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2004.5.11 (Tue)
△アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』(1952)
★★★★★
The Old Man and the Sea / Ernest Hemingway
福田恆存 訳 / 新潮文庫 / 1966.6
ISBN 4-10-210004-0 【Amazon】
キューバ。不漁続きの老漁師が小舟で沖に出る。巨大なマカジキと4日間戦って勝利するも、帰る途中、鮫の妨害に遭う。
老人の不屈の闘志がカッコイイ海洋小説。その場で調達した魚を生で食したり、棍棒で獲物を打ちのめしたり、生きるための戦いがストイックな筆致で描かれている。解説の福田恆存は老人をギリシャ叙事詩の英雄に見立てているけれど、これはもの凄く言い得て妙だ。老人のヒロイズムに胸を打たれるのは、彼の強さ弱さをひっくるめた全てを、淡々とした叙述で捉えているからだろう。命を奪うことへの疑問や、手ごわい魚への共感。船上で感じ取った哲学が、老人の生き様に収斂されていくのが素晴らしい。
ところで、巷では「鮫=批評家」という説があるようだ。獲物が食い荒らされるところがやるせない本作だけど、老人が批評家をめったやたらに叩いているのを思うと、途端に喜劇になって面白い。マカジキが作品、鮫が批評家とすると、母なる海は作者になるだろうか。マカジキも鮫も、海がなければ生まれることもない。そして、棍棒で鮫と対峙する老人は、獲物の偉大さを知る良心的な読者である。ヘミングウェイはインチキ批評家たちを叩き殺すよう我々を扇動しているのだ。
というわけで、ヘミングウェイの長編だったらこれがベストかもしれない。
2004.5.13 (Thu)
▽バリー・ユアグロー『一人の男が飛行機から飛び降りる』(1984,87)
★★★★
A Man Jumps Out of an Airplane / Barry Yourgrau
柴田元幸 訳 / 新潮文庫 / 1999.8
ISBN 4-10-220911-5 【Amazon】
「一人の男が飛行機から飛び降りる」と「父の頭をかぶって」、2冊合本の超短編集。全149編。
ほとんどが「一人の男」か「私」を主人公にした不条理ネタ。明快で分かりやすいオチを持ったものは少ない。その代わり、映像を喚起させる的確な描写が小気味良く、奇抜な状況と相俟って豊穣な想像力の世界を展開している。散文詩みたいだ、というのは言い過ぎにしても、ほとんどの超短編には一定のスタイルから生じるリズムがあって、それが独特のリアリティに寄与している。
動詞の現在形を積み重ねるところは、グスタフ・ハスフォードの『フルメタル・ジャケット』【Amazon】を思い出した。この小説はスタンリー・キューブリック監督による同名映画【Amazon】の原作で、ベトナム戦争下の若者にスポットを当てた内容。ハスフォードの小説版は、戦争という非日常空間を、単調な現在形を多用することで生々しく表現していた。どうやら、本書でも使われたこの手法は、非日常空間や不条理な状況などと相性が良いらしい。
後半の「父の頭をかぶって」では、連作ならではの仕掛けが堪能できる。実のところけっこう外れが多くて辛かったのだけど、これにはしてやられたのだった。
2004.5.15 (Sat)
▲エド・マクベイン『幽霊』(1980)
★★★
Ghosts / Ed McBain
井上一夫 訳 / ハヤカワ文庫 / 1990.9
ISBN 4-15-070788-X 【Amazon】
87分署シリーズ。ベストセラー作家が刺殺される。
良くも悪くも柔軟なのが87分署シリーズの特徴ということで、前作のハードボイルド風に続いて、今回はオカルト風の内容だった。1980年、呪われた家、幽霊と来れば、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』【Amazon】が思い浮かぶ。きっと当時のアメリカはオカルトブームだったのだろう。
超常現象ネタを盛り込みながらも、事件自体は極めて散文的に終わる。いつも通り、地道な捜査でもって犯人に肉薄し、いつも通り、何の変哲もない激安犯罪者を逮捕する。オカルトに歩み寄りながらも、決して本道を忘れないところが好ましい。
とはいえ、終盤のダブルミーニングはさすがにどうかと思った。