2001.5c / Pulp Literature

2001.5.21 (Mon)

黒木昭雄『栃木リンチ殺人事件』(2001)

栃木リンチ殺人事件(111x160)

★★★★
草思社 / 2001.4
ISBN 4-7942-1052-3 【Amazon

1999年12月に19歳の少年が殺された、「栃木リンチ殺人事件」について。石橋警察署がとんでもない不祥事をしでかしている。

メモを兼ねて事件のあらましを書いておく。日産自動車栃木工場に勤める被害者が、3人の犯行グループに拉致・監禁され、消費者金融などから合計700万円に及ぶ借金をさせられる。犯行グループには現職警察官の息子と会社(日産自動車)の同僚がおり、監禁されているあいだ彼らから暴行を受けている。両親は石橋警察署に捜索願を出し、再三事件性を訴えるものの、担当刑事は木で鼻をくくったような対応しかしない。その後、警察がきっかけを与える形(電話での応対)で、被害者は3人組に殺されてしまう。

本書は2部構成。第1部で事件の客観的な再現をし、第2部で「警察はなぜ動かなかったのか」を推理している。第1部はまるで見てきたような胡散臭い描写が難点だけど、犯人たちの狡猾な手口や、警察の横柄な態度など、事件の骨格がよく分かる。そして第2部での推理は、大胆に踏み込みながらも非常に説得力があると言える。詳細は書かないけれど、特定企業に対する不信感を煽られた。これは不買運動を起こすしかないんじゃないかなあ。

2001.5.23 (Wed)

倉阪鬼一郎『サイト』(2001)

サイト(110x160)

★★
徳間書店 / 2001.4
ISBN 4-19-861335-4 【Amazon

売れない小説家が右目を手術した結果、幻覚が見えたり、シンクロニシティが多発したりするようになる。その後、異変はますます進み、いつしか殺人を重ねるようになる。

日常描写、とりわけBBSでのやりとりや娼婦との絡みが詳しく、描写力に秀でた作家なんだなと思う。ただ、正直どこをどう面白がればいいのかよく分からなかった。現実が非現実に侵食されていく有様を堪能する? それとも、小道具やら何やらの意味を考える? もしかしたら、消化不良な読後感に浸る小説なのかも。怪奇小説は難しいと思った。

2001.5.26 (Sat)

陳舜臣『中国の歴史 (6)』(1986)

中国の歴史〈6〉(105x140)

★★★★
講談社文庫 / 1991.3
ISBN 4-06-184787-2 【Amazon

中国史を独自の切り口で語った解説本。この巻では、明代初期のごたごたから清朝支配の翳りまでを扱っている。

『中国の歴史 (5)』の続編。明がしょうもないのはひとえに永楽帝のせいなのだな。久しぶりの漢民族王朝だというのに、洪武帝の遺訓を破って宦官に学問をさせている。宦官なんて百害あって一利なく、国が滅ぶもとにしかなっていないのは歴史の証明する通りである。にもかかわらず、彼らを政治に参加させている。また、歴代王朝のなかでもっとも官僚の待遇が悪いのもマイナス要素だ。禄に俸給を出してないから賄賂が横行するようになり、明の政治は腐敗していくことになる。

清の康煕帝・ヨウ正帝・乾隆帝は、文化事業を盛んに興した黄金期の皇帝たちだけど、その反面、彼らの時代は文字の獄が凄まじかった。なまじっか文化を理解しているだけに、文化が持つ力に対して過敏になっている。この優れた文化人ならではの弾圧が、当時の光と影を如実に表していて複雑な気分になる。

>>『中国の歴史 (7)』

>>Author - 陳舜臣

2001.5.27 (Sun)

小坂秀二『昭和の横綱』(1993)

★★★
冬青社 / 1993.12
ISBN 4-924725-19-6 【Amazon

玉錦から大乃国まで、昭和の横綱31人を取り上げたエッセイ。

昭和の横綱史を俯瞰できたのが良かった。形式は歴史書でお馴染みの紀伝体で、横綱を1人ずつ俎上にのせている。著者の好き嫌いがダイレクトに反映されているせいか、対象によって記事の濃度に差があるものの、昭和年間の大まかな流れを掴むには打ってつけで勉強になる。初心者としては、これを足掛かりに個別の伝記に進むべきだろう。

最近『わが回想の双葉山定次』を読んだので、双葉山と同時代の話(玉錦から照国あたり)が特に面白かった。玉錦のような強豪が壁として立ちはだかっていたからこそ、双葉山の偉業がより劇的に見える。大相撲の醍醐味の一つに、こういう世代交代を目の当たりにすることが挙げられるかもしれない。貴ノ花→千代の富士→貴花田(貴乃花)みたいな。

番外編では、当時大関だった貴乃花(四股名は貴ノ花)について語っている。これがもうべた褒めと言っていいほど褒めていて、著者は彼のことを「双葉山の再来」と目しているようだ。確かにハワイ出身のバケモノたち(奴らは体重が200キロを越えている!)と互角以上に渡り合うところは凄いの一言に尽きる。まさに唯一無二の天才という感じで、大きな期待をかけたくなる気持ちもよく分かる。

>>Author - 小坂秀二

2001.5.30 (Wed)

東野圭吾『片想い』(2001)

片想い(112x160)

★★★
文藝春秋 / 2001.3
ISBN 4-16-319880-6 【Amazon
ISBN 4-16-711009-1 【Amazon】(文庫)

アメフト部のOBが10年ぶりに再会した女は、男の格好をしていた。女は殺人を告白、OBは妻と共に彼女を匿うことになる。

性同一障害については説明的な記述で辟易させられたけれど、そこにミステリの因果関係が上手く絡んでいて、小説としてちゃんと読める作品になっていた。知的好奇心を満足させる物語という意味で、小学生向けの学習漫画を思い出す。エンタメ小説の強味は、時事問題にコミットするフットワークの軽さにあるのだなと思った。

男女の境界を「メビウスの輪」に例えるところが絶妙。作家的想像力がダイレクトに働いている。また、ミステリ小説らしく伏線も巧みで、特に最初の飲み会のシーンが絶妙だった。

>>Author - 東野圭吾