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- 13 : 法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』(1992)
- 16 : ウィリアム・フォークナー『サンクチュアリ』(1931)
- 18 : 橋本治『橋本治の古事記』(2001)
- 20 : 東野圭吾『名探偵の掟』(1996)
2002.1.13 (Sun)
▼法月綸太郎『法月綸太郎の冒険』(1992)
★★
講談社文庫 / 1995.11
ISBN 4-06-263108-3 【Amazon】
短編集。「死刑囚パズル」、「黒衣の家」、「カニバリズム小論」、「切り裂き魔」、「緑の扉は危険」、「土曜日の本」、「過ぎにし薔薇は……」の7編。
色々あって再読。これはちょっと厳しい短編集だった。良かったのは、オチが衝撃的な「黒衣の家」くらい。「死刑囚パズル」と「過ぎにし薔薇は……」の2編は、観念的なテーマを表現したかったのか無理に捻り過ぎ。教養の豊富さが裏目に出たような内容になっている。
後ろ4編は美人司書が登場する図書館シリーズ。このシリーズはキャラクターものとして面白く、特に「緑の扉は危険」と「土曜日の本」の2編は、法月綸太郎が微妙に壊れていて笑いを誘う。
以下、各短編について。
「死刑囚パズル」
死刑囚が刑の執行直前に毒殺された。法月綸太郎が捜査する。
これはきつかった。頭でっかちなホワイダニット。大学時代に書いた短編を水増ししたものらしい。文芸趣味に寄りかかった話で、真面目に読むと最後で思いっきり脱力する。良かったのは、犯人の精神分析が胡散臭いところくらいか。★。
「黒衣の家」
葬儀のあと、親戚同士が揉める。しばらくして当事者のうちの片方が死ぬ。法月綸太郎が捜査する。
殺人の動機にインパクトがあって良い。本人に直接しゃべらせず、手紙で見せたからこその驚き。★★★★。
「カニバリズム小論」
「私」のもとに旧友の法月綸太郎がやってきた。同居人を殺して食べた男の動機を話し合う。
カニバリズムについての蘊蓄が興味深い。キリスト教の聖体拝礼は食人儀礼の風習を象徴的に表したもの、というのは筋が通っているように見える。イエス(父)の代わりにパンを食べるのだ、むしゃむしゃと。それで、ラストは上手い捻りかただと思ったけど、この期に及んでそっち系なのか、という気持ちも。★★★。
「切り裂き魔」
図書館の推理小説が何者かに切り裂かれる事件が発生。法月綸太郎が捜査する。
美人司書が登場する連作ものにして、日常の謎といった感じの緩い話。★★★。
「緑の扉は危険」
図書館に寄贈されるはずだった本に関してトラブルが発生。法月綸太郎が捜査する。
美人司書が登場する連作ものにして、ふにゃふにゃの法月綸太郎が見られる微笑ましい短編。密室トリックについては、『名探偵の掟』【Amazon】で同じネタが使われている。2つを比べてみると、その扱い方が対照的でとても面白い。★★★。
「土曜日の本」
女子大生がバイトしている書店に、毎週土曜、50年玉20枚を1000円札に監禁する怪しい中年男が出没。法月綸太郎が捜査する。
「五十年玉二十枚の謎」という当時の若手作家による競作。国産ミステリを熱心に読む層にとっては嬉しい(?)、身内ネタが散りばめられている。それにしても、北村薫=原りょう説があったとは驚いた。★★。
「過ぎにし薔薇は……」
美人司書が勤務する図書館に、天小口だけを確認して本を借りる女性が出没。彼女は他の図書館でも同様にして本を借りていた。法月綸太郎がその謎を追う。
漫才を聴いてたと思ったら実は駄洒落だったぜ、みたいな気分。とりあえず、本についての細かい知識が得られる。★★。
2002.1.16 (Wed)
▲ウィリアム・フォークナー『サンクチュアリ』(1931)
★★★
Sanctuary / William Faulkner
加島祥造 訳 / 新潮文庫 / 1973.1
ISBN 4-10-210202-7 【Amazon】
アメリカ南部の架空の町を舞台にした、ヨクナパトーファ・サーガに連なる長編。ポパイと呼ばれるギャングが密造酒売りの隠れ家で男を射殺、さらに現場にいた女子大生を連れて逃走した。彼と面識のある弁護士が、犯人の代わりに捕まった頭目の無実を証明するため、女子大生とポパイの行方を追う。
真相がぼかされたまま終盤まで進むミステリ小説っぽい構成。バプティスト派の狂信者たちが個人をバッシングしたり、近隣の住民たちが囚人を引きずり出して焚刑に処したり、アメリカ南部の野蛮な暮らしが生き生きと描かれている。南部独特の病んだ空気に浸れる反面、後年の犯罪小説、たとえばハメットあたりを読んでいると本作は物足りないかなと思う。犯人がなぜ女子大生を陵辱し、殺人まで犯したのか。その辺の行動原理がとってつけたようで、ラストで明かされた生い立ちを読んでもいまいちぴんと来なかった。
『響きと怒り』ではクウェンティンが冤罪でしょっぴかれていたけれど、本作でも同様なことが起こっていて、南部の司法制度はつくづく恐ろしいものだと思った。人権派の弁護士が、妹を含む南部の後進的な人間たちに打ちのめされるという筋にも恐怖を感じる。さすがKKKを擁する危険地域だけあって、文明から遠く離れた原始世界の雰囲気が濃厚。人々の非人間的な振る舞いに慄然とするのが、南部小説の醍醐味なのだろう。茫漠とした大地での、閉塞した生の営みに心惹かれるものがある。
それにしても、フォークナーはこれを書いてよく吊されなかったなと思う。南部のパトリオットは過激だから、普通に放火くらいはしそうだ。
2002.1.18 (Fri)
▽橋本治『橋本治の古事記』(2001)

★★★★
講談社 / 2001.12
ISBN 4-06-254557-8 【Amazon】
橋本治が『古事記』の序文と上巻を現代語に翻訳している。
『古事記』は712年に太安万侶によって編纂された。構成は上巻、中巻、下巻の3部構成で、上巻では天地開闢以来の神話が、中巻では神武天皇から応神天皇までのことが、下巻では仁徳天皇から推古天皇までのことが、それぞれ記されている。
とても読みやすかった。文章は小中学生向きともいえる平易なものだし、原文の煩雑な名詞も本書ではカタカナ表記で簡略化されている。
これまで断片的にしか知らなかった神話を、体系的に知ることができたのが大きな収穫だった。『古事記』の上巻は、因幡の白うさぎやスサノオのエピソードなどに見られる昔話の王道パターン以外にも、今だったらギャグとしか思えないナンセンスな要素が盛り込まれているのだ。
イザナミの命は、口からげろを吐き、大小便をたれながしたまま、瀕死の息をしておいででした。(p.27)
そして、げろからは鉱山の神、大便からは粘土の神、小便からは噴き出す水の神が生まれる。
オオゲツヒメの神は鼻をかみ、げろをし、お尻からはうんこをしました。それがやがて、オオゲツヒメの神の力でりっぱな食べ物に変わるのですが、(以下略) (p.172)
神はげろやうんこを食していたらしい。
もちろん、原文は違った表現で書かれているのだろう。とはいえ、理解に苦しむエピソードであることに変わりはない。大昔の人はみなスカトロ趣味だったのだろうか。
2002.1.20 (Sun)
▽東野圭吾『名探偵の掟』(1996)
★★★★
講談社文庫 / 1999.7
ISBN 4-06-264618-8 【Amazon】
名探偵・天下一大五郎と、引き立て役の警部が活躍する連作短編集。「密室宣言」、「意外な犯人」、「屋敷を孤立させる理由」、「最後の一言」、「アリバイ宣言」、「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論」、「切断の理由」、「トリックの正体」、「殺すなら今」、「アンフェアの見本」、「禁句」、「凶器の話」、「最後の選択」の13編。
再読。本書は横溝正史的な世界観をベースにしたパロディ集。視点は警部の一人称で、彼は自分が引き立て役であることを自覚している。つまり、名探偵を活躍させるべく、無骨な警察官を演じているという形式。引き立て役だから名探偵より先に解決してはいけないし、常に的外れな捜査をしなければならない。ちょうどドラマを構成する俳優みたいなポジションで、読者に小説の舞台裏を見せるという趣向になっている。
警部は時折、虚構の世界から飛び出して名探偵とミステリ小説談義を始める。たとえば、今どき密室宣言は恥ずかしいとか、このトリックは使い古されているとか、読者はこれで満足するのかとか。つまり、ミステリネタを網羅的に取り上げてひたすらツッコミしていくわけで、本作はその人を食ったような態度が面白い。
以下、各短編について。
「密室宣言」
この短編は『法月綸太郎の冒険』を読んでると3倍面白い。密室のトリックや存在意義のみならず、名探偵という存在そのものも茶化していて、これを読んだ法月綸太郎が面食らったのも無理はないと思った。
「意外な犯人」
読者の思考形態を競馬の予想に見立てるのが上手い。でも、そういうのを逆手にとるからアガサ・クリスティは凄いんだよな。
「屋敷を孤立させる理由」
大がかりという意味で、筒井康隆の某小説(連作短編集)を思い出す。といっても、あれは捜査する側が大がかりだったのだけど……。
「最後の一言」
やけに生々しいダイイングメッセージだった。確かにむっとするし、納得もする。
「アリバイ宣言」
犯人側の立場を利用したパロディ。天下一大五郎が刑事になっている。アリバイトリックは、せっかく智恵を絞ったのだからそりゃ気づいてもらいたい。
「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論」
今度のお題は2時間サスペンス。天下一大五郎が女子大生になっている。
「切断の理由」
名探偵の推理は本人に否定されたらお終い? 名探偵と犯人は共犯関係であり、理由なんていくらでもこじつけられる。そんな感じの捻った真相。首切りの理由は、これがもっとも実際的・現実的だと思う。
「トリックの正体」
本格ミステリのトリックは文字情報だから成り立つという話。こうなると、フェアとかアンフェアとか実はどうでもいいのかも。
「殺すなら今」
クリスティや横溝でお馴染みの童謡殺人。オチが笑える。
「アンフェアの見本」
これは上手い。同じ系統のトリックを組み合わせてる。
「禁句」
首なし死体がテーマだけど、この切断の理由はけっこう凄いんじゃないだろうか(前例ある?)。笑いに包みながらも中身は極上。
「凶器の話」
凶器の謎と見せかけて、別の構造的な問題をオチに使っている。
「最後の選択」
掉尾を飾るのは『そして誰もいなくなった』。確かにこの世界観だと……、というのはある。