2002.2b / Pulp Literature

2002.2.12 (Tue)

ジョン・ヤンガー 尾崎哲夫『アメリカにあって日本にないもの』(2002)

アメリカにあって日本にないもの(108x160)

★★★
自由国民社 / 2002.1
ISBN 4-426-17001-X 【Amazon

ジョン・ヤンガーと尾崎哲夫の往復書簡集。ジョン・ヤンガーは日本人を妻にもつアメリカ人弁護士。尾崎哲夫は関西外語大学教授。

アメリカ人の立場から日本の問題点をえぐりだしている。ヤンガーの指摘に対して尾崎の反論が生ぬるいのは、「日本の問題点」にスポットを当てるため、敢えてアメリカを棚上げにしているそうだ。ところどころ余計なお世話的な部分があるけれど、総じて2人のやりとりは傾聴に値する。

とりあえず、関心を持った箇所を3つ引用。

1つめ。

第一に、とにかく、タテマエとホンネを使い分けることが多過ぎる。第二に、発言者も受け手の方も、タテマエとホンネのズレを承知している。ここに、日本独特の問題が潜んでいる。(p.190)

2つめ。

また、若者が年長者を論破しようものなら「お前は若いから理屈ばかり言う」とか「世の中理屈ではすまん」とか「お前は権利ばかり主張して」などという内容の反論が返ってくることがあります。自分に都合の悪いことがあると、つまり理屈や筋道で自分が負けると、それを認めようとしない者の言い分がまかり通るのです。最低ですね。(p.185)

3つめ。

日本の地方都市には、古い因習や排他的な狭量が温存されています。若い人の多くはそれらを嫌って出て行くので、かえってその因習は存続してしまっています。(中略)長い時代にわたって営まれてきた農村共同体の保守的な風潮は、明らかに若者に閉塞感を味わわせ、都市へ追い立てているようにさえ見えます。(p.212-213)

確かにこの3つの風潮はどうにかならんかと思う。そのためには、中高年層に自覚を促すべきなんだろうけど、それは現実的に考えて不可能に近い。個人の出来ることとしては、自己の加齢による思想の変化(だいたいが保守化だろうけど)を客観視しようと努めるくらいか。ああ、見識の狭いオヤジにはなりたくないね。

ところで、奥付によるとヤンガーは「仮想人物」らしい。どうりで彼の視点がステロタイプだと思った。くだらないジョークとか、自由主義的な思想とか、みんな「いかにも」な感じだった。

2002.2.16 (Sat)

A・S・バイアット『マティス・ストーリーズ』(1993)

マティス・ストーリーズ(105x160)

★★★
The Matisse Stories / A.S. Byatt
富士川義之 訳 / 集英社 / 1995.11
ISBN 4-08-773230-4 【Amazon

アンリ・マティスの絵画をモチーフにした短編集。「薔薇色のヌード」、「芸術作品」、「氷の部屋」の3編。

マティスについては全く知識がないので、本書が言わんとしていることを理解できたかは疑問だけれど、とりあえず絵画のようなカラフルな描写に惹かれるものがあった。美術に詳しい人が読めば、色々刺激を受けるだろうと思う。

以下、各短編について。

「薔薇色のヌード」

大学で教師を務める中年女性が、マティスの「薔薇色のヌード」が飾られた美容院に通う。特定の美容師の常連となるも、ある日、とんでもないことをしでかす。

これは上手かった。傍から見ると、更年期障害のおばさんが乱心しているような格好だけれど、しかし事実はそう単純ではない。些細なことがきっかけで、過去の鬱屈した思いが奔流となってあふれ出る、その一連のプロセスがよく書けていて、彼女の度を越した行動には説得力がある。女としてトウが立つとこういう危機を孕むのか、みたいな。一暴れした後の、すべてを救済するようなオチも素晴らしい。★★★★。

「芸術作品」

デザイナーとして一家の経済を支えている妻と、売れない画家として悶々としているその夫。彼ら芸術家夫婦が、中年女性を家政婦として雇う。

絵画やら美術やらの描写が濃密だったため、読み進めるのに難儀した。収録作のなかでは、本作がもっとも景色(特に屋内)の描写に力が入っている。

それにしても、終盤の展開は確かにサプライズだ。身近にいながらも心理的に断絶し、さらに階層も下だったあの女性がまさか……。★★★。

「氷の部屋」

同僚の男性教授(美術史専攻)が女子学生にセクハラで訴えられた。学生部長を務める女性教授が、彼をランチに招いて真相を聞き出す。

フェミニズム理論を濫用して、神聖なるマティスの絵画を冒涜する女子学生がおっかない。世の中には芸術作品をフェミニズム的観点から評価しなおそうという人がいるけれど、そういう頭でっかちな人たちって、多かれ少なかれこの女子学生みたいな「病気」を抱えているような気がする。★★★。

>>Author - A・S・バイアット

2002.2.18 (Mon)

アガサ・クリスティ『ビッグ4』(1927)

★★★★
The Big Four / Agatha Christie
田村隆一 訳 / ハヤカワ文庫 / 1984.11
ISBN 4-15-070077-X 【Amazon

ポアロもの。ポアロが謎の国際犯罪組織「ビッグ4」に立ち向かう。

珍しくスリラー色の濃い作品だった。ポアロの双子の兄弟アシル・ポアロは、ホームズの兄マイクロフトを模しているのだろう。事件が複数起こったり、ポアロの命が狙われたり、波乱万丈な展開が用意されている。

今回は謎の解体や伏線の妙味で読ませるではなく、ポアロが国際犯罪組織に挑む、少年漫画のようなシチュエーションで読ませる。世界征服を企む中国人の首領や、変装の名人にして殺人のプロである、デストロイヤー・ナンバー4。ポアロと渡り合うビッグ4の造詣が面白い。

2002.2.20 (Wed)

レジナルド・ヒル『武器と女たち』(2000)

武器と女たち−ダルジール警視シリーズ(91x160)

★★
Arms and the Women / Reginald Hill
松下祥子 訳 / 早川書房 / 2001.12
ISBN 4-15-001710-7 【Amazon

ダルジール警視シリーズ。エリーと愉快な女たちが活躍する。

エリーとはパスコー主任警部の妻。小説家志望の専業主婦で、フェミニストの共産主義者である。性格は、自意識過剰、攻撃的、自己中。簡単にいえば、パトリシア・コーンウェルのヒロインから、「自己憐憫」の要素を抜いた性格をしている。

と、そういう鬱陶しい人を中心に据えた話なので、だいぶうんざりしながら読んだ。ノヴェロの負傷は戦力のバランス取りというのが見え見えだし、それに関連した件のサプライズも、B級アクション映画のような唐突さで困惑する。

エリーの創作については、冗長で退屈なうえに、エリーが感情移入からほど遠いキャラクターなので、正直どうでもいい気分にさせられた。さらに、もう1つの挿話である「シビルの書」も、恐ろしく読みづらい独白だったのでどうでもいい気分にさせられた。『ベウラの頂』は傑作だったのに、いったいどうしたのだろうか。