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2001.8.18 (Sat)
△ミシェル・トゥルニエ『魔王』(1970)

★★★★★
Le Roi Des Aulnes / Michel Tonrnier
植田祐次 訳 / みすず書房 / 2001.7 / ゴンクール賞
ISBN 4-622-04808-6 【Amazon】
ISBN 4-622-04809-4 【Amazon】
近眼の大男アベル・ティフォージュは、少年時代にパリの寄宿学校で生活し、寓意的・運命的な体験をしていた。成人後、自動車修理工場を営むようになった彼は、「徴」に導かれるようにしてナチスに接近する。
聖クリストフォロスの伝説に魅入られたアベル・ティフォージュが、己の使命を果たすべく神話的な領域に踏み込んでいく。前半の「左手の手記」が狂人の妄想みたいだったうえ、後半は後半でメルヘンチックな遍歴が展開。何だかかったるいなーと思いながら読んでいたら、この小説は終盤の種明かしが凄すぎた。キリスト担ぎ、青ひげ、カナダ、双子、狩猟パーティー、エトセトラエトセトラ……。少年時代に端を発した象徴まみれの旅は、すべて「ティフォージュ的演繹」の前フリだったのだ! 数多の象徴が一気に転換して、夢想と現実の思いもよらぬ因果関係が明らかになる。万物を自在に操るロゴスの偉大さ、引いては世界を収斂させる著者の超絶技巧に驚いたのだった。
ナチス・ドイツって存在自体が浮世離れしているから、神話的・幻想的な意匠とかなり相性が良いのだろう。ユダヤ人を害虫のごとく駆除しようとあれこれ努力してみたり、自らをオカルトチックな鉤十字でシンボライズしてみたり、ちょび髭の独裁者が大袈裟な身振りで大衆をアジってみたり、戦後世代からしてみるとあまりにトチ狂っていて、とても地に足のついた現実とは思えない。まるで悪夢のように歪んだ城塞が、ヨーロッパのど真ん中にでーんと鎮座している、そんな規格外の存在である。
で、色々あってドイツに流れ着いたアベル・ティフォージュは、「少年狩り」を中心とした「徴」に満ちた生活を送ることになるわけだ。アベル・ティフォージュの常軌を逸した精神世界は、同じく常軌を逸したナチス・ドイツのイデオロギーと接触することで、神話の高みにまで達してしまう。いやはや、随分と凄い小説を読んだなと思う。
2001.8.20 (Mon)
▲アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『薔薇の葬儀』(1983)

★★★
Le deuil des roses / Andre Pieyre de Mandiargues
田中義廣 訳 / 白水uブックス / 2001.7
ISBN 978-4560071397 【Amazon】
短編集。「薔薇の葬儀」、「クラッシュフー号」、「ムーヴィング・ウォーク」、「パリのコブラ」、「影の反乱」、「蝮のマドリーヌ」、「シクスティーヌ・アグニ」の7編。
エロいようであまりエロくないエロ短編集。「薔薇の葬儀」と「シクスティーヌ・アグニ」以外はちょっと小粒だった。
以下、各短編について。
「薔薇の葬儀」"Le deuil des roses"
夜更けのパリ。酒場帰りの男が3人の日本人女に拉致される。辿り着いた先で、男は奇妙な儀式に参加することになる。
日の光は差さないし、時計は取り上げられるしで、儀式の場は徹底的に外部と遮断される。そこは浦島太郎における竜宮城みたいな場所であって、決して誰もが自由に出入りできるわけではない。内部は神秘的な独特のルールに支配されている。浮世離れした話を聞かされて、美女4人(彼女たちは優秀な兵士だ)に自由を拘束されながら儀式に参加する。目の前で死の舞踏なんてされちゃったら、そりゃ全身が大きな目になっても仕方がないと思う。★★★★。
「クラッシュフー号」"Crachefeu"
森林監督官が自転車に乗った女を車ではね飛ばす。その後、負傷した女を木陰に連れて行き……。
鬼畜男の斜め上をいった女が凄い。黒塗りのスピットファイアに夢で追いかけられて、一度は男の手で現実に引き戻されるのだけど、でもやっぱり抜けきれずに轢かれてしまう。『世にも奇妙な物語』の元ネタになりそうだと思った。★★★。
「ムーヴィング・ウォーク」"Le tapis roulant"
フランス人女性が地下鉄のムーヴィング・ウォークで謎の日本人5人組に襲われる。
谷崎潤一郎に捧げた短編。パリの深部は不条理感溢れる未体験ゾーンなのだ。「直取引で愛しなさい」、「直取引で憎みなさい」。論理的であるという理由で、強盗やレイプを期待する女性の心理が面白い。★★★★。
「パリのコブラ」"Des cobras a Paris"
男が詩人の朗読会に出席する。
音の響きだけを知覚しつつ白昼夢に身をまかせる。朝礼や式典でよくこの状態になっていたことを思い出した。★★★。
「影の反乱」"La rebellion de I'ombre"
夕陽を浴びながら防波堤を歩く教授。突如自分の影が勝手な動きをするようになる。
アリアドネが出てきたり、治安部隊の男に捕まったり。教授1人が体験する幻視的な光景が、共産圏ならではの不条理な現実に淘汰される。★★★。
「蝮のマドリーヌ」"Madeline aux viperes"
17歳の姉が14歳の弟を誘惑する。その際、蝮に自分の体を咬ませるとか言う。
これはエロいな。「薔薇の葬儀」の次くらいにエロい。★★★。
「シクスティーヌ・アグニ」"Sixtine Agni"
クレタ島で出会ったシクスティーヌ・アグニとのやりとり。
この著者はヘビが好きすぎる。★★★。
