2000.12c / Pulp Literature

2000.12.22 (Fri)

星新一『ひとにぎりの未来』(1969)

ひとにぎりの未来(97x140)

★★★
新潮文庫 / 1980.5
ISBN 4-10-109821-2 【Amazon

短編集。「コビト」、「古びた旅館で」、「怪盗X」、「塔」、「にこやかな男」、「お待ち下さい」、「拳銃の感触」、「異変」、「愛の作用」、「成熟」、「はじまり」、「遠距離通勤時代」、「爆発」、「うちの子に限って」、「極秘の室」、「第一部第一課長」、「代償」、「新しい装置」、「かくれ家」、「感謝の日々」、「妙な幽霊」、「流行の病気」、「進歩」、「依頼主」、「番号をどうぞ」、「気の毒な症状」、「ある建物」、「犯罪の舞台」、「破滅の時」、「幸運の副産物」、「なわばり」、「くさび」、「お祈り」、「世界の終幕」、「帰郷の手続き」、「はい」、「自信にみちた生活」、「平和の神」、「涙の雨」、「フィナーレ」の40編。

面白かったのは、「拳銃の感触」、「成熟」、「感謝の日々」、「世界の終幕」、「涙の雨」の5編。

以下、各短編について。

「コビト」

サーカスで見せ物にされているコビトに世論が同情するが……。

とんでもないちゃぶ台返し。フリークスだからって舐めちゃいけねー。

「古びた旅館で」

離婚予定の夫婦が旅館に泊まる。

愛は強し。そりゃ、心中 VS 離婚じゃ前者の方に分があるわな。

「怪盗X」

会社の金庫から現金が盗まれる。

これまたとんでもないちゃぶ台返し。あらゆる「事件」の裏には必ず陰謀があるので、我々庶民は眉に唾をつけて臨まなければならない。って、どこの落合信彦ですか。

「塔」

国境に塔ができたのを機に、2つの国が戦争になる。

これは文章が良い。移ろいゆく戦況を淡々と叙述していて凄味がある。

「にこやかな男」

大黒さまが信者のために働きに出る。

面が福々しいからなかなか職にありつけない。

「お待ち下さい」

地球を出発した宇宙船が未知の惑星に着陸する。

日本のお役所仕事を戯画化したような内容。せっかくの外交も、その予備段階でぐだぐだになってしまう。

「拳銃の感触」

逃走中の強盗が青年を人質にして窮地を切り抜けようとするが……。

強盗の思惑は青年の思惑によって無効化され、さらに彼我の立場が逆転してしまう。これは良くできた若手芸人のコントみたい。バラエティ番組で流すと面白そうだ。

「異変」

自動調理装置に全て依存している時代。人間は誰一人として調理法をおぼえていなかった。

仮に自動調理装置ができたとしても、趣味としての料理は続いていくような気がする。手間暇かけるのが気持ち良いってこともあるし。

「愛の作用」

爺さんが耄碌するのを防ぐべく、死んだ婆さんのロボットを拵える。

ウェットな商品の裏には、実はドライな商魂が潜んでいる。感動を押し売りする映画みたい。

「成熟」

出し抜くか出し抜かれるか。犯罪者3人の葛藤が描かれる。

3人の利害を論理的に突き詰めていく筋立てと、疑心暗鬼を経て成熟するラストが素晴らしい。陳腐な言い草だけど、これはクールだね。

「はじまり」

エヌ氏が信じられないものを目撃する。

確かに、自殺報道が増えると自殺者も増えるらしいから、人の行動は流行に影響されやすいのかもしれない。それにしても、円盤で飛んでいった人たちはどこに行ったのだろう……。

「遠距離通勤時代」

便利な遠距離通勤をしている。

遠距離通勤最大のネックは、自由時間の削減と満員電車の不快感。この小説ではそれらを上手く解消している。

「爆発」

外出も食事も徹底的に管理されている社会。

意外なラストだけどちょっと微妙かな。これはフロイト先生の出番だ。

「うちの子に限って」

拘留中の息子を解放すべく警官に賄賂を渡す。

賄賂って社会的地位の低い人間よりも、上の人間のほうによく効くんじゃないかと思う。巡査は断っても警視なら承諾するとか。

「極秘の室」

A国のスパイがB国に潜入し、その国家機密に肉薄する。

恐ろしく皮肉なオチ。これを聞かされた後のスパイの反応を想像してしまう。

「第一部第一課長」

役所にきたエヌ氏が色々な部署をたらい回しにされる。

効率化すると職にあぶれる奴が大勢出てくるわけで、だから役所のたらい回しはデフォルトなのかもしれない。

「代償」

ポモ星からやってきた宇宙人を接待する。

欲望を逆手にとる宇宙人がグッドジョブ過ぎる。

「新しい装置」

通話相手が実体化する電話。

え? 複製にダメージを与えると本体にもダメージいくの? まるでスタンドみたい。

「かくれ家」

逃亡中の犯罪者が医者の紹介で隠れ家へ。

想定内のオチだけどアイディアはなかなか。

「感謝の日々」

食事、通勤、化粧と、全てが自動化された時代。

感謝っていうのは自然に心から沸き上がってくるものであって、わざわざ制度を設けて感謝させるっていうのはお門違いだと思う。勤労感謝の日とか、勤労感謝の日とか、勤労感謝の日とか。

「妙な幽霊」

エヌ氏に女の幽霊がとりつく。

それほど嬉しがっていないということは、幽霊の容姿はあまり良くないということなのか。

「流行の病気」

脳炎の予防薬を飲まなかった男が、脳炎にかかって医者に行く。

科学が発達すればするほど、政府の管理体制はきつくなっていく。

「進歩」

人間の代わりにロボットが労働する時代。

投資の対象が自分ではなく他者(ロボット)になったってことか。ロボットを操るのは夫、夫を操るのは妻。

「依頼主」

泥棒に盗みの依頼がくる。

ラストのずれっぷりがちょっぴり可笑しい。

「番号をどうぞ」

休暇旅行中のエヌ氏にアクシデントが起きる。

SFが一貫して示し続けてきたのは、科学の発展による管理社会の窮屈さなのかな。

「気の毒な症状」

神経科を訪ねてきた青年、自分は誰かに監視されていると訴える。

まあどこかで読んだような話。確かに気の毒だ。

「ある建物」

宇宙船が辿り着いた惑星には、街はあるものの住民の姿がなかった。

これで死ねれば本望じゃないか? どうせ死ぬんだったら快楽を尽くしてから死にたい。

「犯罪の舞台」

強盗団が映画撮影を装って銀行を襲撃する。

平和でよろしい。

「破滅の時」

異星人が地球に不時着。地球の破滅を予告して死亡する。

破滅の原因を知らされてないから人類は大慌て。全ての可能性の芽を摘もうと躍起になる。

「幸運の副産物」

宇宙連盟に加入した地球だったが、開港のときの悶着を未だに引きずっている。

これまたピリッと風刺が効いている。

「なわばり」

税務署員が会社を調査する。

警察なんかは本庁と所轄で頻繁に縄張り争いをするそうだけど、事件によっては本作みたいなことも普通に起こってそうだ。

「くさび」

倦怠期でお互いにうんざりしている夫婦。ある日妻が妊娠を訴えるが……。

これは解釈に悩むな。妻の主張が正しい場合、最初に見せた医者もキチガイということになる。あれの存在を認識しているのは、妻、女医、婦人警官の3人だから、女だけに見えてるってことなのかな? まあ、不条理ものだから別に理屈をつける必要もないのだけど。

「お祈り」

エヌ氏の前にスフィンクスが現れる。

こういう契約関係があるんだったら神に祈ってやってもいいぞ。

「世界の終幕」

エヌ氏の家に小包が届く。それは世界の核兵器を一斉に爆発させる装置だった。

うわ、すんごいブラックなオチ! これ、日本だけでも毎年数万人の自殺者が出てるわけだから、押す奴はけっこう出てきそうだ……。

「帰郷の手続き」

ポミ星の開発事業で大金を稼いだエヌ氏が、10年ぶりに地球に帰ってくる。

星新一のお役所風刺は筋金入りだなあ。そういえば、これが書かれた頃は消費税なんて無かったのだった。日本ではキチガイみたいに年々新しい税が生み出されていく。

「はい」

コンピュータの命令に逐一従う人生。

過去、現在、未来と人間はずーっと奴隷でいなきゃなんないみたい。

「自信にみちた生活」

優柔不断な男が、身上相談機のおかけで自信にみちた生活を送るようになる。

直前の「はい」もそうだったけど、人は誰かに決断してもらうことで安心できるのだな。今回の商品はアフターサービスも万全だし……。

「平和の神」

エヌ氏が天使の世界に連れてってもらう。

「戦争の神」と「平和の神」の設定が上手い。少年向け学習誌に載せたい一品。

「涙の雨」

広告代理店の部長が日本中に「涙」を流行らす。

私は予算をたっぷりもらって、それ(引用者註 <なみだ計画>のこと)にとりかかった。予想以上に順調だった。みんな泣くのが好きなのだ。下地は充分にあった。肥沃な土壌が、種のまかれるのを待ちかまえていたようなものだ。(p.270)

こういうのを読むと、今も昔も世の中の原理は変わっていないのだなと思う。感動は正義だ! と言わんばかりに浪花節が闊歩し、皆で安い涙を垂れ流す。

「フィナーレ」

昏睡状態に陥った老人が臨死体験をする。

宗教のアナロジーとして読んだ。ネタさえ割れなければ、宗教は人生を楽にしたろうにねえ。残念ながら我々は、神がいないことを知ってしまった。

>>Author - 星新一

2000.12.27 (Wed)

夏目漱石『硝子戸の中』(1915)

硝子戸の中(97x140)

★★★
新潮文庫 / 1952.7
ISBN 4-10-101015-3 【Amazon

エッセイ集。病気療養中の著者が、自宅の硝子戸の中から外を見て思い出話を語っている。

これは「随想」と呼んだほうがしっくりくるかも。犬との不思議な共鳴とか、過去と現在を繋ぐ奇妙な偶然とか、死についての独自の見解とか、話題は多岐にわたっている。漱石のエッセイを読むのは今回が初めてだったけれど、彼の誠実な人柄が滲み出ていてなかなか良かった。漱石は『三四郎』『それから』で描いたような「無意識の偽善」が殊の外嫌いだったらしく、平生からその方面への感度が高かったようである。さすが「則天去私」を旗印にしただけあって、この人は自身に対しても潔癖であったのだなと感心したのだった。

収録作はまえがき・あとがきを含めて全39作。各編は小説体で統一されており、まるでフィクションのようにキレのある作品が散見できる。とりわけ旧友のOと再会する話なんか、不自然なくらいオチが決まっていた。

>>Author - 夏目漱石

2000.12.30 (Sat)

アガサ・クリスティ『牧師館の殺人』(1930)

★★
The Murder at the Vicarage / Agatha Christie
田村隆一 訳 / ハヤカワ文庫 / 1978.7
ISBN 4-15-070035-4 【Amazon

ミス・マープルもの。牧師館の書斎で大佐の銃殺体が発見される。

ゴシップ好きの老婦人が八面六臂の大活躍をするシリーズ。欲望うず巻く寒村に凄惨な殺人事件と、物語は横溝ミステリばりの暗く重苦しい雰囲気に包まれている。しかし、横溝ミステリと決定的に異なるのは、このシリーズにはユーモアが添えられているところだろう。ゴシップを撒き散らす有閑マダムたちの滑稽さが、鬱鬱とした世界における一服の清涼剤になっている。……というのはまあ、半分くらいは嘘だけど。

視点は牧師の一人称。事件とは関係ない人たちがめいめい余計な行動をとった結果、語り手には事件が入り組んでいるように見える。とはいえ、それは煙幕となる登場人物が多いからで、小説としては無駄に長くてだれている。

ミステリ要素も良くない。心理的盲点をついた隠蔽トリックなんか、似たようなコンセプトの『書斎の死体』と比べて一段落ちている。どうも本作は、田園ミステリという趣向が先行して、いつもの面白さを削いでいるような気がした。