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2002.7.23 (Tue)
▽高橋秀実『からくり民主主義』(2002)

★★★★
草思社 / 2002.6
ISBN 4-7942-1136-8 【Amazon】
ISBN 978-4101335544 【Amazon】(文庫)
ルポルタージュ集。「クレームの愉しみ」、「小さな親切運動」、「統一教会とマインドコントロール」、「世界遺産観光」、「諫早湾干拓問題」、「上九一色村オウム反対運動」、「沖縄米軍基地問題」、「若狭湾原発銀座」、「横山ノック知事セクハラ事件」、「富士山青木ヶ原樹海探訪」、「車椅子バスケットボール」、「からくり民主主義」の12編。
一人ひとりとは別に「みんな」をつくって、それを主役にするのです。テレビ局や新聞社が躍起になって世論調査をするのも、「みんな」をつくるためです。「世論」「国民感情」「国民の声」などと呼ばれるもので、こうして主役を固定し、自分たちはその「代弁」という形で発言するのです。要するに、「みんな言っている」「みんな思っている」と後ろ盾を用意するわけです。「誰が何と言おうが……」という発言は自分勝手、と排除されますが、「みんな」を主にすれば、怖いものなしです。「みんなが嫌っている」と拡げれば本当に嫌われ者が誕生するように、政治、マスコミから世間話に至るまで、日本人はとても「民主」的なのです。(p.269)
マスメディアのカウンターみたいで面白かった。メディアが複雑な事象を単純な構図に落としこむのに対し、著者は当事者の言い分からその複雑さを浮き彫りにする。また、メディアが政治的な意志を盛り込んでいるのに対し、著者は傍観者として明確な価値判断を慎んでいる。当事者にはそれぞれの立場があり、何が正しくて何が間違っているのか分からない。報道された“事実”には常に裏が存在する。考えてみれば当たり前のことだけど、にもかかわらず、メディアはあらかじめ自分たちで枠組みを用意し、結論ありきの取材で事実をねじ曲げている。本書はそのことを実践的に明らかにしていて、非常にクレバーだと思った。
なお、解説は村上春樹。意外にも著者とは顔見知りのようだ。なるほど、価値判断を放棄するという意味で、『アンダーグラウンド』とスタンスが似ている。どちらもジャーナリストのお手本のような仕事ぶりだ。
2002.7.25 (Thu)
▲藤沢令夫『プラトンの哲学』(1998)

★★★
岩波書店 / 1998.1
ISBN 4-00-430537-3 【Amazon】
これまでのイデア理解は間違っていた。アリストテレスやハイデガーといった批判者たちを槍玉に挙げ、独自の解釈を掲げてプラトンを賛美している。
入門書のつもりで手にとったけれど、また随分とアクの強い本だった。フラットなタイトルとは裏腹に、独自路線を突っ走っている。どうも哲学系の新書には、この手の「我流」が多いんじゃないかな。『ドゥルーズの哲学』【Amazon】といい、『これがニーチェだ』といい、いずれも前のめりな本で肩すかしを食っている。こういうのは「私の○○論」とでも名付けるべきだではないか?
現代医療のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とプラトンの哲学を結びつけるのは無理がある。臓器移植の理解も駄目駄目。倫理・道徳は不得意なようで、世代の限界を感じさせる。
2002.7.30 (Tue)
△スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』(1996)

★★★★★
Martin Dressler: The Tale of an American Dreamer / Steven Millhauser
柴田元幸 訳 / 白水社 / 2002.7 / ピュリッツァー賞
ISBN 4-560-04748-0 【Amazon】
ISBN 978-4560071717 【Amazon】(白水uブックス)
19世紀末のアメリカ。葉巻商の息子マーティン・ドレスラーが、優れた経営手腕でホテルのオーナーに成り上がる。ホテルは順調に拡大の一途を辿るが……。
この小説にノスタルジックな感慨をおぼえるのは、大量消費社会で失われた精神が描き出されているのみならず、その精神が周囲によって否定されるからだろう。主人公のマーティン・ドレスラーは "American Dreamer" であり、独自の事業を夢想して実現に邁進する。しかし、過激化していくその夢に余人はついていけない。結局は孤独の高みにとり残され、肥大した夢はあっけなく瓦解する。周りと妥協して生きている我々としては、このような夢追い人に共感せざるを得ないわけで、そこに空虚な寂しさを感じてしまう。
もちろん、そういった感情を作り出すのは容易なことではない。材料を料理するテクニックがあればこそだ。本作の場合、伝記調の淡々とした叙述や職人的な細密描写、対象と距離を置いた冷静な視点など、様々な工夫によって幻惑的空間が作り上げられている。本作はけっこう冗長だけど、終盤の過激化ではえもいわれぬスリルが味わえた。こういう過剰さはフィクションの特権だと思う。