2001.8c / Pulp Literature

2001.8.22 (Wed)

石田衣良『娼年』(2001)

娼年(112x160)

★★★
集英社 / 2001.7
ISBN 4-08-775278-X 【Amazon
ISBN 4-08-747694-4 【Amazon】(文庫)

大学生が娼夫になり、様々な女性と関わっていく。

セックスを題材にした小説。ある女性は放尿を見られることによってエクスタシーを感じ、またある女性はセックスを見られることによってエクスタシーを感じる。若い娼夫を買う人の多くは中年の女性であり、彼女たちはその年齢差に引け目を感じている。一般的には、年増の肉欲はみっともないという認識になっているけれど、主人公は娼夫としての経験を重ねることによって、これらの偏見から解放される。そして、この状態を本書では「自由」としている。

要するに、下世話な興味でセックスを扱っているわけではなく、青春小説の器を借りて、都会の病んだ実相に切り込んでいるといったところかな。著者の現代風俗への明敏な感性が窺える。

2001.8.25 (Sat)

ジョセフィン・テイ『ロウソクのために一シリングを』(1936)

ロウソクのために一シリングを (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(91x160)

★★
A Shilling For Candles / Josephine Tey
直良和美 訳 / ハヤカワ書房 / 2001.7
ISBN 4-15-001704-2 【Amazon

グラント警部もの。女優の溺死体が発見される。

『第3逃亡者』【Amazon】の原作。登場人物が大袈裟な身振りをしていて鬱陶しかった。愚痴の延長に過ぎない「風刺」は勘弁してくれという感じ。それと、ミステリ部分はミスリードの仕掛け方が凡庸で、犯人と動機が容易に推測できてしまう。何でこんなのが65年も経って翻訳されたのだろう?

2001.8.27 (Mon)

村上春樹『約束された場所で』(1998)

約束された場所で(110x160)

★★★
文春文庫 / 2001.7
ISBN 4-16-750204-6 【Amazon

『アンダーグラウンド』の続編。オウム真理教の信者と元信者、合わせて8人にインタビューしている。さらに、河合隼雄との対談も収録。

今回は地下鉄サリン事件とは無関係な末端信者に取材しており、それぞれの生い立ちから入信のきっかけ、さらには出家生活を経て現在の心境までをまとめている。基本的なコンセプトは前回と同じ。ただ、今回はインタビュアーが意見を差し挟むことによって、相手との間にちょっとしたコンフリクトが生まれている。要するに、世間の価値観とのすり合わせを行っているというわけ。自分の抱いた疑問を明確にすることで、宗教的な観念の危うさを炙り出している。

論理的な人間ほど宗教に傾倒しやすいという。彼らは超常的な出来事さえも、いったん筋が通るとあっさり信じてしまう。そこには直感的な判断は介在しない。論理の虜となって宗教に絡め取られてしまう。なるほどねえ。考えてみれば、キリスト教も論争の歴史だった。対立する宗派を理詰めで攻撃し、自分たちの正しさを実証していた。だからまあ、論理と信仰は相性が良いのだろう。理系の高学歴が胡散臭い宗教にはまるのは、彼らの論理的な性格が原因なのだ。しかもオウムの場合、胡散臭いゆえに超俗的な神秘が生まれており、受け手は免疫がないからころっと騙されてしまう。これはもう巡り合わせの不運としか言いようがない。

麻原には指導者としてのカリスマがあるとか、教団内部の生活は思いのほかいい加減とか、信者ならではの興味深い情報が散見できる。印象的だったのは、「教団にいると何も考えなくていいから楽」(大意)という発言だ。仕事の割当はみんな上が決めてくれるし、信仰上の悩みにもすべてきっちりした答えがある。自由を謳歌にするには相応の能力が必要だから、凡人にとってエゴを預ける生活は魅力的なのだろう。特に日本の場合、年間で3万人以上が自殺するほど社会が病んでいる。どこかの思想家が言ったように、宗教とは現実から逃避するための麻薬なのであり、それは我々の社会と背中合わせにある。

河合隼雄との対談も参考になった。以下は地下鉄サリン事件の被害者について語ったものだけど、これって日本の病理をずばり言い当てているのではなかろうか。

村上 いちばん気の毒なのは、会社がわかってくれないというケースですね。会社に向かう途中で被害にあって、いわば労災なんですが、それでも会社はぜんぜん斟酌してくれない。それどころか戦力にならないということで切られている人がけっこういます。

河合 日本人というのは異質なものを排除する傾向がすごく強いですからね。もっとつっこんで言えば、オウム真理教に対する世間の敵意が、被害者に向かうんです。被害者の方まで「変な人間」にされてしまう。オウムはけしからんという意識が、「なにをまだぶつぶつ言っているんだ」と被害者の方に向かってしまうんです。そういう苦しみを経験している人も多いと思いますよ。

村上 震災のときもそうですが、最初に興奮があって、それから同情みたいなのに変わって、それがすぎると「まだやっているのか」というのに変わってしまうですね。段階的に。

いや、まったくその通りだね。病気や怪我をすると身にしみて実感する。

>>Author - 村上春樹

2001.8.28 (Tue)

筒井康隆『わかもとの知恵』(2001)

わかもとの知恵(111x160)

★★★
金の星社 / 2001.7
ISBN 4-323-07020-9 【Amazon

子供向けに生活の知恵を載せている。挿絵はきたやまようこ。

著者が子供だった戦時中には、「錠剤わかもと」の付録で、『重宝秘訣本』という子供向けの小冊子があったそうだ。そこには挿絵付きで生活の知恵が書かれていたという。本書はその冊子に示唆をうけた「裏技本」である。

子供向けなので、文章はひらがなが多く、簡単な漢字にもルビが振ってある。語り口も筒井康隆のものとは思えないほどやさしく、きたやまようこの挿絵もほのぼのとしたものになっている。

「出そうなあくびを止める知恵」、「しゃっくりを止める知恵」といった日常生活の知恵から、「好きな人に話かける知恵」といった冗談みたいな知恵まで書かれている。子供向けとはいえ、結構役に立つ知恵が載っていたりするので、大人でもそれなりに読める本だと思う。