2003.1b / Pulp Literature

2003.1.11 (Sat)

奥田英朗『マドンナ』(2002)

マドンナ

★★
講談社 / 2002.10
ISBN 4-06-211485-2 【Amazon

中間管理職の40代男性にスポットを当てたオヤジ小説集。「マドンナ」、「ダンス」、「総務は女房」、「ボス」、「パティオ」の5編。

第128回の直木賞候補に挙がっていたので手に取った。本書はオヤジの世界をコミカルに描いた一種のファンタジー小説集。会社の問題と家庭の問題の2つが結末で収斂するのと、軽めで後味すっきりなのが特徴的だった。

ただ、軽く読めるのは良いのだけど、本書のファンタジー要素、すなわちオヤジが大人気ない行動をとるところが漫画的過ぎて乗れなかった。特に毎回毎回どつきあいをする流れが興醒め。こうなると軽妙さも鼻について仕方がない。

>>Author - 奥田英朗

2003.1.13 (Mon)

アントニオ・タブッキ『レクイエム』(1991)

レクイエム

★★★★
Requiem / Antonio Tabucchi
鈴木昭裕 訳 / 白水uブックス / 1999.7
ISBN 4-560-07130-6 【Amazon

舞台はリスボン。詩人と待ち合わせ中の「わたし」が追憶の中で様々な人たちと巡り会う。

夢の中のような浮遊感のある話だった。「物語売り」やら、「ジプシーの婆さん」やら、「足の悪い宝くじ売り」やら、いかにも夢想の住人って感じで面白い。行く先々でぼんやりとした雰囲気の対話をして、最後に自殺した妻のもとへ辿り着く。内容は悲しい話が主体だけれど、夢想的な語りのベールに包まれているせいか、あまり押しつけがましなくて読みやすい。死者との再会をファンタジックに、そしてせつなげに描いた本作が、「レクイエム」というタイトルなのも納得できる。何も重厚なだけが「レクイエム」ではないのだ。

>>Author - アントニオ・タブッキ

2003.1.15 (Wed)

フランツ・カフカ『城』(1914)

城

★★★★
Das Schloss / Franz Kafka
前田敬作 訳 / 新潮文庫 / 1971.4
ISBN 4-10-207102-4 【Amazon

仕事を依頼された測量士のKが、冬の伯爵領にやってくる。しかし、村は閉鎖的で部外者に冷たいし、また、城は官僚的で容易に人を寄せ付けない。

あまり小難しいことは考えず、普通に饒舌な小説として楽しんだ。およそ論争の訓練を受けてないような市井の人たちが、Kを説伏しようと長広舌をふるう。登場人物が皆、妙に理屈っぽくって可笑しい。何せ宿屋の小間使いですら、Kの関心を買おうと長大な物語を披露するのである(そして、それは妄想だとKに一蹴される)。さらに、村人たちも城を権威とする独自のルールに従って、彼らにとっての異端者Kに迫ってくる。ナンセンスなことを論理的に、かつ大真面目に語るのが不条理小説なのだろう。読んでいて真っ先に佐藤哲也を思い出した。

部外者のKは村人を支配する城の権威に無頓着であり、だから頻繁に彼らと対立する。これがいかにも西洋人らしくて面白い。たとえばKが日本人だったら、「郷に入りては郷に従う」の精神で、村人たちと同化してしまうだろう。ところが、本作のKは城の権威を頑なに拒む。何かにつけて反抗的な態度をとる。そして、それがゆえに村人たちとの論争が絶えなくなる。仄聞するところでは、安部公房の小説がカフカ的らしい。昔の日本人がこの世界観をどう再現したのか、とても興味がある。

2003.1.17 (Fri)

パット・バーカー『越境』(2001)

越境

★★
Border Crossing / Pat Barker
高儀進 訳 / 白水社 / 2002.9
ISBN 4-560-04752-9 【Amazon

児童心理学者が川に飛び込んだ23歳の若者を助ける。その若者は10歳のときに殺人罪で終身刑になった人物で、学者はそのとき彼の精神鑑定を行っていた。この再会は故意か偶然か?

大学生の若者は現在でも殺人を否認しており、学者は彼との面談によって真相を解き明かしていく。本当に彼は有罪だったのか? 現場にいた形跡はあるものの、手を下した証拠はなく、精神鑑定の結果によって有罪が確定した。そういう曖昧な状況がまず提示される。

端的にいえば「怪物もの」ということになるだろう。浦沢直樹の『MONSTER』【Amazon】みたいな、他者を翻弄するサイコ少年の話。具体的にどう翻弄したのかというと、少年に関わった施設の職員たちが、みんな彼に惚れ込んで規則を曲げていったのである。規則では2人っきりになってはいけないのに、彼が相手だと2人っきりになってしまう。ドアは空けておかなければならないのに、彼が相手だと閉めてしまう。職員をファーストネームで呼んではいけないのに、彼がそれを破っても咎めることがない。と、そういう幾重にも積み重なった異常性が、職員に対するインタビューで明らかになる。

他人を操る術に長けた「怪物」が、劇中を通してどのような波紋を投げかけるのか。期待に胸を膨らませて読み進めたら、話はそっち方面には進まなかった。タイトル通り、境界を越える話ではあったものの、サスペンフルな筋運びとは裏腹にオチがしょぼかったのである。さんざん煽るだけ煽っといてそれかよ、みたいなやたら中途半端な収束。それまで語られてきた少年の異常性とまったく釣り合わないし、諸々の対立項が混じり合っていく(越境していく)設定もあまりよく繋がってない。サイコ少年を題材にするのはそれだけ難しいのだろうけど、それ以前に本作は無駄に煽り過ぎだと思う。