2002.6a / Pulp Literature

2002.6.8 (Sat)

『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』(2002)

金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲(94x140)

★★
角川書店 / 2002.5
ISBN 4-04-873362-1 【Amazon

横溝正史生誕100周年を記念したアンソロジー。著者は、赤川次郎、有栖川有栖、小川勝己、北森鴻、京極夏彦、栗本薫、柴田よしき、菅沼江、服部まゆみの9人。

「100周年」に釣られてつい手に取ってしまった。この手のアンソロジーがつまらないのは予想できたことなので、おとなしく横溝を読むべきだったかもしれない。

ちなみに、金田一耕助が登場するのは9編中5編である。

以下、各短編について。

京極夏彦「無題」

妖怪シリーズの関口が横溝正史と探偵小説談義をする。

時系列=戦後。「刊行予定本からの抜粋」なんて趣向は面白いのだけど、これは内輪向けの手抜き小説と断じられてもおかしくないだろう。タイトルの「無題」は、そんな批判を封じ込める予防線の役割を果たしているわけだ。何だかなあ。★。

有栖川有栖「キンダイチ先生の推理」

探偵小説作家キンダイチ先生の名推理。

時系列=現代。子供視点のほのぼのとしたトーンで語られる。殺人事件の謎と、耕助石の謎が1つに収斂する手並みが素晴らしかった。これは面白い。★★★★。

小川勝己「愛の遠近法的倒錯」

対立する2つの家での殺人事件。

時系列=戦後。横溝的世界観に忠実な倒錯した恋愛という感じ。★★。

北森鴻「ナマ猫邸事件」

ナマ猫邸で殺人。

時系列=現代。「黒猫邸事件」のパロディ。「黒猫邸事件」では「顔のない死体」を扱っていたけれど、この小説では「首のない死体」を扱っている。東野圭吾の『名探偵の掟』を思わせる、かなりはじけたパロディで面白かった。やはり横溝の世界観はお笑いのネタにしやすいようだ。★★★★。

栗本薫「月光座 ――金田一耕助へのオマージュ――」

『幽霊座』の事件から半世紀後、「稲妻座」が「月光座」にリニューアルすることになった。金田一耕助がそのコケラ落とし公演を観ることになる。そこで50年前を彷彿とさせる失踪事件が起きる。

時系列=現代。このアンソロジーのなかではもっとも本格的で力が入っている。恥ずかしい言い方をすれば、愛を感じさせる作品。★★★。

柴田よしき「鳥辺野の午後」

女流作家が殺されそうになった体験を金田一耕助に語る。

時系列=現代。金田一耕助がアームチェア・ディテクティヴよろしく事件の真相を推理する。人情の機微が描かれた繊細な話だったけれど、金田一の推理が飛躍しすぎているのが何とも。★★。

菅沼江「雪花 散り花」

京都。素人探偵3人組が自殺の謎を解く。3人揃ってキンダイチ。

時系列=現代。セリフで使われる方言が読みづらかった。『坊ちゃん忍者幕末見聞録』とは大違い。★。

服部まゆみ「松竹梅」

歌舞伎鑑賞中に殺人。医者の不倫騒動。

時系列=現代。本書のなかではもっとも文章がしっかりしていた。トリックも金田一テイストがよく出ているし、幕の引き方も他の作品と一線を画していて好感が持てる。★★★。

赤川次郎「闇夜にカラスが散歩する」

電車の中で犯罪。

時系列=現代。巻き込まれ型ストーリー。主人公の前に金田一耕助の2代目を自称する男が2人登場する。そして、どちらかが凶悪犯でどちらかが警察に協力している人間、という趣向になっている。

トントン拍子で話が進むのが良い。ラストのやりとりも読む人が読めば微笑ましいだろう。とはいえ、このオチは……。★★。