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2002.3.14 (Thu)
▽ジョン・アーヴィング『ガープの世界』(1978)

★★★★
The World According to Garp / John Irving
筒井正明 訳 / 新潮文庫 / 1988.10
ISBN 4-10-227301-8 【Amazon】
ISBN 4-10-227302-6 【Amazon】
欲望抜きのセックスで生まれたT・S・ガープの生涯。母親の過保護のもとで育てられたガープは、様々な人生の苦労を経験した後、強姦小説を発表して一躍ベストセラー作家になる。
軽妙なスタイルと魅力的なストーリーで読ませる極上のページターナーだった。母親の強烈なキャラが面白いし、性欲で貫いた全体性が面白いし、「ペンション・グリルパルツァー」なる作中作が面白いし、作家が主人公だからこその内幕ネタが面白いし、女性運動へのグロテスクな風刺が面白いし、ガープが体験するもろもろのイベントが面白い。この小説は、上下巻のなかにひとことでは言えない様々な面白さが詰まっている。
ガープは、自伝的な基盤――そういうものがあればの話だが――は小説を読むときの最も意味の薄い次元であるといっていた。小説芸術は真実を想像する芸術であり、他のすべての芸術と同様、選択の過程であるというのが彼の持論だった。(vol.2 p.240)
小説を通して作家の精神を分析する。批評家にありがちなこの蛮行をナボコフが自著で皮肉ってたけれど、実はこの手の誤謬ってけっこう深刻なのかもと思った。個人の経験やら知識やらを膨らませて、「芸」にまで昇華させたのが小説なのだから、その「芸」を解体して作家の内面を探るのは、芸術の本来的な鑑賞法から外れる行為のような気がする。読者としては大元となる自伝的な基盤も気になるけれど、作者としてはそれよりも結果を見てくれということなのだろう。また、作品からイデオロギーを抽出するというのも言語道断で、ガープはある女性のフェミニズム的な賛辞に対し、「この女が気に入っているのは作品じゃないよ、なにか別のものだ」(vol.2 p.272)と言い捨てている。考えてみれば、女性を軽視してるだの重視してるだのという議論は、作品の価値とは無関係な政治的判断に過ぎないのであり、芸術を自分にとって都合の良いイデオロギーで裁断する批評は、決して褒められたものではないのだな。本作の小説論は、一介の小説好きとしてとても参考になる。
エピローグの使い方が上手すぎて充実した読後感が味わえた。一大インパクトが起きた後の家族の人生を描いていき、最後は母子の言葉を対比させて締めくくる。いやー、ここでそれを使うのか! って感じの最高のラストだった。アーヴィングって稀代のストーリーテラーだなあとしみじみ思う。
2002.3.17 (Sun)
▲戸梶圭太『牛乳アンタッチャブル』(2002)

★★★
双葉社 / 2002.2
ISBN 4-575-23430-3 【Amazon】
ISBN 4-575-50941-8 【Amazon】(文庫)
雲印乳業の牛乳を飲んだ消費者たちが集団食中毒をおこした。インモラルな会社の体制に憤った社員たちが、組織改革のためクビキリ・チームを結成する。
言わずとしれた雪印事件のパロディ。クビキリ・チームの仲間を集めていく前半は、『七人の侍』【Amazon】を模しているのだろうか。正直この部分は冗長なのだけど、随所にお笑いシーンが散りばめられているため、とりあえず退屈せずに読むことができた。今回は激安人間の生態以外にも、ビジュアル面で笑わせてくれる(戸梶日報とか)。おそらく、著者は映像や漫画をひっくるめた、総合エンターテインメントを目指しているのだろう。今後どういう方向に進むのか楽しみである。
バイブの先端にアレの頭がくっ付いているのには腹抱えて笑った。やはり、ここにバレたら入場禁止になるんだろうかね。「とんねるず」の石橋貴明みたいに。
2002.3.19 (Tue)
▽ブライアン・フリーマントル『待たれていた男』(2000)

★★★★
Dead Men Living / Brian Freemantle
戸田裕之 訳 / 新潮文庫 / 2002.2
ISBN 4-10-216543-6 【Amazon】
ISBN 4-10-216544-4 【Amazon】
チャーリー・マフィン・シリーズ。異常気象で溶けたツンドラの下から、50年前の死体が3体発見された。死体はいずれも他殺体で、国籍は英・米・露に別れている。
ナターリャの省内闘争が退屈だったけれど、チャーリーが敵を陥れていくところは相変わらず痛快だった。CIAの殺し屋の処理や、イギリス情報部の「内憂」への対処が笑える。本作は事件解決のプロセスよりも、チャーリーの自己保身のほうが圧倒的に面白い(というか、このシリーズは全部そうか)。