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- 13 : ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』(1944)
- 15 : 九重貢『ウルフと呼ばれた男』(1993)
- 19 : 陳舜臣『中国の歴史 (2)』(1986)
2001.3.13 (Tue)
▽ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』(1944)
★★★★
Ficciones / Jorge Luis Borges
鼓直 訳 / 岩波文庫 / 1993.11
ISBN 4-00-327921-2 【Amazon】
短編集。「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」、「アル・ムターシムを求めて」、「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」、「円環の廃墟」、「バビロニアのくじ」、「ハーバート・クエインの作品の検討」、「バベルの図書館」、「八岐の園」、「記憶の人、フネス」、「刀の形」、「裏切り者と英雄のテーマ」、「死とコンパス」、「隠れた奇跡」、「ユダについての三つの解釈」、「結末」、「フェニックス宗」、「南部」の17編。
二部構成の幻想小説集。哲学的・観念的な話が多くて、十分に理解したとは言い難いけれど、分からないなりに雰囲気を味わうことができた。
気に入ったのは、「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」、「記憶の人、フネス」、「死とコンパス」、「隠れた奇跡」、「結末」の5編。後半のプロット重視の短編に偏っている。
以下、各短編について。
第一部「八岐の園」(1941)
「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」
ビオイ=カサーレスが出てくるエッセイ風の短編。同じ百科事典にも拘わらず、ボルヘスのには載っていなくて、ビオイのには載っているという、架空の国ウクバールの在り方が面白い。この一事からしてわくわくさせる。また、形容詞の集積によって表される名詞もユニークだ。
「アル・ムターシムを求めて」
『アル・ムターシムを求めて』という架空の小説の書評。挿画版にはドロシー・L・セイヤーズの序文がついているらしい……。
書評というのは、それ自身で完結した立派な芸術品なのだと改めて確信した。恐ろしく濃密な文章が、ありもしない小説を鮮やかに炙り出している。
「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」
ピエール・メナールが書いた『ドン・キホーテ』について。
「円環の廃墟」
魔術師とか夢とか幻影とか。
「バビロニアのくじ」
バビロニアでくじ引きが流行する。
そのくじはハズレを引くと刑罰を受けるとんでもない代物で、引くことが社会的なステータスになっている。後半は哲学的な話に。
「ハーバート・クエインの作品の検討」
これも架空の作家を扱った評論。
「バベルの図書館」
永遠を越えて存在する、バベルの図書館の話。
「八岐の園」
任務延期の真相をめぐる、推理小説風の話。
第二部「工匠集」(1944)
「記憶の人、フネス」
人間記憶装置フネスの話。
普通の人と比べて、物の受容の仕方がまったく異なるのが面白い。何でもかんでも精密に記憶する能力って、聴覚でいえば絶対音感になるだろうか。厳密な違いを認識しすぎて、事物を普通名詞でくくれないのは驚異だ。
「刀の形」
顔に遺恨の刀傷がついたイギリス人。彼がその傷の由来を語る。
アイルランド独立運動に関連している。ミステリ風の筋立てだけど、今読むとまあ普通かなあ、と。
「裏切り者と英雄のテーマ」
劇場で殺された謀反人の話。
英雄の死(同時に裏切り者の死でもある)の劇的効果をあげるため、フィクションを利用する。
「死とコンパス」
名探偵レンロットが連続殺人事件を捜査する。その際、ユダヤ教の律法的解釈を用いる。
犯行現場にメッセージが残してあって、それをよすがに辿っていく。衒学的な雰囲気もさることながら、結末に味わいがあって良かった。
「隠れた奇跡」
1939年のプラハ。ユダヤ人の文学者が、銃殺隊の前に立たされる。
夢の中の図書館に行って神を探すとか言ったり、40万冊の中の1冊の中の1ページの中の1字の中に神がいるとかあったり、これも作品空間が魅力的。ユダヤ人に猶予を与える神さまの奇跡もいかす。
「ユダについての三つの解釈」
異端の神学者(キリスト教)の話。
「結末」
とあるワンシーンを切り取った掌編。ラテンアメリカらしい乾いた調子で引き込まれる。
「フェニックス宗」
フェニックス宗という架空の宗教について。
「南部」
福音教会の牧師が喧嘩に巻き込まれる。
2001.3.19 (Mon)
▽陳舜臣『中国の歴史 (2)』(1986)
★★★★
講談社文庫 / 1990.11
ISBN 4-06-184783-X 【Amazon】
中国史を独自の切り口で語った解説本。この巻では、戦国時代から王莽の時代までを扱っている。
『中国の歴史 (1)』の続編。張儀・蘇秦やら、韓非・李斯やら、色々忘れていたエピソードを思い出すことができた。相変わらず著者の目線は合理的で、『史記』のソース不明確な記述に、「いったい誰から取材したのでしょうか」などと突っ込みを入れている。現代人ならではの目新しい解釈が、随所に散見できて刺激的だった。
この巻では馬王堆の章が一番面白かった。戦国時代の遺跡(馬王堆)を発掘してみたら、何と活きのいい(?)中年女性の死体が出てきたという。2000年も腐らずに死体が残ってるところにロマンを感じた。2000年前の人ってどんな体型をしていたのだろう? とか、顔つきは今とどう違うのだろう? とか、肉体の造型に興味がわいてくる。やっぱり紙の上の歴史よりも、こういう生の物体のほうが好奇心をそそる。
あとは、『史記』列伝の最初と最後に金が絡んでいるという指摘が興味深い。貧乏な「白夷列伝」で始まって、富裕な「貨殖列伝」で終わっている。確かにこの配置は司馬遷が意識してやってそうだ。