2003.9a / Pulp Literature

2003.9.1 (Mon)

ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』(1592-8)

★★★★
A Midsummer-Night's Dream / William Shakespeare
福田恆存 訳 / 新潮文庫 / 1971.7
ISBN 4-10-202008-X 【Amazon

(1)公爵と婚約者がどうたら。(2)四角関係による恋愛がどうたら。(3)職人芝居がどうたら。(4)妖精の王と女王がどうたら。4つのプロットが錯綜して最後には大団円。

忘れるといけないので(2)の人間関係をメモ(矢印は恋愛感情の向き)。

  • 男A→←女A
  • 男B→女A
  • 女B→男B
  • 女Aの父親は、娘が男Bと結ばれるのを希望。
  • (1)の公爵も父親を支持。

(4)の妖精王が介入。パシリの妖精(パック)が間違った人物にヤクを塗布した結果、

  • 男A→女B
  • 男B→女B
  • 女Bは他の3人がグルになって自分をバカにしていると思う。
  • 女Aも他の3人が同様のことをしていると思う。

のようになる。

本作は人外のものが数多く登場したり、4人の男女が口角泡を飛ばしたり、職人が田舎芝居を披露したりと、かなり賑やか。セリフ回しが快活で楽しい。また、4つのプロットが収斂する大団円はフィナーレ感が強く、これは舞台映えするように計算されてるのだなと思った(当然か)。

2003.9.2 (Tue)

アンドレ・ジッド『田園交響楽』(1919)

★★
La Symphonie Pastorale / Andre Gide
神西清 訳 / 新潮文庫 / 1966.12
ISBN 4-10-204504-X 【Amazon

牧師が盲目の少女を引き取って過ちを犯す。

妻子持ちの牧師が少女に惚れて悲劇になる過程が日記形式で綴られる。牧師の「恋は盲目」を地でいく所業、少女にとっての「田園交響楽」、引き合いに出される「炉端のこおろぎ」など、寓意的な道具立てが特徴的。教義の解釈を巡る対立やカトリック回心の重要性など、キリスト教の素養を必要とする部分が多いので、そういうのが好きな人向けになるだろうか。正直、「盲人が盲人を導く」とか言われてもいまいちぴんとこない。

2003.9.3 (Wed)

戸梶圭太『Cheap Tribe』(2003)

CHEAP TRIBE-ベイビー、日本の戦後は安かった

★★★
文藝春秋 / 2003.8
ISBN 4-16-322110-7 【Amazon

男の負け犬人生を連作短編形式で描く。時代は、1957年、69年、74年、85年、95年。

副題は「ベイビー、日本の戦後は安かった」。舞台になる年代は5つで、日本の戦後をコミカルに弄り倒すという大胆な趣向になっている。『燃えよ! 刑務所』では小泉首相をモデルにした人物が登場していたけれど、今回は石原都知事をモデルにした人物が登場。例によってとんでもない行動を起こしている。毎回感心するのだけど、この著者は実在の人物の弄り方がとても上手い。モデルのイメージを誇張しつつ、適度に落とすところが絶妙だと思う。

2003.9.4 (Thu)

デニス・レヘイン『スコッチに涙を託して』(1994)

スコッチに涙を託して

★★★★
A Drink Before The War / Dennis Lehane
鎌田三平 訳 / 角川文庫 / 1999.5
ISBN 4-04-279101-8 【Amazon

私立探偵パトリック&アンジーシリーズ1作目。主人公の父と親交のあった上院議員から、書類を持って失踪した黒人清掃婦の捜索を依頼される。

「彼らは選挙で選ばれた人間だ。彼らが真実をすべて明らかにする日は、売春婦がただで寝る日さ」(p.24)

ボケ役の男と呆れ役の女みたいな、2人の掛け合いが楽しい。行く先々で軽妙な笑いを撒き散らしている。主人公がボストンの貧困層に近しいせいだろう、フィリップ・マーロウが言わないような下品なネタが多くて面白い。

あまりに軽快な語り口なので、これはコメディ路線なのだろうと思っていたら、後半でかなりのシリアス&バイオレンスな展開になって驚いた。というのも、事件が進展することで人種問題が姿を現し、ついには黒人ギャングとばちばち殺し合うはめになるのだ。さらに、主人公のトラウマ、相棒の虐待、その他の人権問題が一つに収斂し、物語は一層の苛烈さを帯びていく。

こういう小説が出てくるアメリカというのは、やっぱり西部劇のお国柄なんだね、と思うのは短絡的だろうか。この世には絶対至上のものなんてなく、様々な価値観や感情や立場が渦巻いているからこそ、相当の覚悟を決めなければならない。時にはサム・ペキンパーばりに血を撒き散らす必要もある。そして、その行いの正しさというのは当然ながら誰も保証してくれない。自分で適当に理由をつけて納得するしかないのだ。社会というのはそれだけ複雑で混沌としており、いくら文明が発達してもこのルールは変わらない。

しかしまあ、これが行きすぎるとチャールズ・ブロンソン主演の映画みたいになっちまうのか。この手の物語は「複雑さ」が見えないと能天気になるだけだし、何よりそれに感情移入できないと白ける。その点、本作は配慮が素晴らしい。

2003.9.7 (Sun)

マイケル・オンダーチェ『ビリー・ザ・キッド全仕事』(1970)

★★★
The Collected Works of Billy The Kid / Michael Ondaatje
福間健二 訳 / 国書刊行会 / 1994.7
ISBN 4-336-03582-2 【Amazon

ビリー・ザ・キッドの生涯を、詩と写真と散文を交えて物語る。

恋愛や闘争といった場面場面を断片的に歌いあげていて、詩に不慣れな身でもすんなり読むことができた。リズミカルな文章で情景を立ち上げるのが詩の美点なのだろう。神話的な雰囲気を漂わせながらも、そこには人物の「意志」が力強く脈打っている。特に今際の際を描いた詩に、生の息遣いが感じられた。

>>Author - マイケル・オンダーチェ