2003.2c / Pulp Literature

2003.2.23 (Sun)

ギャビン・ライアル『誇りへの決別』(1996)

誇りへの決別

★★★
Flight from Honour / Gavin Lyall
中村保男 遠藤宏昭 訳 / 早川書房 / 2000.4
ISBN 4-15-208272-0 【Amazon

ランクリン大尉シリーズ2作目。1913年。イタリアの上院議員を暗殺者グループから守る。

『スパイの誇り』【Amazon】の続編。前作が連作中編集だったのに対し、今回はオーソドックスな長編小説になっている。内容はオーストリア=ハンガリー帝国の都市・トリエステを巡った陰謀劇で、徐々に露わになっていく陰謀の全景に、きっちり意外性が仕込まれていて堪能できた。

シリーズ作品として印象的だったのは、主人公が「二人合わせてやっと一人前のスパイ」という意味合いのセリフを吐くところ。前作では探偵小説になぞらえた自嘲気味の記述が目立ったせいか、主人公=ホームズ、アイルランド人部下=出来のいいワトソン、というイメージだったけれど、今回は能力的に不可欠なパートナーという趣きを強くしている。『深夜プラスワン』【Amazon】といい、『裏切りの国』【Amazon】といい、この著者は相方に対する信頼の念を、嫌味なく表現するのが上手いと思う。

2003.2.25 (Tue)

筈見有弘『ヒッチコック』(1986)

★★★
講談社現代新書 / 1986.6
ISBN 4-06-148819-8 【Amazon

ヒッチコック映画に共通するテーマ性や、撮影技法などに重きを置いて語っている。

以下、興味深かった指摘。

  • 高所の恐怖を作品に取り入れるのが特徴の一つ。その集大成が『めまい』【Amazon】。
  • カトリックの影響が見られる。

「カトリックの影響」というのは言われてみればその通りで、例の俯瞰ショットはそういうところから来ていたのか、と得心した。ただ、やはり本書を読むくらいなら、おとなしく『定本 映画術―ヒッチコック・トリュフォー』【Amazon】を読んだほうがよさそう。

2003.2.27 (Thu)

トマス・H・クック『夏草の記憶』(1995)

夏草の記憶

★★★
Breakheart Hill / Thomas H. Cook
芹澤恵 訳 / 文春文庫 / 1999.9
ISBN 4-16-721858-5 【Amazon

30年前の南部で女子高生が○○される事件があった。当時高校生だった語り手が真相を明かす。

今回は一人称の語り手が既知の内容を告白していく形式のせいか、『死の記憶』【Amazon】での懸案だった物語と手法の乖離は見られなかった。語り手の屈折した想念が、物語と仕掛けの境界を曖昧にし、2つを両立させていたのである。本作はよく出来た日本の「新本格」を思い起こさせる内容だった。