2004.4b / Pulp Literature

2004.4.11 (Sun)

フョードル・ドストエフスキー『地下生活者の手記』(1864)

★★★
Записки Из Подполья / Фёдор М. Достоевский
小沼文彦 訳 / 旺文社文庫 / 1975
ISBN 4-10-201009-2 【Amazon】(新潮文庫)

20年間地下で生活している元小役人の手記。第1部「地下生活」、第2部「ぼたん雪に寄せて」の2部構成。

第1部で現在の自分の思想を語り、第2部で24歳の頃の苦い思い出を語る。本作はドストエフスキーがシベリア時代に培った思想をぶちまけた小説で、後の五大長編のエッセンスが含まれた超重要作であるらしい。おそらく第1部の人間生活に関する知見が肝なのだろう。第1部では社会不適合者の立場から、行動者に対する不信を蕩々と語っている。最近、「自分以外はバカの時代」という言葉が話題になっていたけれど、この語り手も、自分以外はバカだと決めつけている。

観念的な第1部に対して、第2部は自らの経験を語った回想の章だ。内容は『二重人格』を彷彿とさせる駄目男ストーリー。主人公のコミュニケーション能力の低さが強調されている。旧友からまともに相手にしてもらえないところも痛々しいけれど、その腹いせとして見知らぬ売春婦に説教垂れるところがもっと痛々しい。自意識過剰でコミュニケーション下手な主人公。まさに「駄目な奴は何をやっても駄目」の世界である。

文学的な小難しいことはよく分からないけれど、この小説は今日的なテーマである「去勢された男性」を描いた小説ではないかと思った。自信がないから自意識過剰なのだし、自信がないから他人とまともにコミュニケーションがとれない。そして、他人から反応という形で評価されることによって、自信のなさはますます増幅される。自我のネガティブ・スパイラル。こういう悩みは昔からあったのだな、と妙なところで感心した。

>>Author - フョードル・ドストエフスキー

2004.4.14 (Wed)

ドン・デリーロ『ボディ・アーティスト』(2001)

ボディ・アーティスト(107x160)

★★★
The Body Artist / Don Delillo
上岡信雄 訳 / 新潮社 / 2002.2
ISBN 4-10-541803-3 【Amazon

ボディ・アーティストの夫である映画監督が自殺した。

『コズモ・ポリス』の前の小説で、ちょっと捻った喪失と再生の物語。主人公の変化がストーリーの軸だけれど、例によって噛み合わない会話と奇妙な語り口が、小説全体を異様な雰囲気で包んでいる。訳者あとがきによると、これが「異化」というやつらしい。『コズモ・ポリス』同様、現実から実体感を遊離させる手法が、物語そのものよりも印象的だった。

ただまあ、この「異化」の部分が鼻につかないでもない。特にインターネットやテープレコーダーといったテクノロジーの組み込み方が、安直でカッコつけすぎのような気がする。インターネットに接続してテレビカメラが映す風景(=虚像)を眺めるとか。テープレコーダー越しに愛しい人の声を聞く(=間接コミュニケーション)とか。「実体」を云々するには工夫がなさすぎると思うのだけど、まあ、こういうのをとやかく言うのはナンセンスなのだろう。相変わらず雰囲気づくりは凄まじいので、とりあえずは引き続き他の小説にも手を出してみることにする。