2004.10b / Pulp Literature

2004.10.11 (Mon)

フランシス・H・バーネット『小公女』(1905)

★★★
A Little Princess / Frances Hodgson Burnett
伊藤整 訳 / 新潮文庫 / 1953.12
ISBN 4-10-221401-1 【Amazon

お嬢様のサアラが父の死によって寄宿舎のミンチン先生にこき使われる。

少女小説のサンプルとして打ってつけの一冊。つまり、(1) 若い女性にとって最大の敵は更年期障害のおばさんであり、(2) 少女にとって奔放な想像力は宝であり、(3) 物語構造が足長おじさん願望とシンデレラ願望を反映している、ということである。(1) は弱者と強者の理不尽な関係としても、また、嫁姑問題のアナロジーとしても共感できるし、(2) は『赤毛のアン』【Amazon】の例を引くまでもなく、孤独を癒す道具になっていて感慨深い。(3) は都合良すぎるような気もするけれど、社会が男性中心で回っている以上、仕方がない面もある。

転落から復活するという非現実的な枠組みのなかで、「情けは人のためならず」という現実的な教訓を取り入れているところがポイント高い。サアラ自身は無自覚とはいえ、それでも彼女の善行にはリターンがある。イケてない女の子と仲良くしたおかげで孤独が癒されるし、被征服者であるインド人と仲良くしたおかげで差し入れが貰える。そして、それらが巡り巡ってラストの復活にまで繋がるわけだ。人の親なら、この「情けは~」を表した部分に惹かれるのだろう。

サアラはマイク・ハマーなんかよりもずっとタフで、頑強な肉体を望めない少女だからこそ、精神の強さが際だつ。この忍耐力と適応力の高さ、さらに自分を見失わない芯の強さは一体どこから来るのか? 模範的な解答を述べるならば、これはひとえに親の愛情の賜物であり、真っ直ぐ育った奴は強いという情操教育の一つの到達点を示している。金持ち父さんのクルウ大尉は、決して富に物を言わせてただ娘を甘やかしていただけではないのだ(……と思いたい)。

そんなわけで、こういう対象から透けて見える愛情の深さというのも、少女小説にとっては重要なファクターなのかもしれない。

2004.10.13 (Wed)

アーサー・コナン・ドイル『四つの署名』(1890)

★★★
The Sign of Four / Arthur Conan Doyle
延原謙 訳 / 新潮文庫 / 1993.2
ISBN 4-10-213406-9 【Amazon

ホームズもの長編2作目。インドの秘宝を巡って殺人事件が発生する。

ワトスンがロマンスを演じたり、ホームズがコカインを打ったりする長編。ホームズが犯人を追いつめる探偵パートと、捕まった犯人がそれまでの因果を語る回想パートに別れている。今日的な見地からすれば2つの繋ぎ合わせがぎこちないように思えるけれど、しかしそれぞれ違った味わいがあるので、見ようによっては「一粒で二度おいしい」と言えるかもしれない。

本作は大英帝国全盛期の小説ということで、倫理や風俗など時代性を感じさせる部分が面白い。なかでも毒矢を吹く土人なんか、ほど良くファンタジー入っていて楽しませてくれる。何せ人間扱いされてないから。類人猿扱いだから。『ストリートファイター』のブランカや、『グラップラー刃牙』の夜叉猿みたいだから。さすが7つの海を股にかけた大英帝国。秘境の野蛮人を描かせたら天下一品である。

ちなみに、ヴィクトリア女王(在位1837-1901)がインド皇帝に即位したのが1876年。『世界の歴史22 近代ヨーロッパの情熱と苦悩』【Amazon】によると、大衆の帝国意識は1870年代から世紀末にかけて増大していったようである。この時代は土人蔑視とジェントルマン意識の温度差が面白そうなので、もっと植民地に言及した小説を読んでみたいと思った。

>>Author - アーサー・コナン・ドイル