2003.12c / Pulp Literature

2003.12.21 (Sun)

古処誠二『接近』(2003)

接近

★★★
新潮社 / 2003.11
ISBN 4-10-462901-4 【Amazon

戦争末期の沖縄で、少年と兵士が接近する。

前作『分岐点』【Amazon】同様、戦時下における住民と兵士の関係を少年の目線から捉えた小説。戦争教育が及ぼした陰を中心としながら、当時の大人社会の理不尽さと個人の弱さが描かれている。

「住民と兵士」という切り口はこの著者の持ち味で、自衛隊ものである『UNKNOWN』【Amazon】と『未完成』【Amazon】でも、その方面に関心が向けられていた。そして、太平洋戦争に舞台を移した『ルール』【Amazon】以降も、基本的にその視点は保たれたままでいる。これは共同体における普遍的な問題で、一連の小説群は、組織における個人の葛藤をテーマにした企業小説(?)に通じるものがある。国家、企業、地域社会と、共同体に属していれば何かしらの矛盾を抱えるわけで、だから「戦争の悲劇」に興味がない人にも、この著者の小説には共感できるのではないかと思う。ちなみに、これと似たようなことは、横山秀夫の小説を勧めるときにもいえる。いや、別に勧めるつもりはないけれど……。

本作で気になったのはラスト1、2ページ。謎に包まれたある人物の心理を、主観的解釈でまとめてしまうところが引っ掛かった。本作のラストはデリケートな心理を扱った重要シーンなのだけど、こういう説明をすることで感動演出的な企みが露骨になってしまったように思う。エンターテインメントだから説明するのは仕方がないとしても、見せ方が感心しない。

2003.12.23 (Tue)

ミシェル・リオ『踏みはずし』(1991)

踏みはずし

★★★★
Faux Pas / Michel Rio
堀江敏幸 訳 / 白水uブックス / 2001.7
ISBN 4-560-07138-1 【Amazon

独自の哲学的ルールに従って生きている殺し屋が、財界の大物の依頼によって、ジャーナリストの家に侵入する。そのジャーナリストは、大物を蹴落とすとある証拠を掴んでいた。

心理描写が一切無い、ハードボイルド・タッチの小説だった。主人公はプロの殺し屋。心臓や頭を一発で撃ち抜く凄腕であり、警察の目を誤魔化す犯行偽装もお手のもの。一方、下半身もお盛んで、知り合った人妻をこれ以上ないくらい満足させている。無口で冷酷で底の知れないこの男は、さしずめフランス版「ゴルゴ13」といったところ。ただ、「ゴルゴ」と違うのは、彼が独特の哲学的ルールに従順なことだろう。勝手に世界をこちら側とあちら側に分けて、自分のルールに抵触する存在をぶち殺している。

何か深遠なことを言っているらしいアフォリズムには辟易させられたけれど、現実感のない不思議な雰囲気には惹かれるものがあった。特にルール破綻の原因となる、母娘との触れ合いが素晴らしい。それまで冷酷な人殺しの場面が続いたからこそ、この平和なやすらぎの場面が強調される。結局これは、変則的な恋愛賛歌なのだろうな。観念よりも行動が重要みたいな。ハードボイルドなタッチゆえにラストは際立つ。

2003.12.30 (Tue)

鈴木淳史『不思議な国のクラシック』(2002)

不思議な国のクラシック―日本人のためのクラシック音楽入門


青弓社 / 2002.12
ISBN 4-7872-7162-8 【Amazon

日本人のためのクラシック音楽入門書。西洋音楽に接する心構えとして日本の文化的背景を探る。

斉藤美奈子を100倍鬱陶しくしたような本。「クラシック音楽」を「エロなオレ様音楽」と言い換えたり、「ボクらみんな日本人じゃ〜ん仲良しあるね」みたいな恥ずかしいフレーズを多用したり、飛ばし読みの誘惑に打ち勝つのが困難だった。音楽ネタにかこつけた日本論は裏付けに乏しいし、第5章にある類型化は政治的な立ち位置の表明に過ぎないし、そもそも文章が下手過ぎて読むのがしんどい。アウトローを気取るにもそれなりの技術がいるのだなと痛感したのだった。