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2001.8.6 (Mon)
▽戸梶圭太『湾岸リベンジャー』(2001)

★★★★
祥伝社 / 2001.7
ISBN 4-396-63192-8 【Amazon】
湾岸線での交通事故で妻を無くした男。その事故は走り屋が起こしたものだった。復讐に燃える男は走り屋に潜入しようとする。
これまた随分と弾けていて笑える小説だった。田舎のヤンキーが読むようなくだらない走り屋漫画がベースなのだけど、そこに著者らしい悪意に満ちた視線がそそがれていて面白い。下半身の欲望を捉えた描写は相変わらず可笑しいし、ポップな罵倒語もキレ味が抜群でつい口ずさみたくなってくる。展開も意外だ。中盤からは、「パトロンと普通の男」というこれまでのパターンを崩していて目が離せない。
ただ、終盤の金持ち邸襲撃が無理矢理すぎるのが難点だった。筆の勢いに任せて物語を制御できていないというか。その点、『闇の楽園』【Amazon】と『溺れる魚』【Amazon】は、上手く風呂敷を畳んだ秀作だったと思う。
それにしても、この著者の罵倒芸はホントに面白い。この分野では筒井康隆や日垣隆なんかが思い浮かぶけれど、この二者より頭一つ抜きん出ているように思う。「激安女」は密かにマイ・ブームだったりするし……。
2001.8.10 (Fri)
▽ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』(1975)

★★★★
El Otono Del Patriarca / Gabriel Garcia Marquez
鼓直 訳 / 集英社文庫 / 1994.5
ISBN 4-08-760235-4 【Amazon】
ISBN 978-4105090128 【Amazon】(新装版)
カリブ海沿岸の架空の小国では、1人の大統領が100年にわたって君臨していた。独裁的権力を持った彼は、その長い治世のなかで様々な愚行を繰り広げていく。
大統領は娼婦の腹から生まれた父なし子であり、彼はキリストの陰画として超人的な力を発揮している。西洋の土壌で育ってきた植物も、南米に持ち込むと突然変異するということなのだろう。キリストのオルタナティヴたる大統領は、南米の「独裁」を象徴する神話的人物として、狂騒と孤独のうちに生きることになる。
延々と切れ目のない文章が続いて読みづらいのだけど、随所に南米ならではのイマジネーションが散見できて面白かった。西欧だったらシュールと呼ばれるような超常現象が、この小説では現実の延長上として存在している。南米だったら血の雨が降ってもおかしくないし、雌鳥が五角形の卵を産んでも不思議ではない。さらに、独裁か無政府状態しかない混沌とした地域だから、荒唐無稽なあらゆる蛮行に説得力が備わっている。超能力を持った子供たちをダイナマイトで爆殺したり、クーデターに関わった親友を丸焼きにして宴に供したり、60頭の犬がターゲットを襲ってかみ殺したり。まるで嘘が実体化したような世界だ。
大統領は彼女の耳に、波の音ではなくて、その政権を持ちあげる勇壮なマーチのひそんでいる貝殻をあえてみせた。マッチの火を温度計に近づけて言った、水銀が上がったり下がったりするのを、よく見てもらいたい、わしの心のなかとおんなじだ。
大統領を愛していたのは唯一母のみであり、その死後は愛のない世界で孤独をかこつことになる。親友だった将軍には裏切られるし、一目惚れした女は日蝕のなかに消えてしまった。彼は権力を体現した魔物でありながら、人間らしい卑小さも持ち合わせていて、権力の本質というものを覗かせている。