2004.2c / Pulp Literature

2004.2.23 (Mon)

パトリック・マグラア『愛という名の病』(1993)

愛という名の病(102x160)

★★★
Dr. Haggard's Disease / Patrick McGrath
宮脇孝雄 訳 / 河出書房新社 / 2003.10
ISBN 4-309-20388-4 【Amazon

医者が人妻と不倫した過去を語る。

あまりに語り方が不自然なので叙述トリック付きのミステリ小説かと思って読んだら、中身は猟奇付きのゴシック小説だった。強烈な場面はあるけれど、仕掛けはそう強烈でもない(綱渡り技巧系ではない)。戦争の不安を背景にした雰囲気重視の小説で、その独特の病んだ世界観は『嵐が丘』【Amazon】を彷彿とさせる。

個人的にゴシック小説に慣れていないせいか、雰囲気を作るための見立て表現に引っ掛かるものがあった。たとえば、ホルマリンの匂いが死の匂いを暗示していたり、戦争の不安が個人の不安を象徴していたり、そういうのがわざとらしいように思ってしまう。これは見立ての使用それ自体が悪いのではなく、因果関係を語り手に説明させているのが原因。そのため、わざとらしさが際立っているように見える。

見立ての説明に関しては、語り手の不安を「連想」という行為で表現したもの、と解釈できそうではある。ただそれにしては、表現の裏にある作者の思惑が剥き出しになり過ぎているようにも思う。この辺の野暮ったさが気になってのめり込むことができなかった。

2004.2.28 (Sat)

イアン・マキューアン『異邦人たちの慰め』(1981)

★★★
The Comfort of Strangers / Ian McEwan
宮脇孝雄 訳 / 早川書房 / 1994.3
ISBN 4-15-207837-5 【Amazon

旅行中の男女の前に奇妙な男が現れる。

いかにも女流作家が書きそうな、先読み不能系のサスペンス。読み終わった後、「この青年はなぜ変態になったのだろうか」という疑問が残った。いちおう、大元の原因は子供のころの家庭環境にあって、抑圧的な父が諸悪の権化のように思える。しかし、それだけでは一線を越えるほどの理由にはならず、他に色々な要素があったのではないかと想像してしまう。もちろん、そういった疑問は極めて不毛であり無意味なのだろう。説明されないからこそ居心地が悪いわけだし。

安手のサスペンス映画みたいな展開にはのけぞった。日常と隣り合わせに危険があるということなのだろうけど、あまりに唐突なので物語を投げ出したように思える。なかなか一筋縄ではいかない小説だった。

>>Author - イアン・マキューアン

2004.2.29 (Sun)

イアン・マキューアン『セメント・ガーデン』(1978)

セメント・ガーデン(110x160)

★★★
The Cement Garden / Ian McEwan
宮脇孝雄 訳 / 早川書房 / 2000.3
ISBN 4-15-208267-4 【Amazon

子供4人が母親の死体をコンクリート詰めにして自由を謳歌する。

この小説の大きな柱は「楽園喪失」なんだろうけど、ただそれを構成する要素として、父権制度への嫌悪が無視できない前提になっていると思った。生前の父親は抑圧的な人物として描かれているし、疑似家族を形成するときには誰も父親役に収まらない。物語の途中で姉が母親役に転じるのに対し、語り手は最後まで父親役にならないでいる。しかも、自分が忌避するだけではない。姉の恋人が父親役を買ってでたときも、語り手は本能的にそれを拒否している。

>>Author - イアン・マキューアン