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- 21 : エド・マクベイン『マネー、マネー、マネー』(2001)
- 27 : フョードル・ドストエフスキー『永遠の夫』(1870)
- 30 : 山田風太郎『くノ一紅騎兵』
2003.4.21 (Mon)
▲エド・マクベイン『マネー、マネー、マネー』(2001)

★★★
Money, Money, Money / Ed McBain
山本博 訳 / 早川書房 / 2002.9
ISBN 4-15-001721-2 【Amazon】
87分署シリーズ51作目。(1) 麻薬の運び屋が惨殺される。(2) (1)の家に空き巣が入る。さらにシークレットサービスが介入する。(3) 黒人売人が麻薬密売組織の男を殺してごたごた。(4) イスラム原理主義グループによる爆弾テロ。
ビン・ラディンに関係したテロリストが登場する本作は、9.11の同時多発テロ直前に出版されたため、本国で話題になったらしい。今回は複数の線が互いに絡み合うという趣向。事実関係が入り組んでいてとても読みづらい(メキシコ人の名前も覚えづらい!)。
87分署シリーズを語るうえで欠かせないのが、刑事/検事が容疑者と交渉するところだろう。このシリーズでは取り調べの際、刑事が暴力に訴えるなんてことは一切せず、容疑者と紳士的な話し合いが行われる(私が読んだ限りでは)。当初、容疑者は犯行を否認しているのだけど、刑事/検事と交渉することで犯行を認めてしまう。この交渉がとてもスリリングで、まるで売り手と買い手の値引き合戦のように求刑が変動していく。たとえば、懲役75年で始まった交渉が、仲間を売ることを条件として、最終的に2.5年で合意したりするのだ。
そういうわけで、このシリーズ一番の魅力は終盤における駆け引きだと最近は思っている。
2003.4.27 (Sun)
▲フョードル・ドストエフスキー『永遠の夫』(1870)
★★★
Вечный муж / Фёдор М. Достоевский
千種堅 訳 / 新潮文庫 / 1979.6
ISBN 4-10-201007-6 【Amazon】
ヴェリチャーニノフが旧友である「永遠の夫」と再会する。ヴェリチャーニノフには「永遠の夫」の妻を寝取った過去があった。
ちょいニューロティック入ったサスペンス小説。視点はヴェリチャーニノフに固定した三人称で、作者の筆は「永遠の夫」の心理に直接触れず、ヴェリチャーニノフの心理のみを掘り下げている。「永遠の夫」の奇抜な行動によって、彼の妄想がビシビシかきたてられていくのがポイントだろう。マンツーマンの濃厚なコミュニケーションによって、何か企みがあるのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまう。
とはいえ、ヴェリチャーニノフは最初からヒステリックな心理状態にあるため、この部分にはさほど妙味はなかったりする。その代わり、「永遠の夫」の心理を想像させるやり口が巧妙。これを読んで思ったのだけど、ドストエフスキーは心理それ自体を描くよりも、それを演出する手腕に長けているような気がする。それはたとえば、『貧しき人々』における往復書簡形式だったり、本作における視線の設定だったり。終盤で「人間の謎」を解いて溜飲を下げるところなんかはミステリ小説ぽくって良い。
2003.4.30 (Wed)
▲山田風太郎『くノ一紅騎兵』
★★★
講談社ノベルス / 1996.8
ISBN 4-06-181898-8 【Amazon】
自選短編集。「摸牌試合」、「逆艪試合」、「嗚呼益羅男」、「くノ一紅騎兵」、「忍法幻羅吊り」、「忍法女郎屋戦争」、「お庭番地球を回る」、「『甲子夜話』の忍者」の8編。
下ネタ短編集。もう少し突っ込んで言うと、男性の性器ネタである。「衆道の法」で男が孕んだり、死体から魔羅をかき集めて商売したり、おイタをした亀頭が術者の顔に変形したり、発想が荒唐無稽で笑える。本書は1冊まるごと男根尽くしなので、3度の飯より男根が好きな人には堪らないだろう。ただ、そうでない人はちょっと飽きるかもしれない。
以下、各短編について。
「摸牌試合」
結城秀康の魔羅に呪いをかけたら、秀康が女狂いになった。その魔羅の状態を確かめるべく、服部半蔵はくノ一を送り込む。
秀康は駿河の太守を熱望するも、家康はきっぱりとはねつけている。忍法帖は歴史的背景を活用しているから様になるんだな。★★★。
「逆艪試合」
柳生新陰流の当主が、背面剣術の使い手と対決する。
当主がお稚児さんを囲っており、この話は衆道が重要な役割を果たす。でまあ、本作はその辺の描写がぶっ飛んでいて面白い。「体液髄液がしぼりつくされた」とか出てきてびっくりした。しかも、地の文で稚児のことを「ゲイボーイ」とか説明しててもの凄く豪快。★★★。
「嗚呼益羅男」
男根占いで成功した男が、憧れの湯女をものにした後、もっと金を稼ぐべく事業をエスカレートさせる。
徹底的に男根に拘った男の執念が素晴らしい。男根を狩り集めるビジネスはビジュアル的にグロくて苦笑してしまう。★★★。
「くノ一紅騎兵」
関ヶ原直前。武芸に秀で、かつ女と見間違うばかりの美少年が、直江兼次を経由して上杉景勝の小姓になる。
「衆道の法」の話。この美少年というのが超絶テクニックを持っていて、それでもって景勝を悶絶させてるのに笑った。★★★★。
「忍法幻羅吊り」
客と同衾しなくても良いという特別な地位にある遊女(絶世の美女)が、魔羅吊りの術で5人の男たちの股間を刺激する。彼らには共通の過去があった。
女に関連したネタは意外性があって好感触だったものの、エピソードが5人分もあるのはどうかと思う。正直、途中で飽きてしまった。★★★。
「忍法女郎屋戦争」
田沼山城守が吉原に対抗して官営の女郎屋を建設する。その女郎屋は、侍の娘のみを取り揃え、さらに侍に対して優遇装置を取った店だった。
オチがけっこう意外で、しかも唐突でないのが良い。侍の娘は気高いから吉原みたいなサービスが無理というのは、なるほどありそうだなと思った。また、感心したのが山城守の政策で、不遇を託った伊賀者を私設お庭番として召し抱えるのは、確かにクレバーな行為だと思う。★★★。
「お庭番地球を回る」
幕末。元お庭番が使節団と共にアメリカへ渡航する。
日本とアメリカのカルチャー・ギャップが面白い。日本人の朴訥とした態度、異様なまでのプライドの高さと礼儀正しさ。アメリカ人はそれに驚くのだけど、日本人だってアメリカ人に対してギャップを感じ、律儀にそれを帳面に記している。アメリカ人の案内人が、ニンジャの神秘に惹かれるのは確かに分かる。忍法なんて確かに魔法だし。
それにしても、忍法「亀頭相続」はヤバ過ぎ。男2人が勃起した男根を付き合わせて、片方に射精して、それで射精されたほうに術がかかってしまうとは! 純粋にグロい。★★★★。
「『甲子夜話』の忍者」
エッセイ。作者が忍法帖についてあれこれ語りながら、「甲子夜話」に話が及ぶ。
荒唐無稽な設定にもっともらしい理屈をつけるのが、「机上の空論」の面白さなのだという。そういえば漫画の『男塾』も、「民明書房」なる架空の書物をでっちあげて、人間離れした技を理屈っぽく説明していた。確かに胡散臭くて面白かった記憶がある。