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- 02 : 後藤均『写本室の迷宮』(2002)
- 04 : 横山秀夫『顔』(2002)
- 06 : 『二十世紀フランス短編集』
2002.11.2 (Sat)
▼後藤均『写本室の迷宮』(2002)

★★
東京創元社 / 2002.10 / 第12回鮎川哲也賞
ISBN 4-488-02374-6 【Amazon】
ISBN 4-488-45001-6 【Amazon】(文庫)
推理作家が手記を読む。そこには第2次世界大戦直後にドイツの館で行われた、推理ゲームのことが書かれていた。
入れ子構造の小説。推理作家が手記を読む(第一階層)→ 手記の中では登場人物たちが『イギリス靴の謎』という推理小説の謎を解く(第二階層)→ 『イギリス靴の謎』(第三階層)→ 手記の中に戻る(第二階層)→ 推理作家の世界に戻る(第一階層)、という三重構造になっている。
良かったのは、手記の中の登場人物が『イギリス靴の謎』を解いて大団円を迎えたところまで。そこまでは雰囲気がレトロでのめり込めたし、小ネタや伏線も悪くなかった。ただ、問題は第一階層に戻ってからで、推理作家による怒涛の推理に無理がありすぎた。この推理は、シャーロック・ホームズが服装からその人の個人情報を当てるプロセスと同種の、舞台裏が透けて見える茶番だと思う。舞台設定、物語構造、衒学趣味など、諸々の試み悪くなかったのに、結果的には眼高手低になっていて残念だった。
2002.11.4 (Mon)
▲横山秀夫『顔』(2002)

★★★
徳間書店 / 2002.10
ISBN 4-19-861586-1 【Amazon】
ISBN 4-19-892233-0 【Amazon】(文庫)
連作短編集。「魔女狩り」、「決別の春」、「疑惑のデッサン」、「共犯者」、「心の銃口」の5編。
元鑑識課の似顔絵婦警は、組織の玩具にされて傷ついた過去があった。そんな彼女が仕事を通じて立ち直っていく。
組織と個人の関係にスポットを当てるのが著者の特徴だけど、今回は婦警を主人公に据えることで、人情味や共感などを前面に出している。回復のストーリーも、下っ端のせいかさほど嫌味ではない。よくできたサラリーマン小説だと思った。
以下、各短編について。
「魔女狩り」
マスコミに警察の情報が漏洩した。犯人を突き止める。
適度に軽いので連作への導入部としては最適か。ネタがネタなので地味ではある。★★★。
「決別の春」
放火事件が発生したので捜査する。キーワードは電話相談に情報の加工。
トラウマネタは悪くないのだけど、「情報の加工」というのが解しかねる。過去に凄惨な経験をしたからといって、ホントにそんな性質になるのだろうか。心の病気は奥が深いなと思った。★★★。
「疑惑のデッサン」
後任の婦警の似顔絵を元に犯人が逮捕されたが、その似顔絵は明らかに婦警の力量を越えているように見えた。
「目的は手段を正当化する」ということで、組織によって個人の尊厳が蹂躙されてしまう。でもって、そこへハートウォーミングな物語が絡んでくる。★★★★。
「共犯者」
抜き打ちの銀行強盗対策訓練に合わせて、本物の銀行強盗事件が起きた。情報漏洩者は誰だ。
動機がちゃんと連環しているのが面白い。★★★。
「心の銃口」
交番勤務の婦警が拳銃を強奪される。キーワードは警察マニア、クロスワードパズル。
拳銃に関する問題が取り上げられているものの、他の短編と同じくテーマとしては傍流になっている。事件自体は意外性があって面白い。犯人像も真面目な著者にしては野心的だ。★★★★。
2002.11.6 (Wed)
▲『二十世紀フランス短編集』

★★★
菅野昭正・他 訳 / 『集英社ギャラリー「世界の文学」8』所収 / 1990.12
ISBN 4-08-129008-3 【Amazon】
アンソロジー。ギョーム・アポリネール「ヒルデスハイムの薔薇」、ギョーム・アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」、ヴァレリー・ラルボー「包丁」、レーモン・ラディゲ「ドニーズ」、レーモン・ラディゲ「愛の島」、ロジェ・マルタン・デュ・ガール「アフリカ秘話」、ジャン・コクトー「マルセーユの幻影」、マルセル・エーメ「壁をぬける男」の8編。
幻想小説が中心。現実と幻想を不可分にするところが20世紀的だとか。なるほどねえ。
以下、各短編について。
ギョーム・アポリネール「ヒルデスハイムの薔薇」(1910?)"La Rose De Hildesheim"
ハノーヴァー近くのヒルデスハイムに美しい娘が住んでいた。彼女に惚れた従兄弟が結婚を申し込むも、相手の父親に財産を要求されてしまう。困った従兄弟は、東方の三博士が残したという財宝に全てを賭ける。
従兄弟は気が狂って聖書の伝説を信じてしまう。ここまでならただの笑い話だけど、そこから事態は急転し、町の伝説と照応する叙情的な幕切れを迎える。牡牛はケルビムに似た動物だから聖性が付与されてるそうだ。牡牛の血で樹が甦るのだから、従兄弟はそれほどキチガイではなかったということになる。★★★。
ギョーム・アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」(1910?)"La Dispartion D'Honore Subrac"
オノレ・シュブラックは特殊能力を持っていた。人妻と不倫した彼は夫に追われている。
「生」への渇望によって発現したスタンド能力。これで追っ手もまけるぜ! と思ったら……。逆上した相手は何をするか分からないから恐ろしい。しかも、壁に触ったらまだ生暖かかった。触覚に訴える表現が何ともいえない余韻を残す。★★★★。
ヴァレリー・ラルボー「包丁」(1910)"Le Couperet"
金持ちの子供ミレーが、使用人ジュスティーヌを好きになる。
著者の自伝的小説ということで、少年の心理を生々しく描く。のみならず、ラストでは愛を巡って意外な展開を見せる。ジュスティーヌを虐めたり、ミレーを策にはめたりするジュリアは、傷ついた心を守るために、他者を攻撃していたのだろう。人を愛したミレーは自らの体を傷つけ、それを見たジュリアは愛されない我が身を嘆く。ずいぶんとせつない話だった。★★★★。
レーモン・ラディゲ「ドニーズ」(1920)"Denise"
語り手がドニーズに思いを寄せる。
ラディゲ17歳の作品。恋の駆け引きを描いた心理小説だけど、修辞が大袈裟なのに馴染めなかった。★。
レーモン・ラディゲ「愛の島」(19??)"L'ile D'amour (Carnet II)"
マルヌ河の思い出。「愛の島」で事故を目撃する。
著者の死後、コクトーによって出版された『手帖』の一部。「ドニーズ」とあまり変わってないような……。ラディゲの小説は苦手かも。★。
ロジェ・マルタン・デュ・ガール「アフリカ秘話」(1931)"Confidence Africaine"
作家のデュ・ガールが、知人のイタリア人から秘密の話を聞く。それは公言憚れる背徳の物語だった。
他人の秘密、それも家族にまつわる秘密が部外者に明かされる。これぞ古き良き物語って感じで面白かった。イタリア人の生き様が、冒頭のエピソードに繋がるところが良い。当たり前だけど、過去は現実と繋がっているのだ。★★★★。
ジャン・コクトー「マルセーユの幻影」(1933)"Le FanTome De Marseille"
強盗に手を染めた青年が、官憲の目をくらませるため、女装して生活する。
女装したまま男に囲われる青年。しかし、いつまでもこの生活は続けられない。名残惜しいが男の金を奪っておさらばだ。計画を実行に移そうという刹那、あるものを見たのがきっかけで「隙」が出来てしまう……。
解説の通り映画的な話だった。昔のフィルムノワールにこういうのありそう。破滅を引き起こす運命のいたずらによって、関わった人ら全てが損をしている。★★★★。
マルセル・エーメ「壁をぬける男」(1942)"Le Passe-Muraille"
壁をぬける特殊能力を持った男。上司への復讐を皮切りに、様々な場所でそれを誇示するようになる。
これを読んで『ウィザードリー』を思い出した。よく壁の中に閉じこめられてロストしてたっけ。あのゲームは多くの子供たちにトラウマを植え付けていたと思う。
寓話っぽい内容。人物なり挿話なりがシステマチックに配置されている。男の顛末は皮肉が効いていて、これじゃあ苦笑するしかないって感じ。冒頭で医者に罹っているところといい、人妻攻略の不自然な条件といい、全体的に白々しくて面白い。★★★。