2003.2a / Pulp Literature

2003.2.2 (Sun)

村上春樹 安西水丸『村上朝日堂』(1984)

★★★
新潮文庫 / 1987.2
ISBN 4-10-100132-4 【Amazon

「日刊アルバイトニュース」での連載をまとめたエッセイ集。各トピックの分量は2ページで、それぞれに安西水丸の挿絵がついている。

引っ越し、ギリシャ旅行、映画の思い出など、バラエティに富んだ内容だった。各トピックはどれもオチがしっかり決まっている。余計な教訓のないくだけた話ばかりで、寝る前に少しずつ読むとか、電車のなかで暇つぶしをするとか、とにかく気軽に読めるのがポイントだろう。ヘタウマ調のイラストも微笑ましく、著者の熱心なファンでなくても十分に楽しめる。

イラストの安西水丸を困らせるために、4回にわたって豆腐の話をするところが可笑しい。豆腐はシンプルだから描きづらいだろうという理屈なのだけど、イラストレーターはどこ吹く風とばかりにしっかり絵にしている。また、「カレーライスというのは他人が食べているとすごくおいしそうに見える」(p.87)なるオチを読んで、上手いことを言うなと感心。確かに匂いとビジュアルから食欲をそそられるし、他人のものはやたら魅力的に見える。

あとはホントかウソか分からないような、突拍子のないエピソードが混じっていて面白い。電車に乗るとき、無くさないようにと耳の中に切符を入れていたとか。行政の殺虫イベントによって、何百という毛虫が家の庭に突進してきたとか。ちょっとマジック・リアリズム入っている。

>>Author - 村上春樹

2003.2.5 (Wed)

ジョン・ハンフリース『狂食の時代』(2001)

狂食の時代(108x160)

★★★
The Great Food Gamble / John Humphrys
永井喜久子 西尾ゆう子 訳 / 講談社 / 2002.3
ISBN 4-06-211156-X 【Amazon

食の安全について。

戦後のイギリスは食料自給率をあげるため集約農業に転じた。殺虫剤、化学飼料、抗生物質、遺伝子組換技術などを駆使した結果、食料生産量が飛躍的に増加した。しかしその代償として、環境汚染、食品の安全性の低下などを招いた。

というわけでこの問題は、利便性をとるか、安全性をとるかの二者択一に帰せられ、本書は後者の立場をとっている。大雑把にいえば、行き過ぎた商業主義や科学万能主義を批判している本、という感じだろうか。具体的な数値データ・グラフなどはまったく無いものの、各トピックで取り上げられているエピソードが、この問題の深刻さをリアリスティックに表していて興味深かった(特に養殖魚の話)。

2003.2.8 (Sat)

エミリー・ブロンテ『嵐が丘』(1847)

嵐が丘(112x160)

★★★★
Wuthering Heights / Emily Bronte
永川玲二 訳 / 集英社文庫 / 1979.5
ISBN 4-08-760055-6 【Amazon

嵐が丘に引き取られた浮浪児ヒースクリフは、実の子供のように育てられるも、父の死後、兄弟から虐めを受けるようになる。一つ屋根の下で暮らすキャサリンとの恋。彼女との結婚について勘違いしたヒースクリフは、嵐が丘を出奔する。3年後、彼は金持ちになって帰ってきた。

本作を読むのは今回が初めて。これまでウィリアム・ワイラー監督の映画版【Amazon】を観ただけで済ませていた。

映画版はせいぜい激安女に執着するイカれ男といった感じの恋愛劇だったけれど、本作はそれを遥かに超えたキチガイの恋愛・復讐劇だった。とにかくヒースクリフの情念が凄まじい。何せこのキチガイ、恨みのある人間の子孫(しかも、未成年!)までも復讐の対象にし、「嵐が丘」に連れてきて虐待を施しているのだ。お前はサイコ野郎ですか? 後半で明かされる倒錯した家族関係が、おどろおどろしくて怖気が走る。

以下は 『ジョジョの奇妙な冒険』49巻【Amazon】のカバー折り返し部分に書かれた著者コメント。

作家とかマンガ家とかでも、具体的に作品名は、あげないけれど、特に恐怖の分野に関して「こいつすげー怖ェこと考える人だなあー」と思って作者名を見るとたいてー女性。

本作もその例に入るだろうか。近親相姦的家族関係や、常軌を逸した情念など、男性ではここまで踏み込めないような気がする。

2003.2.9 (Sun)

ラウル・ホイットフィールド『グリーン・アイス』(1930)

グリーン・アイス(110x160)

★★
Green Ice / Raoul Whitfield
小学館 / 2002.9
ISBN 4-09-356391-8 【Amazon

2年の刑期を終えて出所した男が、宝石絡みの殺人に立ち向かう。

主人公が気絶しまくる正統派ハードボイルド。タフガイの条件とは、毎回頭を殴られても気絶で済んでしまうその頭骸骨の硬さ……ではなく、毎回気絶しても殺されないで済むその運の良さにあるのだ!

と、冗談を飛ばしたくなるほど、全編を通して主人公が無防備で笑える。表立って「世直し」を謳う行為といい、危険に飛び込むのに用心を怠っているところといい、あまりすごい奴に見えない。結局は何度か窮地に立たされるわけだけど、そこを毎回「気絶」で切り抜けるのはどういうことだ? いくらジャンルの様式美とはいえ、さすがにこれでは真面目に読む気がなくなる。