Page Topics
- 21 : 佐野眞一『誰が「本」を殺すのか』(2001)
- 23 : ガブリエル・ガルシア=マルケス『エレンディラ』(1972)
- 25 : 澤田一矢『大相撲の事典』(1995)
- 26 : 「相撲」編集部編『決定版!大相撲観戦道場』(2000)
- 29 : 陳舜臣『中国の歴史 (3)』(1986)
- 31 : 舞城王太郎『煙か土か食い物』(2001)
2001.3.21 (Wed)
▼佐野眞一『誰が「本」を殺すのか』(2001)

★
プレジデント社 / 2001.2
ISBN 4-8334-1716-2 【Amazon】
ISBN 4-10-131635-X 【Amazon】(文庫)
ISBN 4-10-131636-8 【Amazon】(文庫)
出版業界の問題を網羅的に取材した本。「書店」、「流通」、「版元」、「地方出版」、「編集者」、「図書館」、「書評」、「電子出版」について語っている。
業界の現状を俯瞰するにはいいかもしれないけれど、如何せん著者のアナクロ感覚と特定人物に対するルサンチマンが酷くてしょうがない。「昔は良かった」などと錆びた価値観を押しつけるのは、老害の末期的症状ではなかろうか。
同じテーマを別の著者で書いてもらいたい。この人では宝の持ち腐れだ。
2001.3.23 (Fri)
▽ガブリエル・ガルシア=マルケス『エレンディラ』(1972)
★★★★
La Increible Y Triste Historia De La Candida Erendira Y De Su Abuela Desalmada / Gabriel Garcia Marquez
鼓直 木村栄一郎 訳 / ちくま文庫 / 1988.12
ISBN 4-480-02277-5 【Amazon】
短編集。「大きな翼のある、ひどく年取った男」、「失われた時の海」、「この世でいちばん美しい水死人」、「愛の彼方の変わることなき死」、「幽霊船の最後の航海」、「奇跡の行商人、善人のブラカマン」、「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」の7編。
摩訶不思議南米ワールドが堪能できる驚異の短編集だった。地域に密着したような自然な感じの法螺話が楽しい。ラテンアメリカだったら有翼人と遭遇するのもあり得そうだし、緑色の血が流れる老婆がいてもおかしくないような気がする。
以下、各短編について。
「大きな翼のある、ひどく年取った男」
中庭で翼を生やした老人が倒れていた。小屋に閉じこめられ、見せ物にされる。
お祭り騒ぎのなか、仔牛用の鉄の烙印で脇腹を焼かれたのには笑った。老人は「天使」と呼ばれているくせに、格好がみすぼらしいから敬意を払われない。
天使にとって代わる見せ物が、これまた強烈なはったり的存在で笑える。乙女の頭がついた毒蜘蛛って、まるで日本で流行った「人面犬」みたいだ。ラテンアメリカにおいては、この手の怪異は日常茶飯事なのだな。★★★★。
「失われた時の海」
アメリカ人の金持ちがやってきて、村人たちとユニークな取り引きをする。
村人の特技と引き替えに金を支払うという。娼婦に100人の男と相手をさせたり、老人とチェッカー勝負をして莫大な借金を背負わせたり、18世紀の山師みたいで存在感がある。★★★。
「この世でいちばん美しい水死人」
村に漂流してきた大男の死体。
女たちが彼の虜になるのが良い。男たちが水葬に処そうというところをさりげなく邪魔するのが健気だ。★★★★。
「愛の彼方の変わることなき死」
余命幾ばくもない上院議員の話。
紙で作った鳥がまるで生きてるみたいに飛び回る。普通は比喩だと思うけれど、ラテンアメリカが舞台だからつい「マジもんでは?」と思ってしまう。★★★。
「幽霊船の最後の航海」
村人を見返したい男が船を誘導して……。
あり得ないくらいスケールがでかくて驚いた。★★★。
「奇跡の行商人、善人のブラカマン」
超常的な奇跡を見せる行商人が、語り手を買い取って弟子にする。
これまたえらい奇想天外な話だった。蛇の毒に犯されて死んだと思ったら、ぶくぶく膨れあがりながらも蘇生してるし、語り手はイエスもびっくりの治癒能力を身につけるし。本書のなかで最もファンタジー度が高い。
あと、行商人の虐待が凄まじいな。少年を監禁して生爪剥がすなんて完全にいかれてる。★★★★。
「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」
祖母が孫娘エレンディラに売春させる。
祖母の無情さが強烈。火事で財産消失した償いとして、実の孫娘に売春させている。こいつは人間じゃねえと思ってたら、ホントに人間離れしていて笑った。砒素で毒殺しようとしても効かないし、爆弾で吹き飛ばされても死なない(「タイム・ボカン」シリーズの悪役トリオかいな)。おまけに、体を流れている血の色は何と緑だ。★★★★。
2001.3.25 (Sun)
▼澤田一矢『大相撲の事典』(1995)
★★
東京堂出版 / 1995.8
ISBN 4-08-761020-9 【Amazon】
相撲観戦の手引きを目的とした用語事典。
微妙に古い本だし、記述も浅いし、イラストも多くない。今読むには隔靴掻痒の感がある。
四股に地鎮の意味があったことと、土左右衛門(どざえもん)の元ネタが江戸時代の幕内力士だったことには素直に驚いた。あと、叩き込み・引き落としの項に、昨今の引き技の多さへの苦言が記されていて面白い。「事典」と銘打ちながら、けっこう著者の価値判断が前に出ている。
それにしても、関連項目を参照するのにハイパーリンクがないのはとても不便だ。今後、この手の辞書・事典の類は、Webでどんどん公開されていってほしい。
2001.3.26 (Mon)
▲「相撲」編集部編『決定版!大相撲観戦道場』(2000)

★★★
ベースボール・マガジン社 / 2000.9
ISBN 4-583-03589-6 【Amazon】
大相撲観戦のための入門書。場所の紹介や決まり手一覧、力士へのアンケートなどを収録している。
ムック本っぽい内容。若乃花(3代目)の引退、貴乃花の不調と、凋落した相撲人気へのテコ入れを目的にしているのかな。とりあえず、「日本相撲史ダイジェスト」と「昭和〜平成 ミニミニ横綱列伝」、「出世双六 〜貴乃花の場合」が良かった。このところ過去の力士への興味が沸いていて、今と昔ではどれくらい相撲のレベルが違うのか、みたいな比較論が気になっている。
2001.3.29 (Thu)
▽陳舜臣『中国の歴史 (3)』(1986)

★★★★
講談社文庫 / 1990.12
ISBN 4-06-184784-8 【Amazon】
中国史を独自の切り口で語った解説本。この巻では、後漢の成立から南北朝時代までを扱っている。
『中国の歴史 (2)』の続編。赤眉の乱を契機に王莽の新王朝を打破し、劉秀が漢王朝を復興させる(実質的には復興でなくて別王朝)。と、ここまでは良かったのだけど、後継者に恵まれなかったり宦官の専横を許したりで国は弱体化。黄巾の乱が勃発し、豪族たちが覇を争う三国時代の幕開けにまで至る。以降、中国は400年ものあいだ──晋によるわずかな統一期間を除いて──分裂が常態化することになる。
前漢では劉邦の死後、皇后と外戚が権力を握って国を脅かしていた。それを教訓とした後漢では外戚を排除する方針をうち立てるも、代わりに宦官が台頭して国が滅んでしまう。また、三国時代の魏は皇族の力をそいだことで司馬氏に国を乗っ取られてしまった。それを教訓とした晋では皇族に力を持たせることで国の安定を図るも、代わりに八王の乱を引き起こして自壊してしまう。政治というのは難しいもので、過去の失敗に学んで新しい制度を敷いても、必ずどこかで綻びが出るから恐ろしい。
>>『中国の歴史 (4)』へ
2001.3.31 (Sat)
▽舞城王太郎『煙か土か食い物』(2001)

★★★★
講談社ノベルス / 2001.3 / 第19回メフィスト賞
ISBN 4-06-182172-5 【Amazon】
ISBN 4-06-274936-X 【Amazon】(文庫)
サンディエゴの救命外科医・奈津川四郎。福井に住む彼の母が、連続主婦殴打事件の被害に遭った。帰郷した四郎が犯人の捜索に乗り出す。
俺は噴火する。発作的にルパンの車の中で暴れる。俺は竜巻になる。ウィンドウを拳で殴りダッシュボードを蹴りつける。特にウィンドウのほうは助手席横のものもフロントガラスも粉々に砕いてしまうつもりだ。ガンガンガンガン! 俺の肘が当たってルパンが悲鳴を上げる。知るか。ファックイット! ファックオール! ファックエヴリシング! ガンガンガンガンガン! (p.29)
表紙通りの破天荒な内容。血と暴力に彩られた家族の物語を、ドライブ感溢れる粗野な言葉遣いで吐き出している。どちらかというと、ミステリというよりはポップ文学の範疇だろうか。パンク・ロック入った強靱な文体と、田舎に根付いた陰惨な情念が、ミステリを媒介にして混ざり合っている。物語は殺人事件を主軸にしているものの、合理的な謎解きはクソ食らえという感じなので、ミステリ読者の受けは悪いかもしれない。
執拗に描かれる家族の葛藤が良い。とにかく、暴力! 暴力! 暴力! の嵐で、家族の病んだ肖像を正面から描ききっている。語り口には味があるし、ミステリには中指おっ立ててるし、こういうぶっ飛んだ小説も面白いなあと思った。