Page Topics
- 22 : 星新一『ひとにぎりの未来』(1969)
- 27 : 夏目漱石『硝子戸の中』(1915)
- 30 : アガサ・クリスティ『牧師館の殺人』(1930)
2000.12.22 (Fri)
▲星新一『ひとにぎりの未来』(1969)

★★★
新潮文庫 / 1980.5
ISBN 4-10-109821-2 【Amazon】
短編集。「コビト」、「古びた旅館で」、「怪盗X」、「塔」、「にこやかな男」、「お待ち下さい」、「拳銃の感触」、「異変」、「愛の作用」、「成熟」、「はじまり」、「遠距離通勤時代」、「爆発」、「うちの子に限って」、「極秘の室」、「第一部第一課長」、「代償」、「新しい装置」、「かくれ家」、「感謝の日々」、「妙な幽霊」、「流行の病気」、「進歩」、「依頼主」、「番号をどうぞ」、「気の毒な症状」、「ある建物」、「犯罪の舞台」、「破滅の時」、「幸運の副産物」、「なわばり」、「くさび」、「お祈り」、「世界の終幕」、「帰郷の手続き」、「はい」、「自信にみちた生活」、「平和の神」、「涙の雨」、「フィナーレ」の40編。
面白かったのは、「拳銃の感触」、「成熟」、「感謝の日々」、「世界の終幕」、「涙の雨」の5編。
以下、各短編について。
「コビト」
サーカスで見せ物にされているコビトに世論が同情するが……。
とんでもないちゃぶ台返し。フリークスだからって舐めちゃいけねー。
「古びた旅館で」
離婚予定の夫婦が旅館に泊まる。
愛は強し。そりゃ、心中 VS 離婚じゃ前者の方に分があるわな。
「怪盗X」
会社の金庫から現金が盗まれる。
これまたとんでもないちゃぶ台返し。あらゆる「事件」の裏には必ず陰謀があるので、我々庶民は眉に唾をつけて臨まなければならない。って、どこの落合信彦ですか。
「塔」
国境に塔ができたのを機に、2つの国が戦争になる。
これは文章が良い。移ろいゆく戦況を淡々と叙述していて凄味がある。
「にこやかな男」
大黒さまが信者のために働きに出る。
面が福々しいからなかなか職にありつけない。
「お待ち下さい」
地球を出発した宇宙船が未知の惑星に着陸する。
日本のお役所仕事を戯画化したような内容。せっかくの外交も、その予備段階でぐだぐだになってしまう。
「拳銃の感触」
逃走中の強盗が青年を人質にして窮地を切り抜けようとするが……。
強盗の思惑は青年の思惑によって無効化され、さらに彼我の立場が逆転してしまう。これは良くできた若手芸人のコントみたい。バラエティ番組で流すと面白そうだ。
「異変」
自動調理装置に全て依存している時代。人間は誰一人として調理法をおぼえていなかった。
仮に自動調理装置ができたとしても、趣味としての料理は続いていくような気がする。手間暇かけるのが気持ち良いってこともあるし。
「愛の作用」
爺さんが耄碌するのを防ぐべく、死んだ婆さんのロボットを拵える。
ウェットな商品の裏には、実はドライな商魂が潜んでいる。感動を押し売りする映画みたい。
「成熟」
出し抜くか出し抜かれるか。犯罪者3人の葛藤が描かれる。
3人の利害を論理的に突き詰めていく筋立てと、疑心暗鬼を経て成熟するラストが素晴らしい。陳腐な言い草だけど、これはクールだね。
「はじまり」
エヌ氏が信じられないものを目撃する。
確かに、自殺報道が増えると自殺者も増えるらしいから、人の行動は流行に影響されやすいのかもしれない。それにしても、円盤で飛んでいった人たちはどこに行ったのだろう……。
「遠距離通勤時代」
便利な遠距離通勤をしている。
遠距離通勤最大のネックは、自由時間の削減と満員電車の不快感。この小説ではそれらを上手く解消している。
「爆発」
外出も食事も徹底的に管理されている社会。
意外なラストだけどちょっと微妙かな。これはフロイト先生の出番だ。
「うちの子に限って」
拘留中の息子を解放すべく警官に賄賂を渡す。
賄賂って社会的地位の低い人間よりも、上の人間のほうによく効くんじゃないかと思う。巡査は断っても警視なら承諾するとか。
「極秘の室」
A国のスパイがB国に潜入し、その国家機密に肉薄する。
恐ろしく皮肉なオチ。これを聞かされた後のスパイの反応を想像してしまう。
「第一部第一課長」
役所にきたエヌ氏が色々な部署をたらい回しにされる。
効率化すると職にあぶれる奴が大勢出てくるわけで、だから役所のたらい回しはデフォルトなのかもしれない。
「代償」
ポモ星からやってきた宇宙人を接待する。
欲望を逆手にとる宇宙人がグッドジョブ過ぎる。
「新しい装置」
通話相手が実体化する電話。
え? 複製にダメージを与えると本体にもダメージいくの? まるでスタンドみたい。
「かくれ家」
逃亡中の犯罪者が医者の紹介で隠れ家へ。
想定内のオチだけどアイディアはなかなか。
「感謝の日々」
食事、通勤、化粧と、全てが自動化された時代。
感謝っていうのは自然に心から沸き上がってくるものであって、わざわざ制度を設けて感謝させるっていうのはお門違いだと思う。勤労感謝の日とか、勤労感謝の日とか、勤労感謝の日とか。
「妙な幽霊」
エヌ氏に女の幽霊がとりつく。
それほど嬉しがっていないということは、幽霊の容姿はあまり良くないということなのか。
「流行の病気」
脳炎の予防薬を飲まなかった男が、脳炎にかかって医者に行く。
科学が発達すればするほど、政府の管理体制はきつくなっていく。
「進歩」
人間の代わりにロボットが労働する時代。
投資の対象が自分ではなく他者(ロボット)になったってことか。ロボットを操るのは夫、夫を操るのは妻。
「依頼主」
泥棒に盗みの依頼がくる。
ラストのずれっぷりがちょっぴり可笑しい。
「番号をどうぞ」
休暇旅行中のエヌ氏にアクシデントが起きる。
SFが一貫して示し続けてきたのは、科学の発展による管理社会の窮屈さなのかな。
「気の毒な症状」
神経科を訪ねてきた青年、自分は誰かに監視されていると訴える。
まあどこかで読んだような話。確かに気の毒だ。
「ある建物」
宇宙船が辿り着いた惑星には、街はあるものの住民の姿がなかった。
これで死ねれば本望じゃないか? どうせ死ぬんだったら快楽を尽くしてから死にたい。
「犯罪の舞台」
強盗団が映画撮影を装って銀行を襲撃する。
平和でよろしい。
「破滅の時」
異星人が地球に不時着。地球の破滅を予告して死亡する。
破滅の原因を知らされてないから人類は大慌て。全ての可能性の芽を摘もうと躍起になる。
「幸運の副産物」
宇宙連盟に加入した地球だったが、開港のときの悶着を未だに引きずっている。
これまたピリッと風刺が効いている。
「なわばり」
税務署員が会社を調査する。
警察なんかは本庁と所轄で頻繁に縄張り争いをするそうだけど、事件によっては本作みたいなことも普通に起こってそうだ。
「くさび」
倦怠期でお互いにうんざりしている夫婦。ある日妻が妊娠を訴えるが……。
これは解釈に悩むな。妻の主張が正しい場合、最初に見せた医者もキチガイということになる。あれの存在を認識しているのは、妻、女医、婦人警官の3人だから、女だけに見えてるってことなのかな? まあ、不条理ものだから別に理屈をつける必要もないのだけど。
「お祈り」
エヌ氏の前にスフィンクスが現れる。
こういう契約関係があるんだったら神に祈ってやってもいいぞ。
「世界の終幕」
エヌ氏の家に小包が届く。それは世界の核兵器を一斉に爆発させる装置だった。
うわ、すんごいブラックなオチ! これ、日本だけでも毎年数万人の自殺者が出てるわけだから、押す奴はけっこう出てきそうだ……。
「帰郷の手続き」
ポミ星の開発事業で大金を稼いだエヌ氏が、10年ぶりに地球に帰ってくる。
星新一のお役所風刺は筋金入りだなあ。そういえば、これが書かれた頃は消費税なんて無かったのだった。日本ではキチガイみたいに年々新しい税が生み出されていく。
「はい」
コンピュータの命令に逐一従う人生。
過去、現在、未来と人間はずーっと奴隷でいなきゃなんないみたい。
「自信にみちた生活」
優柔不断な男が、身上相談機のおかけで自信にみちた生活を送るようになる。
直前の「はい」もそうだったけど、人は誰かに決断してもらうことで安心できるのだな。今回の商品はアフターサービスも万全だし……。
「平和の神」
エヌ氏が天使の世界に連れてってもらう。
「戦争の神」と「平和の神」の設定が上手い。少年向け学習誌に載せたい一品。
「涙の雨」
広告代理店の部長が日本中に「涙」を流行らす。
私は予算をたっぷりもらって、それ(引用者註 <なみだ計画>のこと)にとりかかった。予想以上に順調だった。みんな泣くのが好きなのだ。下地は充分にあった。肥沃な土壌が、種のまかれるのを待ちかまえていたようなものだ。(p.270)
こういうのを読むと、今も昔も世の中の原理は変わっていないのだなと思う。感動は正義だ! と言わんばかりに浪花節が闊歩し、皆で安い涙を垂れ流す。
「フィナーレ」
昏睡状態に陥った老人が臨死体験をする。
宗教のアナロジーとして読んだ。ネタさえ割れなければ、宗教は人生を楽にしたろうにねえ。残念ながら我々は、神がいないことを知ってしまった。
2000.12.27 (Wed)
▲夏目漱石『硝子戸の中』(1915)

★★★
新潮文庫 / 1952.7
ISBN 4-10-101015-3 【Amazon】
エッセイ集。病気療養中の著者が、自宅の硝子戸の中から外を見て思い出話を語っている。
これは「随想」と呼んだほうがしっくりくるかも。犬との不思議な共鳴とか、過去と現在を繋ぐ奇妙な偶然とか、死についての独自の見解とか、話題は多岐にわたっている。漱石のエッセイを読むのは今回が初めてだったけれど、彼の誠実な人柄が滲み出ていてなかなか良かった。漱石は『三四郎』や『それから』で描いたような「無意識の偽善」が殊の外嫌いだったらしく、平生からその方面への感度が高かったようである。さすが「則天去私」を旗印にしただけあって、この人は自身に対しても潔癖であったのだなと感心したのだった。
収録作はまえがき・あとがきを含めて全39作。各編は小説体で統一されており、まるでフィクションのようにキレのある作品が散見できる。とりわけ旧友のOと再会する話なんか、不自然なくらいオチが決まっていた。
2000.12.30 (Sat)
▼アガサ・クリスティ『牧師館の殺人』(1930)
★★
The Murder at the Vicarage / Agatha Christie
田村隆一 訳 / ハヤカワ文庫 / 1978.7
ISBN 4-15-070035-4 【Amazon】
ミス・マープルもの。牧師館の書斎で大佐の銃殺体が発見される。
ゴシップ好きの老婦人が八面六臂の大活躍をするシリーズ。欲望うず巻く寒村に凄惨な殺人事件と、物語は横溝ミステリばりの暗く重苦しい雰囲気に包まれている。しかし、横溝ミステリと決定的に異なるのは、このシリーズにはユーモアが添えられているところだろう。ゴシップを撒き散らす有閑マダムたちの滑稽さが、鬱鬱とした世界における一服の清涼剤になっている。……というのはまあ、半分くらいは嘘だけど。
視点は牧師の一人称。事件とは関係ない人たちがめいめい余計な行動をとった結果、語り手には事件が入り組んでいるように見える。とはいえ、それは煙幕となる登場人物が多いからで、小説としては無駄に長くてだれている。
ミステリ要素も良くない。心理的盲点をついた隠蔽トリックなんか、似たようなコンセプトの『書斎の死体』と比べて一段落ちている。どうも本作は、田園ミステリという趣向が先行して、いつもの面白さを削いでいるような気がした。