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2001.5.12 (Sat)
▲カミロ・ホセ・セラ『ラ・アルカリアへの旅』(1948)
★★★
Viaje A La Alcarria / Camilo Jose Cela
有本紀明 訳 / 講談社 / 1991.6
ISBN 4-06-205204-0 【Amazon】
三人称視点で淡々と綴った紀行文。旅人セラが行く先々で地元の人たちとコミュニケートする。
抑制の効いた表現の賜物だろうか、ストイックな旅情を感じさせる内容でけっこう良かった。『二人の死者のためのマズルカ』もそうだったけれど、この著者が書くスペインは枯れた感じがして味がある。もう私の中では「スペイン=荒野」という確固たるイメージが出来上がっていて、本書についても茫漠とした大地を思い浮かべながら読んだ。
スペインでは旅といったらそれは徒歩を表すのであり、車やバイクを使うのは邪道なのだなあ。てくてく歩いてそこらにいる地元民と気さくに会話をしている。旅先で出会う人たちはみんな気の良い人たちばかりで、途上国(だよね?)特有の治安の悪さが微塵も見られないのだから凄い。やっぱり地方の人たちというのは、旅人と見ると世話を焼きたくなるものなのか。下心もなさそうで、読んでいて微笑ましい気分になる。
あとは、バスの中での嘔吐はきっついなーと思ったり、身体障害者なんかも普通にいて哀愁を感じたり、外国の王様がお忍びでやってきたという話に胸を躍らせたり、色々エピソードがあって面白かった。
2001.5.15 (Tue)
▽小坂秀二『わが回想の双葉山定次』(1991)
★★★★
読売新聞社 / 1991.10
ISBN 4-643-91093-3 【Amazon】
昭和初期に活躍した横綱・双葉山の相撲を分析した本。
双葉山は戦前・戦中の大横綱。前人未踏の69連勝を達成している。当時は年2場所制であったため、この記録のときは3年間(昭和11年1月から昭和14年1月まで)無敗を誇っていたことになる。
双葉山の戦績を見て驚くのがある時から急に負けなくなったことで、本書によるとそれは地力が増したからのようだ。春秋園事件で繰り上げ入幕して以来、正攻法に徹していた双葉山は番狂わせを演じることがなかった。何場所かは目立たない成績で番付をあげ、連続負け越しも経験しつつ着実に地力をつけていく。そして、時が来てついに双葉山は横綱から白星をあげるようになる。それはまぐれでも何でもなく、実力で横綱を上回ったからで、以降は同じ相手からの連勝が続いていく。従来からの持ち味である「二枚腰」に、体力の増強が重なって無敵の力士となったわけだ。いやー、双葉山って映像もろくに残っていない伝説の存在だから、その強さも話半分だと思っていたのだけど、本書を読むとそれは間違った見解のような気がしてくる。笠置山を中心とした出羽の海勢が、いくら策を練っても勝てないのだから、彼の強さは本物なのだろう。「二枚腰」と呼ばれる強靱な足腰を持った双葉山が、一時代を築いたというのも何となく理解できる。
功利的な立ち合いを一切せず、相手に合わせて立ったというのが格好いい。「後の先」を取るなんていかにも達人って感じだ。それと、右目が見えないのにここまで勝てるのも凄い。相撲取りというよりは、姿三四郎のような武道家のイメージがある。
2001.5.20 (Sun)
▽アントニオ・タブッキ『夢のなかの夢』(1992)
★★★★
Sogni di Sogni / Antonio Tabucchi
和田忠彦 訳 / 青土社 / 1994.9
ISBN 4-7917-5333-X 【Amazon】
実在の人物が見た夢を夢想した連作短編集。全20編。
どれも叙情的な味わいがあって良かった。夢といってもまったくの空想ではなく、伝記的事実に則って創作したものなので、それぞれ人生の一断面を覗くような面白さがある。シリーズ化して、もっと色々な有名人を題材にしてほしいと思った。
以下、各短編について。今回は数が多いので一行程度のメモにした。
「建築家にして飛行家、ダイダロスの夢」
これだけ架空の人物。
「詩人にして宮廷人、プブリウス・オウディウス・ナーソの夢」
夢の中で巨大な蝶に変身している。やっぱり『変身譚』にちなんでるのかね?
「作家にして魔術師、ルキウス・アプレイウスの夢」
『黄金のろば』を踏まえているようだ。驢馬にされたルキウスをアプレイウスが魔術で助ける。
「詩人にして不敬の人、チェッコ・アンジョリエーリの夢」
火だるまになる夢を見たのにはちゃんと訳があった!
「詩人にしてお尋ね者、フランソア・ヴィヨンの夢」
ヴィヨンって武闘派だったのだな。凄い不穏な夢を見ている。
「作家にして破戒僧、フランソワ・ラブレーの夢」
パンタグリュリエル閣下と食事してる。閣下のげっぷが雷鳴と重なり、断食を破る流れが素晴らしい。固くなった一切れのパン。
「画家にして激情家、カラヴァッジョことミケランジェロ・メリージの夢」
キリストとの邂逅。神々しい。
「画家にして幻視者、フランシスコ・ゴヤ・イ・ルシエンテスの夢」
全体的に本書はオチが上手いよなー。目が覚めたら独りぼっちでベッドのなかだって。
「詩人にして阿片中毒者、サミュエル・テイラー・コウルリッジの夢」
水兵たちを助けるためサイコロで賭けをする。
「詩人にして月に魅せられた男、ジャコモ・レオパルディの夢」
砂漠に月はよく似合う。
「作家にして劇評家、カルロ・コッローディの夢」
紙の小舟で大海原を漂って怪物の腹の中へ。
「作家にして旅行家、ロバート・ルイス・スティヴンスンの夢」
良いなあ。宝箱を空けたら自分の名前の入った本が出てきて、それを読んで終わりを待つ風景。確かに素敵だ。
「詩人にして放浪の人、アルチュール・ランボーの夢」
さすが革命家の見る夢は格好いい。自由の叫びが俺を呼んでいる。
「作家にして医師、アントン・チェーホフの夢」
チェーホフっていい人なんだなあ。ラスト一段落に人柄が滲み出ている。
「音楽家にして審美主義者、アキーユ=クロード・ドビュッシーの夢」
これは「牧神の午後の前奏曲」が関係してるのかな。ドビュッシーらしい優雅な夢。
「画家にして不幸な男、アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレックの夢」
ラストが絶妙。枕を抱きしめて夢の続きときた。
「詩人にして変装の人、フェルナンド・ペソアの夢」
タブッキはペソアが好きすぎる。
「詩人にして革命家、ウラジール・マヤコフスキーの夢」
けったいな夢だと思って紹介文を読んだら、この人は石けんを持ち歩いてのべつくまなく手を洗っていた人のようで……。
「詩人にして反ファシスト、フェデリコ・ガルシア・ロルカの夢」
ああ、これは凄い。不穏な夢と不穏な現実が重なるラスト! そういえばこの人、『供述によると、ペレイラは……』にも名前だけ出てきたような。
「他人の夢の解釈者、ジークムント・フロイト博士の夢」
掉尾を飾るのは夢の申し子フロイトである。さんざん性欲云々言ってきた彼が、夢の中で女性になるという皮肉なシチュエーションが可笑しい。