。そして、物事の裏の顔を目の当たりにしていく。
以下、乞食について語ったセリフ。
ドキュメンタリー番組のためには、かわいそうな貧しい人物が必要なんです。視聴者というものは、うまい物を食べながらテレビでかわいそうな光景を見るのが好きなんですよ。優越感なるものは、いまや立派な商品ですからね。
観光や視察にやってくる外人むけにも、乞食は必要なんです。アメリカ人は日本にも社会のひずみがあることを知ってほっとする。共産圏からの旅行者は、資本主義の犠牲者を発見し、いいみやげ話ができたと大喜びする。低開発国の経済使節団が見れば、日本に大きな援助要求をするのは遠慮しようと内心で考える。
社会風刺というか、過剰な裏目読みが凄かった。この短編は物事への認識がバタバタひっくり返っていく話だから、こういうひねくれた思考が良い補助線になっている。★★★★。
「女難の季節」
社長の娘との縁談が進んでいた青年。その彼の前に女がやってきて、身に覚えのない肉体関係を盾に結婚を迫ってくる。
これは面白かった! 自分の認識と全く異なる女の存在がおっかないし、その後のオチにもキレがある。途中まで不条理ものみたいな噛み合わなさ。★★★★。
「ねずみ小僧六世」
「ねずみ小僧六世」に目をつけられた物品を、銀行の金庫に預ける。
これはけっこうトリッキー。「ルパン三世」みたいだった。★★★。
「キューピッド」
女を追いかけてアナザーワールドに迷い込んで恋のキューピッドになる。
変なのに巻き込まれて可哀想だなーと思ったら、著者らしからぬ感傷的なオチがついてびっくりした。正直、あまり似合わないような……。★★★。
「牧場都市」
異星人に管理された人類の生活。
この短編集はブラックな話が多い。★★★。
「はだかの部屋」
留守番している部屋に訳ありの人間がじゃんじゃんやってくる。
固定された空間での珍事ということで、バラエティ番組のコントみたいだと思った。★★★。
「手紙」
人生の重要な局面で「手紙」が現れ、その指示に従っていくうちに成功者となった男。そんな彼の前に新たな局面が訪れたが……。
このSFじみた設定が現実の歴史と重なるところがなかなか。★★★★。
「回復」
交通事故で怪我をするも、無事回復する。
秘められた物語と、アイテムを上手く使ったブラックなオチ。これは死者の呪いである。★★★。
「古代の神々」
平穏に暮らしている未来の人々が、5000年前(1970年)のタイムカプセルを掘り出す。
競争も進歩もない無味乾燥な未来。しかしまあ、万人の納得できるユートピアなんてないのだから、この程度で手打ちにしといたほうがいいのかも。★★★。
「殺意の家」
銭ゲバのおっさんの家に招かざる訪問者がやってくる。
確かにこの奇怪な現場を第三者が見ても何が何やら分からない。それにしても、女殺し屋は物騒なのを装備してるな……。★★★。
「ああ祖国よ」
アフリカの新興独立国が日本に宣戦布告をしてきた。
しょぼい国に喧嘩を売られて右往左往する。日本の平和ボケを風刺した短編だけど、日本側の対応に説得力がなくていまいちだった。今回は風刺が空回りしている。★。
2000.12.7 (Thu)
▽ジェフリー・ディーヴァー『コフィン・ダンサー』(1998)

★★★★
The Coffin Dancer / Jeffery Deaver
池田真紀子 訳 / 文藝春秋 / 2000.10
ISBN 4-16-319580-7 【Amazon】
ISBN 4-16-766177-2 【Amazon】(文庫)
ISBN 4-16-766178-0 【Amazon】(文庫)
リンカーン・ライムシリーズ2作目。裁判の重要証人の1人が殺された。四肢麻痺のリンカーン・ライムと、その手足になって動くアメリア・サックスが、殺し屋「コフィン・ダンサー」と対決する。
コフィン・ダンサーとは腕に刺青をしている殺し屋のあだ名。ダンサーに狙われて生き残った者はいないという凄腕の殺し屋である。今回その凄腕がある人物の依頼で、裁判の重要証人をつけ狙うことになる。裁判は48時間後。それまでライムたちは証人を守りきることができるのか? はたまた、ダンサーが警備網をかい潜って証人を殺してしまうのか? そんな手に汗握るスリラーに仕上がっている。
なんといっても、軍人もどきな殺し屋の造型が秀逸だった。社会病質者としての人物像、プロフェッショナルらしい職人気質、そしてライムの裏をかく作戦遂行能力。こういう小説は敵が強ければ強いほど盛り上がるわけで、敵役としては非常に魅力的なキャクターだと思う。
2000.12.10 (Sun)
▲三島由紀夫『永すぎた春』(1956)

★★★
新潮文庫 / 1960.12
ISBN 4-10-105010-4 【Amazon】
名門大学に通う青年が古本屋の娘と婚約する。ただし、結婚は青年の卒業までお預け。1年3ヶ月という長すぎる婚約期間中に、2人は様々な経験をする。
名家の若旦那と平民の小町娘が、家柄の違いを乗り越えて婚約する。しかし、当世風の自由恋愛を貫いたのは良かったものの、婚前交渉が御法度なうえ、婚約期間がおそろしく長いので、やりたい盛りの青年は欲求不満状態に。かくして、青年はグラマーなお姉さんの誘いにあっさり乗ることになる。
「この娘(引用者註:婚約者)はどうあっても、結婚まで大事にしておかなければならない。指一本触れてはならない。僕のやるべきことは、早くつた子(引用者註:グラマーなお姉さん)の体を知った上で、一日も早く、百子のために、つた子を捨てることだ。よし! そう決めたぞ」(p.91)
うひゃー、全然筋が通ってねー! 青年のはち切れんばかりの性欲が、理性をショートさせてこんなにも身勝手な屁理屈を練り上げている。婚約解消のリスクさえも、ご馳走を前にしては奇妙な観念に絡め取られてしまう。特に最後の一節にあるエクスクラメーションマークには、一刻も早く下半身の快楽をゲットしたい、チェリーボーイの悲愴さえも感じられてつい吹きだしてしまう。
婚約期間中の2人は、まるで海の上の小舟といった趣で、宙ぶらりんのままゆらゆらと漂うことになる。そして、小舟をひっくり返しそうな波が何度か押し寄せてくるも、表面的にはけっこうな余裕をもって回避される。しかし、本当の問題は波ではなかった。問題は宙吊り状態にある航海そのものだった。
というわけで、結婚したいんだったらとっとと既成事実(子供)を作って、勢いに任せて結ばれたほうがいいのかもしれない。あまり引き延ばしていると、本作のように周りまでとばっちりを受けてしまう。何せ2人が既婚だったら、宝部夫人の脅迫は無効になるわけで、お兄さんは離縁せずに済んだはずだから……。ともあれ、人間というのは存在するだけで他者に影響を与えずにはいられないのであり、それをいちいち気にしていたら胃がもたないってことなのだろうな。我々は蟻を踏みつぶしながら道を歩いている。