2004.11c / Pulp Literature

2004.11.23 (Tue)

スティーヴ・ハミルトン『狩りの風よ吹け』(2001)

★★
The Hunting Wind / Steve Hamilton
越前敏弥 訳 / ハヤカワ文庫 / 2002.5
ISBN 4-15-171853-2 【Amazon

私立探偵アレックス・マクナイト・シリーズ3作目。30年ぶりに再会した友人の、昔の恋人を捜す。

2作目の『ウルフ・ムーンの夜』【Amazon】は未読。思えば1作目の『氷の闇を越えて』【Amazon】は、主人公が心的外傷から回復する嫌味すれすれの小説だった。70年代から流行りだした、故障持ちハードボイルドの後継といった風情だったのである。では、シリーズ3作目にあたる本作はどうかといえば、さすがに1作目ほど嫌味度は高くなかった。これはおそらく、主人公に回復の必要性がなくなったことと、彼が狂言回し役に落ち着いたことの、2つが原因だろう。本作は展開が荒唐無稽だったり、友人の動機に新たな意味が付加されたり、序盤のロマンチックな性向を逆手にとった意地の悪さが好ましい。さらに、相変わらず謎で引っ張る手際にも優れており、舞台が閉鎖的な田舎町に移る辺りからページをめくる手は止まらなくなった。

ところが、それが読み終わってみると、随分しょうもないものを読んでしまったなというげんなりした気分になったのだった。殺人沙汰まで引き起こした事件の真相が恐ろしく安っぽいのはどうかと思ったし、ラストで無理矢理「ほろ苦い体験」に落とそうとするところも、内容の割にカッコつけ過ぎという感じでかなりきつかった。本作を読んで分かったのは、「面白い小説」と「ページターナー」は意外と両立しないということ。小説はプロセスも大事だけど、同様にすべてを引き受けるオチも重要なのだと思い知った。

2004.11.25 (Thu)

原りょう『私が殺した少女』(1989)

私が殺した少女

★★★★
ハヤカワ文庫JA / 1996.4 / 第102回直木賞
ISBN 4-15-030546-3 【Amazon

私立探偵・沢崎シリーズの2作目。沢崎が営利目的の少女誘拐事件に巻き込まれる。犯人の指示で身代金の運び役を引き受けるはめに。

最新作を読むために再読。日本の営利誘拐のほとんどが、被害者の身内か知人による犯行らしい。犯人側が恐ろしく慎重でかつ狡猾なため、捜査陣は振り回される。沢崎は暴行によって気絶させられたり、犯人に仕立て上げられそうになったり、もう大変。急展開後、探偵は親類の依頼もあって身内を洗っていき、反撃の狼煙をあげる。

リアル志向の都市型探偵小説ということで、どうしても最近読んだ『生首に聞いてみろ』を思い出すのだけど、本作は謎解きも捻りも『生首〜』の後だとちょっと物足りない。なぜそう感じるのかというと、『生首〜』が仮説と検証を繰り返す構造だったからで、探偵役が試行錯誤をしながら、短いサイクルで捜査方針を修正していくところが刺激的だった。さらに終盤の捻りも、伏線が縦横無尽に張り巡らされていて満足度が高かった(ついでに、後味の悪さも良かった)。

ただ、これは単純に読むタイミングの問題であり、単体で判断すれば本作は良質のハードボイルドなんだと思う。特に沢崎のへらず口は今回も快調で、会話や地の文で使われるフレーズが、実生活で使用してみたくなるほどウイットに富んでいる。雰囲気の格好良さに関しては、本家チャンドラーを遙かに越えているかもしれない。

>>Author - 原りょう