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2002.9.22 (Sun)
▲アーシュラ・K・ル=グウィン『空飛び猫』(1988)
★★★
Catwings / Ursula K. Le Guin
村上春樹 訳 / S・D・シンドラー 絵 / 講談社文庫 / 1996.4
ISBN 4-06-263210-1 【Amazon】(文庫)
ISBN 4-06-205880-4 【Amazon】(ハードカバー)
翼をもって生まれた猫の4兄弟。母親に移住を促された彼らは、生まれ育った街を出て、森へ飛んでいく。
ハードカバー版で読んだ。翼を生やした猫のイラストがとてもかわいい。丁寧な線画にパステル調の色彩という、柔らかなトーンで描かれている。正直、話そっちのけで挿絵に魅入られてしまった。絵本における魅力の内訳って、挿絵が7割で文章が3割くらいだと思う。
児童書として特筆すべきは、動物社会が弱肉強食であることに触れているところだろう。森に棲む小鳥たちにとって、空飛ぶ猫という存在は鳥インフルエンザよりも脅威であり、たとえ自分たちは猫の魔の手から逃れられても、巣の中の雛たちは捕食されるのを待つしかない。小鳥たちをもの言う動物として扱ったことで、猫サイド以外の多角的な視点が生まれ、話に広がりが出てきている(魚が何もしゃべらないというのも面白い)。
人間が感情移入できる動物は、時代や地域によってだいぶ変わりそうだけど、猫だけはいつでもどこでも好感を持って迎えられているような気がする。そう思ってしまうほど、本作の猫は愛らしい。筋金入りの犬派も、これを読んだら猫派に転向するんじゃなかろうか。
2002.9.24 (Tue)
▲アーシュラ・K・ル=グウィン『帰ってきた空飛び猫』(1989)
★★★
Catwings Return / Ursula K. Le Guin
村上春樹 訳 / 講談社文庫 / 1996.11
ISBN 4-06-263370-1 【Amazon】(文庫)
ISBN 4-06-205881-2 【Amazon】(ハードカバー)
農場で暮らしていた猫の4兄弟。そのうちの2匹が、母親に会いに街へ戻る。
『空飛び猫』の続編。ハードカバー版で読んだ。相変わらず、翼を生やした猫のイラストがかわいい。
ストーリーについては、黒猫が登場する以外はさして言うことがないかな。あとがきで村上春樹は人種問題について示唆しているけれど(つまり、黒猫=黒人)、本作を読んだ限りではそれほど強く押し出されているようには思えなかった。どちらかというと、縞猫ではインパクトがないから黒猫にしてみました、みたいな感じ。前作同様、あまり重たい問題に踏み込まないよう気をつけている節がある。
2002.9.26 (Thu)
▽アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『すべては消えゆく』(1987)

★★★★
Tout disparaitra / Andre Pieyre de Mandiargues
中条省平 訳 / 白水uブックス / 2002.8
ISBN 4-560-07141-1 【Amazon】
屋根裏部屋に住む53歳の男ユゴー・アルノルド。その彼がパリの地下鉄で妖艶な女ミリアムと出会う。ユゴーはミリアムに連れられて怪しげな契房へ。そこでSMを主体にした快楽を堪能する。
マンディアルグの遺作。これはエロかった。パリに潜む超現実的な空間で、美女との濃厚な濡れ場が用意されている。著者の本を読むのはこれで3作目(*1)だけれど、ここまで身も蓋もないポルノは初めてだったように思う。
さらに、女が化粧箱から金色の細長い円筒を取りだし、その底を捻ると、動物の性器のどんぐり状の亀頭に似た赤い棒がせり出し、彼女はそれを口にもってゆき、丁寧に上唇、ついで下唇に押しあて、それぞれの真中を強く擦って、両端にはわずかな色しか着かないようにし、しかし、内側の粘膜にも赤に色を広げることを忘れず、その操作が完了したと見るや、両唇を軽くすりあわせ、機敏な舌のひと舐めで完璧を期し、舌の先にうっすらと色が着くのを見て楽しんでいた。(p.12)
この小説は最初から最後まで、幻想的な美意識で貫かれている。思えば、地下鉄での出会いは前戯だったのだろう。問いかける男に答える女、2人は役者じみた大仰なセリフ回しで、主従関係を演じている。のみならず、白昼堂々おさわりに興じている。スリットから覗く太股、ドレスからはみ出す乳房、そして執拗に加えられる愛撫。2人はとても初対面とは思えない、大胆な絡みを演じている。
契房に着いてからが本番だ。サラ・サンドなる女が運営するこの屋敷は、世間から隔絶された特殊空間であり、独特の見えないルールで支配されている。その官能の園で2人は裸の格闘技に興じるのだけど、この場面がエロいの何のって。肉体、および精神の見地から、エロスの頂点を極めようとしている。しかも、ただのエロではない。契房は主によって密かに監視されており、男はAV男優よろしく無言の要求に晒されている。
というわけで、一抹の危険と大量の官能が同居した、濃厚なエロスの世界に酔いしれたのだった。
2002.9.29 (Sun)
▲アントニオ・タブッキ『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』(1987)
★★★
I volatili del Beato Angelico / Antonio Tabucchi
古賀弘人 訳 / 青土社 / 1996.12
ISBN 4-7917-5510-3 【Amazon】
短編集。「ベアト・アンジェリコの翼あるもの」、「合成された過去 三通の手紙」、「ドン・ペドロの愛」、「薄闇からのメッセージ」、「以下の文章は偽りである。以上の文章は真である」、「サン・ロマーノの合戦」、「いまはない或る物語の物語」、「翻訳」、「幸福な人たち」、「マカオの文書館」、「最後の招待」の11編。
これは手に負えなかった。絵画をモチーフにした短編が多かったけれど、正直なところどれも何を言っているのかよく分からない。もし本書を最初に読んでいたら、以降この著者の本は2度と手に取ることはなかっただろう。そう思うくらい敷居が高かった。
以下、各短編について。
「ベアト・アンジェリコの翼あるもの」
修道僧が翼あるものと遭遇する。
何かラテンっぽい。キリスト教に由来した不思議生物が出てくる。
「合成された過去 三通の手紙」
国王、占い師、妖精、以上3人による手紙。
「ドン・ペドロの愛」
若き王子ドン・ペドロが、スペイン貴族の令嬢に恋をして結婚する。その後、夫人は斬殺に処される。
「薄闇からのメッセージ」
薄闇がどうのこうの言っているモノローグ。
「以下の文章は偽りである。以上の文章は真である」
タブッキとインド人の往復書簡。
『インド夜想曲』をグノーシス的に解釈するインド人と、それを否定するタブッキ。ちょっとした異文化交流ものになっている。
「サン・ロマーノの合戦」
ヘミングウェイの小説とウッチェッロの絵画。
「いまはない或る物語の物語」
不在の小説について。
幽霊から物語を受け取ったとか。よく分からない。
「翻訳」
どうやら風景画について語ってるらしい。
「幸福な人たち」
スノッブな学者と、彼の愛人と思しき女の会話。
妊娠小説だった。
「マカオの文書館」
飛行機でマカオへ行く。その途上、変なのを幻視する。
「最後の招待」
自殺と死について。