2003.12b / Pulp Literature

2003.12.11 (Thu)

ポール・アルテ『第四の扉』(1987)

第四の扉(92x160)

★★★
La Quatrieme Porte / Paul Halter
平岡敦 訳 / 早川書房 / 2002.5
ISBN 4-15-001716-6 【Amazon

ツイスト博士シリーズ1作目。オックスフォード近郊の館で密室殺人。交霊会、幽霊の噂、奇術、ドッペルゲンガー。

むかし話題になっていたのを思い出したので読んでみた。確かに某趣向の使い方は面白くて、この小説にはそれ以外に褒めるところがないんじゃないか、というくらい突出している。「本格ミステリ」における某趣向の効用は、作中の出来事を一段上のレベルから公認して推理ゲームを成立させるだけだと思ったので、この使い方には素直に驚いた。

とはいえ、基本的にこの『第四の扉』は「本格」プロパー向けの内輪小説なので、オマージュ元であるディクスン・カー(カーター・ディクスン)の小説を読んでないときついかもしれない(似たようなことは多くの「新本格」に言える)。レトロな雰囲気は堪能したものの、こういう雰囲気に浸りたいなら本家を読めば良いという気もする。

それにしても、郊外の館を中心とした「閉じた世界」の魔力は絶大で、これが作り出す背徳的な雰囲気には不思議とそそられるものがある。そういった要素を情念発露の場として取り込んだ『嵐が丘』は、実はすごい小説だったのではないかと今更ながらに思うのだった。

2003.12.12 (Fri)

ポール・アルテ『死が招く』(1988)

死が招く(93x160)

★★
La Mort Vous Invite / Paul Halter
平岡敦 訳 / 早川書房 / 2003.6
ISBN 4-15-001732-8 【Amazon

密室でミステリ作家の死体。部屋には湯気の立った料理が残されている。

ツイスト博士シリーズ2作目。『第四の扉』から例の趣向を抜くとこうなっちゃうのね、という悪い意味で予想を裏切らない小説だった。良かったのは、「水の半分入った小さなカップ」の処理くらい。なるほど、こりゃ確かに「新本格」だ。

2003.12.15 (Mon)

アーヴィン・ウェルシュ『トレインスポッティング』(1993)

トレインスポッティング(112x160)

★★★
Trainspotting / Irvine Welsh
池田真紀子 訳 / 角川文庫 / 1998.10
ISBN 4-04-278501-8 【Amazon

ドラッグとセックスとバイオレンスに明け暮れるエディンバラの若者たち。レントンは禁ヤクに苦しみ、シック・ボーイは手当たり次第に女を漁り、ベグビーはキレた性格で周囲を怖れさせていた。彼らの刹那的な青春を断章形式で描いていく。

「ハシシ? ハシシだと! おまえってやつは大した漫才師だよ。冷凍グリーンピース一袋で、第三世界の飢えた連中を救おうとするみたいなもんだ」(p.289)

言わずと知れたアーヴィン・ウェルシュのデビュー作。少し前に続編(『トレインスポッティング ポルノ』)が出たので再読した。各エピソードは視点を変えながらもゆるやかに繋がっており、若者たちの堕落した日常を群像劇風に捉えている。失業保険を不正に受給し、仲間たちとだらだら飲んだくれ、ドラッグをキメて至福の快楽に浸る生活。時には禁ヤクに励み、ガキ大将の暴力(バットでお仕置き!)に怯え、ナンパした女とベッドを共にする。長編としては特にがっちりしたストーリーはないものの、レントンという内省的な青年を中心に据えることで、悲痛な青春群像をまとめあげている。無限に思えた彼らの生活も、実は少しずつ前へ進んでいた。狂騒と離別をくぐり抜け、レントンの人生に大きな転機が訪れる。どん底から一転、未来へ飛躍するラストが爽快だった。

2003.12.17 (Wed)

ジャン=フィリップ・トゥーサン『愛しあう』(2002)

愛しあう(104x160)

★★★
Faire L'amour / Jean-Philippe Toussaint
野崎歓 訳 / 集英社 / 2003.11
ISBN 4-08-773390-4 【Amazon

塩酸を持ち歩いている男は、有名デザイナーの女と付き合っていたものの、今では相手にうんざりして破綻寸前だった。そんな彼らが最後の旅行として東京にやってくる。

前半は新宿のホテルを主要な舞台として、終末期の危機的なロマンスを展開。後半に入ってからは、語り手が一人京都の友人宅にまで足を伸ばす。この小説は外国人の目から見た日本の有り様が面白く、新宿の夜空や深夜に映るテレビ、新幹線での何気ない一コマなど、言葉を選んだ情景描写が冴えている。

正直、おフランスらしい男女関係のプロット(「大人の恋愛」の一言で要約できそう)にはそれほど惹かれなかったのだけど、時折おっと思わせるシーンが出てきて、何とも微妙な心持ちになったのだった。

まあ、「微妙な心持ち」というのは語弊があるかな。これはつまり、面白いんだかつまらないんだかよく分からない、二律背反的な感情が同居しているというか。あるいは、とくべつ好きでもなければ嫌いでもないというか。

ともあれ、文章で魅せる小説であることは確かで、本作はそのタイプの例に漏れず書き出しにインパクトがある。

塩酸を詰めた小瓶を、いつかだれかの顔に投げつけてやろうと考えて、肌身離さず持ち歩くようになった。(p.6)

この劇物はどのように使われ、どのような運命を導くのか? 女にぶっかけて関係を解消? それとも、自分で浴びて世界と決別? 本作は塩酸で始まって塩酸で終わる物語であり、ラストも引用したいくらい印象深かった。

>>Author - ジャン=フィリップ・トゥーサン