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2001.12.27 (Thu)
▲マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(2000)

★★★
The Amazing Adventures of Kavalier & Clay / Michael Chabon
菊地よしみ 訳 / 早川書房 / 2001.11 / ピュリッツァー賞
ISBN 4-15-208379-4 【Amazon】
ISBN 0-31-228299-0 【Amazon】(原書)
チェコのユダヤ人ジョー・カヴァリエは脱出マジックの使い手だった。ナチスのユダヤ人弾圧が本格化してきた1939年秋。カヴァリエは師匠の協力によってアメリカに脱出、いとこのサミー・クレイの家に転がり込む。若い2人は「エスケーピスト」なるコミックヒーローを作り出し、一躍ベストセラー作家になるのだった。
外国向けに編集された縮約版からの翻訳。元はこれの3倍ほどの分量があるようだ。
「スーパーマン」に「バットマン」、そして我らが「エスケーピスト」。この小説はアメリカンコミックの黎明期を扱いながら、ユダヤ人としての重い感情と、奇妙な三角関係を描いている。2人が生んだ「エスケーピスト」とは、ナチスを倒すスーパーヒーローであり、その造型には家族をチェコに残したカヴァリエの願望が込められている。一般的にいって、創作の原動力は怒りであることが多いけれど、彼は漫画だけでは飽きたらず、自らもドイツ人と闘うほど入れ込んでいる。そして、その想いはやがて彼を軍隊にまで誘うことになる。
コンビを組んだクレイは絵の才能がなく、早々と作画をカヴェリエに任せている。そのうえ、カヴァリエが断りなしで海軍に入隊したときは、彼の女とお腹の赤ん坊を引き受けている。クレイは同性愛者であるにもかかわらず、女と結婚したのである。これも運命ということで、家族3人で平和な生活が続くと思いきや、突如カヴァリエが帰ってきてご破算になる……。この三角関係はあまりに残酷でせつない。
いつの世もPTAみたいなバカな集団が幅を効かせているようで、この小説でもコミックの規制が叫ばれるようになる。そこで挿入された小委員会の議事録がすごかった。少年を庇護する「バットマン」を、小児愛的な倒錯と宣っている。しかも、この構図はそのままクレイの実存にも関わるのだった。すぐさま明快な反論をくわえて内心の葛藤を解消しているとはいえ、漫画にかこつけて自分の存在を否定されたら、そりゃダメージでかいよなと思う。
(2005/07/02 追記)
「エスケーピスト」が、"The Amazing Adventures of the Escapist"【Amazon】として漫画化された。何というフットワークの軽さだろう。