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- 23 : A・S・バイアット『シュガー』(1987)
- 26 : 村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(2000)
- 27 : バリー・アイスラー『雨の牙』(2002)
2002.2.23 (Sat)
▲A・S・バイアット『シュガー』(1987)
★★★
Sugar and Other Stories / A.S. Byatt
池田栄一 篠目清美 訳 / 白水社 / 1993.7
ISBN 4-560-04477-5 【Amazon】
短編集。「ラシーヌとテーブルクロス」、「バラ色のティーカップ」、「七月の幽霊」、「隣の部屋」、「乾いた魔女」、「面目丸つぶれ」、「E・M・フォースターが死んだ日」、「取り替え子」、「気配」、「そり返った断崖」、「シュガー」の11編。
文学部的教養が発揮された短編集。どれも端正な作りになっていて読み応えがある。
以下、各短編について。
「ラシーヌとテーブルクロス」"Racine and the Tablecloth"
プロテスタント系の寄宿学校に通う少女の話。成績優秀の彼女が、禁欲的な女校長に目をつけられる。
いかにもアカデミニズムの人が書いた、方法論ありきの小説という感じ。たとえば、少女が「大泣き」する場面(とても不自然)は、情念的な意味ではなしに何らかの象徴的な意味が込められていそう。
「バラ色のティーカップ」"Rose-coloured Teacup"
『マティス・ストーリーズ』に「薔薇色のヌード」という短編があったけれど、この著者はよほどバラ色が好きなのか。
「七月の幽霊」"The July Ghost"
店子の男性が、家主(女性)の死んだ息子の幽霊と接触する。その幽霊は、男性には見えるが家主には見えない。
これはけっこう良い。家主は旦那とも上手くいってなくて、挙げ句の果てには子供の幽霊さえ見えない寂しい状況。そんななか、男性が女性に接近する……。やはり子供の幽霊は何らかのアレゴリーなのだろう。落ち着いた大人の寓話という感じだ。
「隣の部屋」"The Next Room"
抑圧的な母を亡くした女が、家を売って転勤する。
生前の父母は家で言い争いをしていたとか。あちら側の世界に片足を突っ込んだような展開を見せている。
「乾いた魔女」"The Dried Witch"
乾いた魔女が災いを呼び起こす。
これはファンタジー世界を利用したフェミニズム小説か。冒頭の乾きの描写も凄いけれど、それ以上にラストの天日干しが強烈だった。
「面目丸つぶれ」"Loss of Face"
イギリスの女性教授が、英文学のシンポジウムに参加するため東洋に行く。
これは良かった。開催地の名前が明示されていないけれど、推測するにおそらく韓国のソウルだろう(植民地化、儒教、経済発展、軍事演習)。西洋と東洋の壁、第一世界と第三世界の壁が個人レベルで意識されている。
「E・M・フォースターが死んだ日」"On the Day that E. M. Forster Died"
中年女性が小説を書こうとする。そして、スパイ小説的妄想に取り憑かれた人物と関わる。
作家が書くことについてうだうだ考える小説は面白い。でもって、その際に文豪についてあれこれ言及するのも面白い。
「取り替え子」"The Changeling"
女性作家のもとに、自作の登場人物にそっくりの少年が来る。
これも書くことを巡る話だった。作家にはそれぞれ探求すべきテーマがあって、本作の主人公の場合、それは「恐怖」だという。ふーん、なるほどね。
「気配」"In the Air"
男に恐怖心を抱いている老嬢が、犬の散歩中、盲目のミセスと知り合う。
この恐怖心というのが、ただの被害妄想ちゃうんかって気がするけれど、その疑問も青年の登場で一気に臨場感が出てくる。挙動不審だし、馴れ馴れしいし、図々しい。
「そり返った断崖」"Precice-Encurled"
作家のロバート・ブラウニングについて。
「シュガー」"Suger"
死んだ父について。
著者の自伝的小説とのこと。
2002.2.26 (Tue)
▲村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(2000)

★★★
新潮文庫 / 2002.2
ISBN 4-10-100150-2 【Amazon】
短編集。「UFOが釧路に降りる」、「アイロンのある風景」、「神の子どもたちはみな踊る」、「タイランド」、「かえるくん、東京を救う」、「蜂蜜パイ」の6編。
神戸の大地震を背景にした短編集。どれも実際の被害者を題材にしたのではなく、報道に影響を受けたとか、知人が巻き込まれたとか、円周的に遠い位置にいる人たちを取り上げている。
以下、各短編について。
「UFOが釧路に降りる」
妻に捨てられた男が北海道に旅行する。
寓話っぽい内容。旅先で知り合った女といきなりベッドインするところが春樹らしい。連れ添った相手から「中身がない」と指摘された男は、新しい女にベッドの中で慰めてもらう。地震とかUFOとか小箱とか、謎めいた道具立てが魅力的なのだけど、ベースとなるプロットが臆面もないという感じできつかった。★★。
「アイロンのある風景」
真夜中の海辺。同棲中のカップルと関西出身のおじさんが焚き火をする。
文学的ガジェットをかき集めて作ったような薄っぺらい小説だった。「からっぽ」の自己を気にしている女というのは、昨今の自分探しの風潮を取り入れた造型なのだろうけど、その成果はワイドショー的で切実さに欠ける。「死にたい」なんて言われてもねえ。
ただ、海、流木、焚き火と相変わらず道具立ては巧みだ。火に魅入られて鬱病的な観念が増大するというのはあり得る。★★。
「神の子どもたちはみな踊る」
新興宗教の信者である母から、「神の子」として育てられた息子。成人して出版社に就職した彼が、父親らしき男を尾行する。
同じアホなら踊らにゃ損損。教科書通りの身体性というのは穿った見方だろうか。ちなみに男は比類なき巨根の持ち主。★★。
「タイランド」
甲状腺を専門とする女医がタイで不思議なもてなしを受ける。
寓意や象徴の使い方が冴えていてかなり良かった。体のなかの白い石とか、これから見る夢の予言とか、北極熊のエピソードとか、女医を回復させる薬みたいなものが効果的に詰め込んである。良い意味で著者らしい短編だ。★★★★。
「かえるくん、東京を救う」
冴えない独身男の前に「かえるくん」が現れる。
地震を引き起こすみみずくんをやっつけろ! かえるくんと独身男が力を合わせて東京を救う!! 村上春樹の小説は、ファンタジー度が高くなるほど良い作品になる傾向があるような……。
ぼくが一人であいつに勝てる確率は、アンナ・カレーニナが驀進してくる機関車に勝てる確率より、少しましな程度でしょう。
文学に堪能なかえるくんのキャラが面白い。★★★★。
「蜂蜜パイ」
大学時代の三角関係に絡んだ話。好きだった女に告白できず、代わりに親友がその女と結婚する。
これは素晴らしい。熊さんの童話と現実の親友関係がリンクして、ラストは光が差すような余韻を残す。相思相愛だったのに勇気がなくて結ばれなかった2人。昭和風の古典的なモチーフを、現代に甦らせる手並みが鮮やかだった。★★★★。
2002.2.27 (Wed)
▽バリー・アイスラー『雨の牙』(2002)

★★★★
Rain Fall / Barry Eisler
池田真紀子 訳 / ヴィレッジブックス / 2002.1
ISBN 4-7897-1802-6 【Amazon】
ISBN 978-4151781513 【Amazon】(新装版)
日本で活動しているフリーの殺し屋ジョン・レイン。彼は日米ハーフの元CIAで、見た目は日本人とあまり変わらなかった。ジョンは山手線での仕事を機に、政界の陰謀に巻き込まれてゆく。
東京の西側は、まさに東京らしく、かつ日本らしくない地域だ。喧噪に満ちて、物事の回転が速くて、新しいものが集まり、他人に興味を持たず無個性なカフェイン漬けの人々がせかせかと歩いている。(p.70-1)
著者は弁護士として3年ほど日本で暮らしていたらしい。そのせいか、日本の地理・風俗・文化など、外国人とは思えないくらい知識がしっかりしていた。しかも、日本の政治が土建屋(ヤクザ)と結びついていることまで喝破していて、相当な日本通であることが窺える。
ストーリーはかなりのジェットコースター。アクションも多くて読ませる。新人離れした小説であることは確かだけど、ただ、主人公の言動がいただけない。作者の自己陶酔が反映されていて、その凄腕っぷりが鼻につくのである。たとえるなら、スティーヴン・セガールを気障にしたような感じ。自作自演の映画みたいなナルシシズムがある。