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- 04 : ブライアン・フリーマントル『英雄』(1994)
- 08 : 三島由紀夫『宴のあと』(1960)
2001.1.4 (Thu)
▽ブライアン・フリーマントル『英雄』(1994)

★★★★
No Time for Heroes / Brian Freemantle
松本剛史 訳 / 新潮文庫 / 2001.1
ISBN 4-10-216537-1 【Amazon】
ISBN 4-10-216538-X 【Amazon】
ダニーロフ&カウリー・シリーズ。ワシントンで発見された惨殺死体はロシア大使館員のものだった。口中を銃で撃つという手口から、マフィアの関与が濃厚。再びダニーロフとカウリーがコンビを組む。
『猟鬼』【Amazon】に続くシリーズ2作目。ロシア民警のダニーロフとFBIのカウリーが、国の違いを越えて事件を捜査する。ロシア民警では賄賂が横行しているため、ダニーロフはまずマフィアの息がかかった上司から身を守らなければならない。また、事件にはロシアの外交官が関わっているため、政府上層部は外交レベルでなるべく穏便にすませたい。ダニーロフにしてみれば、まともに捜査なんてできないくらい制約があるのだけど、そこをカウリーと協力して何とか乗り切っていく。
今回も2人の関係が絶妙だった。ダニーロフとカウリーは友情で結ばれながらも互いに隠し事があって、いつも通り腹の探り合いをする。ダニーロフは不倫の真っ只中で、相手の夫がマフィア絡みの不正に関わっている。一方のカウリーはアル中だった過去があり、今になって症状がぶり返しつつある。そのうえ、今回はハニートラップに引っ掛かって困った立場に……。と、このような個人的問題が事件と並行して語られ、解決に影響を与える仕組みになっている。
上司からのプレッシャーやプライベートの絡ませ方など、物語が緻密で面白かった。特に今回はハニートラップの処理、すなわち脅迫写真を無効にするロジックがよくできている。外交レベルの解決も、前回の事件を活用していて思わず唸ってしまうほど。「復讐」がやや荒唐無稽だったものの、総じて隙のない知的な小説だった。
2001.1.8 (Mon)
▲三島由紀夫『宴のあと』(1960)

★★★
新潮文庫 / 1969.7
ISBN 4-10-105016-3 【Amazon】
料亭を経営する中年女が、元大臣のご隠居と結婚する。その後、ご隠居が都知事選に出馬するというので、女は身を粉にして選挙運動に協力する。
有田八郎をモデルにした小説で、同人からプライバシー侵害の裁判を起こされている。
商才に長けたやり手のおばちゃんと、保守的で観念的で世間知らずなご老人。どこまでも対称的な2人が結ばれるという寸法だけど、しかしこれが単なる恋愛関係でないのが複雑なところ。どうやらおばちゃんはご老人本人にではなく、彼の「お墓」に惚れ込んでいるようなのだ。無縁仏になるのは嫌だとか、ご老人と一緒の墓に入りたいだとか、そういう前時代的な強迫観念を抱いている。もちろん、この迷信じみた思い込みを額面通りに受け取ってはいけないのだろう。ご老人のお墓は一種の「象徴」で、そこには彼の名家としての権威がヤクザの刺青のごとく刻印されている。つまり、おばちゃんがメロメロなのはその権威に対してということになる。
ところが、その権威は既に苔むしていて、おばちゃんの献身も虚しく空回りするばかり。ご老人の思想や矜持は悲しいくらいに非実用的で、何度も何度もおばちゃんの足を引っ張っている。役立たずの癖に態度だけはでかいご老人は、今風に言えば「ダメ男」ってやつだろう。こういう骨董品が淘汰されるのは時代の必然であり、最後におばちゃんが大胆な行動に打って出るのも納得できる。何せ、おばちゃんの人生はまだまだこれからだからね。
三人称の地の文がときおり説明的になっているのが気になった。語り手が2人のすれ違いに過度に踏み込むことで、作者が教訓を垂れているような野暮ったさが生まれている。これってあまりスマートではないと思うのだけどどうだろう?