2003.8a / Pulp Literature

2003.8.2 (Sat)

ジョセフィン・テイ『魔性の馬』(1949)

魔性の馬(109x160)

★★★★
Brat Farrar / Josephine Tey
堀田碧 訳 / 小学館 / 2003.3
ISBN 4-09-356461-2 【Amazon

イギリスのある名家では、8年前に遺産相続人である長男が行方不明になった。折しも孤児の青年が長男にそっくりだったため、なりすまして名家に入り込む。遺産を横取りされた形のそこの弟と緊張関係になる。

犯罪に従事する主人公が倫理的に悩むというイライラするような設定を、とある展開への架け橋として使うところが良かった。それと、読み始めはあまりにバレバレなので先行きが懸念された行方不明の謎も、2人の歪んだ関係を作り出す道具として使うところが巧妙だった。

冒頭の引用文によると、ジョセフィン・テイは普段ミステリを読まないような人にも読まれている作家らしい。これはアガサ・クリスティみたいに登場人物の掛け合いが楽しいのと、保守的な古き良き時代の匂いがするからだろう。保守的なところはともかく、キャラ立ちがしっかりしているところは好感触。終始面白く読むことができた。

2003.8.3 (Sun)

デイビッド・グーディス『狼は天使の匂い』(1954)

狼は天使の匂い(91x160)

★★★★
Black Friday / David Goodis
真崎義博 訳 / 早川書房 / 2003.7
ISBN 4-15-001735-2 【Amazon

殺人で指名手配中の男が、ひょんなことからプロの犯罪集団と強盗することになる。

オーソドックスな犯罪小説の道具立てに対し、筋書きはけっこう異色。窮地に陥った主人公が生き延びるためにハッタリかますところを、ハードボイルド風の醒めた筆致で進めていく。ドラマの中心は強盗決行前で、命の危険を回避するための駆け引きがスリリングに描かれる。主人公が妙に強いのが引っ掛かるものの、集団の中で生き残るための方策や、終盤のセンチメンタルな部分などけっこう読ませる。

2003.8.7 (Thu)

エセル・リナ・ホワイト『バルカン超特急』(1936)

バルカン超特急(108x160)

★★
The Wheel Spins / Ethel Lina White
近藤三峰 訳 / 小学館 / 2003.1
ISBN 4-09-356411-6 【Amazon

特急列車で知り合ったばかりの中年女性が行方不明になったので捜索する。

ヒッチコック映画【Amazon】の原作という意味でしか読む価値を見いだせない小説だった。

ヒステリー気味の主人公に周囲の生暖かい態度(主人公の妄想を疑う)といういかにもな対立構造でスリルを煽る。後半、視点を変えることでサスペンスの種類を切り替えているもの、この長さを引っ張るには力不足の感が否めず。謎とその解決が弱いわりに。前述の対立構造だけが突出しているので、読み切るのにけっこうな忍耐を強いられた。

とりあえず、神懸かり的な推理のくだりは映画版を観ていると笑える。

2003.8.9 (Sat)

イヴリン・パイパー『バニー・レークは行方不明』(1957)

バニー・レークは行方不明(93x160)

★★★
Bunny Lake is Missing / Evelyn Piper
嵯峨静江 訳 / 早川書房 / 2003.3
ISBN 4-15-001727-1 【Amazon

保育園に預けたはずの3歳児が行方不明になったので母親が捜索する。物的証拠がないことや彼女のプッツンした言動などから、子供の存在を疑われる。

キ印女の常軌を逸した行動に戦慄する小説。行方不明者の存在そのものに疑いの目を向けるところは、名作『幻の女』【Amazon】を彷彿とさせる。

さすがに先日読んだ『バルカン超特急』と比べれば、本作のほうが格段にスリルの作り方が上手い。アメリカの流動化社会を象徴した設定には興味をそそられるし(*1)、主人公のキチガイぶりも、心理の動きが極端だったり、単語の選択が適切だったりで読ませる。唯一の難点が解明部分の弱さだけど、まあ、これを重視しなければ上質のキチガイ小説と言っても差し支えないだろう。

というわけで、けっこう楽しめた。

*1: 情報化/管理化の進んだ現代が舞台ならこういうストーリーは成立しにくい。