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2001.6.22 (Fri)
△R・D・ウィングフィールド『夜のフロスト』(1992)

★★★★★
Night Frost / R. D. Wingfield
芹澤恵 訳 / 創元推理文庫 / 2001.6
ISBN 4-488-29103-1 【Amazon】
フロスト警部シリーズ。デントン署に流感が蔓延して欠勤者が続出。少ない人員のなか、連続老女切り裂き事件や、少女誘拐殺人事件など、多発する凶悪犯罪を追う。
これだけの厚さを一気に読ませるのは、解決すべき事件がてんこ盛りで、ほとんど休む暇がないからだろう。1週間のうちに次から次へと沸き起こっていく事件を、フロスト警部と新任の部長刑事が平行して手がけていく。殺人のほか、少女の自殺、夫婦への嫌がらせ、市民を脅かすブラックメールなどなど、事件の多さは読んでいるこちらが混乱してしまうほど。おまけにフロスト警部の捜査方法は、直感を駆使した強引な代物で、被疑者に目星をつける度に間違いであることが判明する。そして、その間違いが偶然にも別の事件を解決に導くことになるので、余計入り組んでいるように見える。このように複数の事件を横断して、何となく全てを解決してしまうプロットに驚かされる。
窃盗犯に不法な取り引きを持ちかけたり、証拠を捏造して被疑者を問いつめたり、とにかく手段を選ばないのがフロスト流。外れることの多い直感も、肝心な場面では当たっているので、何とか首にならないで済んでいる。持ち前の強運で危機を回避してしまうそのしぶとさ、そして脂ぎったおやじって感じの下品なへらず口。このシリーズは、フロストのキャラクターも面白くてついつい読みふけってしまう。
2001.6.25 (Mon)
▲藤田宜永『愛の領分』(2001)

★★★
文藝春秋 / 2001.5 / 第125回直木賞
ISBN 4-16-320060-6 【Amazon】
ISBN 4-16-760606-2 【Amazon】(文庫)
仕立て屋を営む中年男のロマンス。20年前の恋が現在になって噴出し、仕立屋を含む三角関係に発展する。いちゃついたり問題に取り組んだりしているうちに、全体の設計図が明らかにされていく。
NHK朝の連続テレビ小説みたいだった。年輩の日本人が好みそうな、古き良き愛の形というか。携帯電話やストーカーなど、現代のガジェットが登場するのに、まるで昭和のようなレトロな雰囲気を漂わせている。おじさん世代が主人公のせいか、現代の若者に対する認識がワイドショー並に一面的。おじさんの、おじさんによる、おじさんのための小説と化していた。
2001.6.27 (Wed)
▲フランソワ・モーリヤック『テレーズ・デスケルウ』(1927)

★★★
Therese Desqueyroux / Francois Mauriac
遠藤周作 訳 / 講談社文芸文庫 / 1997.5
ISBN 4-06-197569-2 【Amazon】
ISBN 4-10-205001-9 【Amazon】(新潮文庫)
ISBN 4-08-129008-3 【Amazon】(集英社ギャラリー)
夫を毒殺しようとして医者から告訴されたテレーズ。しかし、世間体を気にした夫が裁判で偽証し、彼女は免訴されることになった。その後、夫は夫婦円満のふりをしながら、テレーズを田舎の家に閉じこめる。
カトリックの因習や周囲の無理解から抜け出そうとして、結局は抜け出せないテレーズの悲劇を描いている。タバコが好きで頭の良いテレーズは、インテリらしく複雑な精神を内包している。彼女は逃避のために結婚したのだけど、相手は単純な精神の持ち主だった。決して妻の内面を理解しようとはせず、徹底して彼女を蔑ろにするような態度に出ている。
テレーズは世間体のために人形のように扱われており、夫のために貞淑な「妻」を演じなければならなかった。彼の旺盛な性欲にも、マグロのように歯を食いしばって耐えている。そもそも、2人の結婚は恋愛によるものではなく、家同士を結びつけるための旧来的なものだった。免訴が確定し、子供が産まれてからは「母」になるも、彼女にはそれを務めるだけの精神的余裕がない。思考は常に自分の境遇に向いている。しかし、田舎でその態度は許されない。子供をもつ女は「母」でいることが当然であり、だからテレーズと親しいはずの旧友も、彼女が「母」でいないことに不信感を抱いている。
これはもう蟻地獄と言っていいだろう。テレーズは周囲の無理解によってどんどん孤立していく。財産は夫が管理しているし、実の父も夫の味方だから、1人で逃げ出すこともできない。もがけばもがくほど周囲からの締めつけが強くなり、ますます泥沼にはまりこんでいく。田舎に生まれた異端児の悲劇、そして自我をもった女の悲劇というのを堪能した。
ちなみに、新潮文庫では「テレーズ・デスケイルゥ」(杉捷夫訳)、集英社ギャラリーでは「テレーズ・デスケルー」(遠藤周作訳)になっている。版元によって微妙にタイトルが違うのはどうにかならないものか。