2002.6b / Pulp Literature

2002.6.12 (Wed)

ピーター・F・ドラッカー『ネクスト・ソサエティ』(2002)

ネクスト・ソサエティ(112x160)

★★★★
Managing in the Next Society / Peter F. Drucker
上田惇生 訳 / ダイヤモンド社 / 2002.5
ISBN 4-478-19045-3 【Amazon

“ネクスト・ソサエティ”を予見した本。少子高齢化によって、先進国は経済よりも社会のほうが重要になる。雇用は流動化が進み、知識労働者の管理が重要になる。知識労働者には、NPOによるコミュニティが重要になる。

ドラッカーの入門書として最適らしいので読んでみた。本書は9.11以前の文書が大半で、ややまとまりに欠けている。しかし、さすが20世紀経済の生き字引だけあって(何と今年で91歳だ)、個々の主張はどれも鋭く力強い。規制緩和によって正社員が減り、その代替として低コストの派遣社員が増えるというのは、アクチュアルな傾向として確実にある。また、先進国で製造業の割合が減り、知識労働者に重心が移っていくというのも、実感として大いに理解できる。総じて納得のいく論述だった。

全体として知識労働者の労働可能年限のほうが、雇用主たる企業の寿命よりも長くなる。歴史上初めてのことである。これからは誰もが、高度の知識、しかも専門化した知識をもたなければならない。その結果、高等教育の重心が、若者の教育から成人の継続教育へと移行していく。(p.128)

知識は急速に陳腐化する。したがって、専門的な継続教育が成長分野となる。(p.129)

知識労働の生産性は、かつてのそれと比べて低下したとさえいってよい。教育や能力に関係のない仕事に時間をとられすぎている。アメリカの看護士は世界でも最高水準にある。しかし、看護士の仕事についてのあらゆるレポートが、彼らの時間の実に八割が看護以外の仕事に使われていることを明らかにしている。特に誰も読みさえしない書類づくりである。何の役に立つのかはわからないにもかかわらず書類は記入しなければならず、それは看護士がやらざるをえない。(p.145)

労働力の合理化を旗印に、今後はアウトソーシングが鍵になるようだ。派遣社員もアウトソーシングの一種だから、それを取り仕切る人材派遣業に旨味が出てくる。企業とのパイプがない労働者たちは、人材派遣会社に雇用を依存するしかない。合理化によって、間に入る業者はいくらでも搾取することができる。大昔の奴隷商といい、現代の派遣業といい、いつの時代もピンハネする奴に金がいくようだ。

2002.6.16 (Sun)

ジョージ・オーウェル『1984年』(1949)

1984年(110x160)

★★★★
Nineteen Eighty-Four / George Orwell
新庄哲夫 訳 / ハヤカワ文庫 / 1972.2
ISBN 4-15-040008-3 【Amazon
ISBN 978-4151200533 【Amazon】(新訳)

1984年。世界は3つの国家に分割統治され、ロンドンは極端な管理社会と化していた。真理省に勤めるウィンストン・スミスは、体制に不満を抱きながらも表面上は従順を装っている。そんなあるとき、職場の女が秘密裡に接触してきた。

練りに練られた管理システムがすごかった。「テレスクリーン」という双方向の受像器で、市民のプライベートを丸ごと監視する(パノプティコン! パノプティコン!)。英語を簡素化した「ニュースピーク」で、言語レベルから市民の思想を統制する(言葉狩り! 言葉狩り!)。敵に対する「二分間憎悪」で、市民の感情をコントロールする(ブレインウォッシュ! ブレインウォッシュ!)。ほか、記録を改竄して歴史そのものを作り替えたり、「2足す2は5」みたいな無理筋を強要したり、その悪夢のような世界観は今でもまったく色褪せていない。むしろ、テクノロジーの発達によって現実味を帯びてきた観さえある。繁華街は監視カメラだらけだし、道路にはこっそりオービスが設置してあるし、携帯電話で位置情報が丸分かりだし……。

社会階層を固定化することで、党による永続的な支配を確立する。肉体的な意味でも精神的な意味でも個人の自由を許さない。反逆者でさえただでは殺さず、多大な手間をかけて洗脳し、最後の一滴まで自由を搾り取っている。この徹底した支配・支配・支配のシステムにくらくらきた。

2002.6.19 (Wed)

飯室勝彦 赤尾光史 編著『包囲されたメディア』(2002)

包囲されたメディア(108x160)

★★★
現代書館 / 2002.5
ISBN 4-7684-6824-1 【Amazon

「メディア規制3法案」をテーマにした評論集。赤尾光史「分断されるメディアとジャーナリズムの構造」、飯室勝彦「最高裁が誘導した慰謝料の高騰」、橋場義之「個人情報保護法案におけるメディアの位置」、本橋春紀「青少年有害環境法案は何をねらっているか」、飯室勝彦「『人権』バッジをつけた"新警察"の誕生」、赤木孝次「メディア規制法案と反対声明などの主張」の6編。

「メディア規制3法案」とはマスコミによる造語で、以下の3法案を指す。

  • 個人情報保護法案
  • 人権擁護法案
  • 青少年有害社会環境対策基本法案

本書の執筆者たちはいずれもメディア側の人間なので、評論も「メディア規制3法案」を批判する内容になっている。

まあ、身も蓋もない権力闘争。自業自得なのであまり肩入れする気にならない。新聞は共同通信だけでいいし、テレビはNHKだけでいいと思う。