2003.1c / Pulp Literature

2003.1.21 (Tue)

ロバート・B・パーカー『約束の地』(1976)

★★
Promised Land / Robert B. Parker
菊池光 訳 / ハヤカワ文庫 / 1987.4 / MWA賞最優秀長編賞
ISBN 4-15-075653-8 【Amazon

私立探偵スペンサー・シリーズ4作目。スペンサーが家出した人妻を捜索する。

問題の人妻はウーマンリブ・グループに関わるのだけど、このメンバーの思想が凄い。「資本主義は男性による支配システムだから」という理由で、銀行強盗を正当化するのである。何という自分勝手な理屈! はっきり言ってこいつら、連合赤軍やオウム真理教並の狂信ぶりだけど、それにしても実際のウーマンリブ運動はどうだったのだろう? 銀行強盗はあり得ないにしても、武力に訴える程度には過激だったのだろうか? アメリカは激安犯罪の宝庫だから、運動にかこつけての銃乱射くらいは普通にありそうで怖い。

理想と現実に折り合いをつけるというフェミニンな態度については、わりと普通なので特に言うことはないかな。それよりも、スペンサーとホークの関係がただの馴れ合いに堕していてしんどかった。敵対する立場にありながらも、昔の誼ということで衝突を回避しようとする。俺とあいつは似たもの同士のタフガイで互いに尊敬し合ってる。……って、おいおいちょっと厳しいね。こういう逃げ腰な姿勢を「友情」と呼ぶのはおかしいと思う。

2003.1.23 (Thu)

エド・マクベイン『ラスト・ダンス』(2000)

ラスト・ダンス―87分署シリーズ

★★★
The Last Dance / Ed McBain
山本博 訳 / 早川書房 / 2000.11
ISBN 4-15-001695-X 【Amazon

87分署シリーズ50作目。(1) 被害者は心臓発作の老人。絞殺→自殺と見せかける→自然死と見せかける。(2) 情報屋が2人組に射殺される。(3) ミュージカルの原作をパクられたと主張する老婆が殺される。(4) 薬を飲まされ意識不明になったところをレイプされる。

複数の事件がミュージカルの再上演権騒動に繋がるという趣向。メインの事件に関係あると思わせておいて、実は直接的には関係なかったという仕掛けがモジュラー型らしくて好ましい。また、その直接的に関係ない事件から派生した事件が、メインの事件に繋がるという因果関係も極めて合理的で良い。

ほか、『天国と地獄』【Amazon】を引き合いに出した自虐ネタ(p.44)や、ヒッチコックの映画手法をオチにした会話(p.63)など、色々と小ネタがある。

2003.1.25 (Sat)

貫井徳郎『慟哭』(1994)

慟哭

★★★★
創元推理文庫 / 1999.3
ISBN 4-488-42501-1 【Amazon

幼女を狙った連続誘拐事件を軸に、2つのプロットが交互に展開する。(1) 若手キャリアが捜査の指揮をとる。(2) 心にぽっかり穴が空いた男が、新興宗教にはまっていく。

誘拐事件はどう進展するのだろう? 2つのプロットはどこで合流するのだろう? と、複数の興味で読ませる牽引力抜群の小説だった。キャリアとノンキャリアの対立、家庭内の不和、新興宗教の内幕など、捜査のみならず、周辺のドラマのほうにも紙幅を割いている。どちらかというと、本格ミステリというよりはサスペンス小説のような筋運びで、事件に関する有効な手掛かりが得られないまま、月日だけがどんどん過ぎていく。悪化した親子関係を見直しつつ、物語は急展開を迎える……。

確かに一読して不自然な構成だとは思ったけれど、テーマを考えればこの構成をとるだけの必然的な意味があって、たとえ騙すのが主目的だとしても、そこは素直に受け入れられたのだった。サプライズがドラマの演出にもなっているところが好ましく、登場人物の心の動きも、こういうルートを辿ったからこそ納得できる。さらにラスト一行、とある人物のとあるセリフが強烈。オチに残留感があって良い。

それでまあ、本作の読後感をたとえるなら、上質のホワイダニット小説を読んだような気分かな。ミステリの技巧を用いて人間の心の深奥に斬り込む、その意欲的な姿勢が好感触だった。

2003.1.30 (Thu)

アイザック・アシモフ『アシモフの科学者伝』(1959)

アシモフの科学者伝

★★★
Breakthroughs in Sciense / Isaac Asimov
木村繁 訳 / 集英社 / 1995.8
ISBN 4-09-251017-9 【Amazon

アルキメデスからアインシュタインまで26のトピックで28人の科学者を紹介。

原題の通り、それまでの科学技術の壁を突破した人たちが取り上げられている。アルキメデスは抽象的であった科学を日常のレベルに応用し、グーテンベルクは活版印刷を考案した。コペルニクス、ガリレオはそれまでの宇宙論を一変させる「地動説」を明らかにし、ニュートンはそれを大きく前進させた。現代人が予防接種や化学療法を受けられるのも、ジェンナーやエールリッヒらの研究あってこそ云々。

本書はこれらの科学者一人に対し5〜6ページを費やして語り、さらに吉永良正による2ページのコラムが付いている。偉人伝の要点が簡潔にまとめられた、短いながらも科学者の偉大さが伝わってくるような内容だった。