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- 01 : アガサ・クリスティ『ゼロ時間へ』(1944)
- 03 : 古処誠二『分岐点』(2003)
- 04 : W・R・バーネット『ハイ・シエラ』(1940)
- 07 : 山田風太郎『忍法八犬伝』(1964)
2003.6.1 (Sun)
▽アガサ・クリスティ『ゼロ時間へ』(1944)
★★★★
Towards Zero / Agatha Christie
田村隆一 訳 / ハヤカワ文庫 / 1976.7
ISBN 4-15-070008-7 【Amazon】
バトル警視が登場するノンシリーズ作品。金持ちの老婦が殺害される。
複合的な心理トリックとちょっとした伏線が一箇所に収斂する構造美的佳作。「ゼロ時間」という発想のみならず、それに合わせたトリックの選択がまさに適材適所といった感じでしっくりくる。中期の会心作といった感じの小説だった。
一方、設定はけっこう強引で、特に読者を引っ掛けるためと思しき某人物の心理状態が、現実にあり得ないような気がして腑に落ちない。一応、伏線はあるにはあったけど……。
2003.6.3 (Tue)
▲古処誠二『分岐点』(2003)

★★★
双葉社 / 2003.5
ISBN 4-575-23457-5 【Amazon】
終戦間際の日本では、中学生までもが塹壕構築に駆り出されていた。彼らは下仕官の横暴に耐えながら塹壕を掘り続けている。そんななか、伍長が何者かに殺された。
共同体の理不尽を扱った心理ミステリ。中学生の中に1人だけ変わったのがいて、その少年を級友と大尉の視点で相対化している。謎で引っ張っていく形式なので、動機の提示法はかなり劇的なのだけど、だからといって扇情的なわけではない。抑制された筆致で病んだ時代を描き出している。
まあ、戦争を扱っている割にオヤジ臭くない(オタク臭くもない)ので、この作風は貴重だと思う。
2003.6.4 (Wed)
▲W・R・バーネット『ハイ・シエラ』(1940)

★★★
High Sierra / W. R. Burnett
菊池光 訳 / 早川書房 / 2003.2
ISBN 4-15-001726-3 【Amazon】
出所した男が仲間とホテル強盗する。
内容はまさに犯罪小説の典型といった感じ。運命の女と出会い、信用できない仲間と犯罪を企て、哀愁漂う結末を迎える。主人公はかつてディリンジャーの仲間だった男であり、何かにつけて少年時代、ディリンジャー時代、刑務所時代を回顧する。これが「未来のない男」を暗示しているようで、やたらもの悲しい雰囲気を作っている。また、ラストの保安官のセリフは、犯罪者にとっての「神話の時代」が終焉したことを宣言しているようで、これまた儚い雰囲気を作っている。蓋し時間とは残酷なものである、とでも言いたげな小説だった。
2003.6.7 (Sat)
▽山田風太郎『忍法八犬伝』(1964)

★★★★
講談社文庫 / 1999.2
ISBN 4-06-264513-0 【Amazon】
慶長18年。里見家を取り潰す口実を作るため、服部半蔵が部下に八顆の珠を盗ませた。八犬士の末裔と伊賀のくノ一が、血みどろの争奪戦を繰り広げる。
今回は8対8のバトル。世評の高い『甲賀忍法帖』よりも、こちらのほうがよく出来てるんじゃないかなあ。宝物を奪還するストーリーはスリリングだし、人体の奥義を尽くしたバトルは、発想がぶっ飛んでいて驚かされる。
八犬士が緊密に協力する間柄ではなく、それが故に筋書きが一筋縄でいかなくなるのが面白い。特に軍師の使う人体改造の術が出色で、これがストーリーを複雑化させると同時に、ラストでせつない余韻をもたらす原因にもなる。一石ニ鳥のよく練られた展開だった。
それと、忍者を早めに使い捨てていくところもポイント高い。忍法帖の場合、能力が判明した忍者については興味が激減するので、すぐに決着がつくとテンポが良くなる。やはり忍術は謎だから怖いのであって、一旦その種がバレると、どうしても緊張感が薄れてしまうのだ。能力を披露した忍者がバタバタ死んでいくのは、エンターテインメントとしては正しい態度といえるだろう。思うに、『甲賀忍法帖』がいまいちだったのは、決着を先延ばしにして引っ張り過ぎたからかもしれない。
忍術については奇想としか言いようがなく、この著者は性器を扱わせたら日本一、いや世界一ではないかと思う。「男根蝋燭」に「陰武者」なんて、いったいどうやって思いついたのやら……。さらに戦った相手が自分と同じタイプのスタンド使い、もとい忍術使いで、思わぬしっぺ返しを食らうという展開も良い。口から精液を吐き出す死にざまには大笑いしてしまった(悲壮な場面なのに!)。こういう荒唐無稽な設定にも、ちゃんと理屈が通っているのだから面白い。