2004.12b / Pulp Literature

2004.12.17 (Fri)

プロスペル・メリメ『カルメン』(1829-)

★★★★
Carmen / Prosper Merimee
堀口大學 訳 / 新潮文庫 / 1972.5
ISBN 4-10-204301-2 【Amazon

初期から中期の作品を集めた短編集。「カルメン」、「タマンゴ」、「マテオ・ファルコネ」、「オーバン神父」、「エトリュスクの壺」、「アルセーヌ・ギヨ」の6編。

以下、各短編について。

「カルメン」(1845)

カルメンに翻弄されるドン・ホセ。カルメンというと「情熱的な女」というイメージが刷り込まれていたけれど、実際読んでみるとそんなことはなかった。ただのキチガイである。むかついた女の顔を小刀でX斬りする自制心のなさが素晴らしい。刻一刻と猫の目のように変わる態度も常軌を逸している。やはり何考えているのか分からない奴は怖い。あまりお近づきになりたくないタイプである。しかしながら、束縛を嫌がる自由人という造詣は魅力的。女性の現実主義と有為転変さがリアルに描かれているため、こういう猛女が実在してもおかしくないという気にさせる。★★★★。

「タマンゴ」(1829)

黒人タマンゴの反乱。このタマンゴというのは本来は奴隷商だった。ところが、白人の不義理でうっかり捕まってしまう。商売相手を奴隷にする白人も非情だけど、余剰な奴隷をブランデー一杯で売ろうとしたり、酔った勢いで銃殺しまくったりするタマンゴも非情だ。まさに「一人一円の命」の世界である。支配者と非支配者の流転する力関係を描いたこの短編は、19世紀暗黒時代の一コマを鮮やかに切り取っている。★★★★。

「マテオ・ファルコネ」(1829)

コルシカの非情な男マテオ・ファルコネが容赦のない裁きを下す。短い淡々とした小説で、それゆえに結末のインパクトが強い。まるでヘミングウェイの短編を読んだような気分。★★★★。

「オーバン神父」(1848)

有閑マダムと神父の関係。書簡形式でそれなりにどんでん返しのある話。ただし、あくまでそれなり。★★★。

「エトリュスクの壺」(1830)

青年が不倫相手の伯爵夫人の浮気を疑う。この小説は「エトリュスクの壺」というのが浮気の象徴になっていて、これが物理的に打ち砕かれるところに意味がある。★★★★。

「アルセーヌ・ギヨ」(1844)

彼氏に振られた娘が自殺未遂を起こす。この小説の登場人物は、メリメと関わった実在の人物をモデルにしているらしい。メリメ自身をモデルにした人物もいるようだ。当時は発表と同時にスキャンダルを巻き起こしたそうだけど、事情を知らない門外漢からすれば、中身は退屈なメロドラマでとてもつまらない。しかも、収録作の中で一番長いのだから勘弁してほしい。★。

2004.12.18 (Sat)

アルフレッド・ベスター『願い星、叶い星』(1941-)

願い星、叶い星

★★★★
Star Light, Star Blight / Alfred Bester
中村融 編訳 / 河出書房新社 / 2004.10
ISBN 4-309-62185-6 【Amazon

日本オリジナル編集の短編集。「ごきげん目盛り」、「ジェットコースター」、「願い星、叶い星」、「イヴのいないアダム」、「選り好みなし」、「昔を今になすよしもがな」、「時と三番街と」、「地獄は永遠に」の8編。

以下、各短編について。

「ごきげん目盛り」(1954)

殺人アンドロイドと主人の逃避行。アンドロイドは殺人ができないように作られているのに、なぜか狂って殺人を犯してしまう。アンドロイドと主人の一人称が混じっているため、始めは困惑させられたけれど、中盤以降はこれが独特のテンションを引き出している。タイトルの意味が明かされる下りも、まさにごきげんって感じ。★★★★。

「ジェットコースター」(1953)

サイコ入った暴力的な書き出しにびっくりしたのも束の間、その後の人間の業を感じさせる部分にもびっくりする。テクノロジーは発展しても、人間だけはいつまで経っても進歩しないのだな。所詮、動物に過ぎないから。これは、オーバーロードの助けがいるかも。★★★★。

「願い星、叶い星」(1952)

怪しいおじさんが聞き込みをするというのが発端。そこから物語はあれよあれよと予想もつかない方向に転がり、最後にはとんでもない事実に直面する。おじさんがドン・キホーテ的な狂気を披露して笑えるし、その狂気が実は……というのも面白い。現実離れした空間描写はSFの醍醐味だなと改めて思った。★★★★。

「イヴのいないアダム」(1941)

テクロノジーのせいで地球がダメになったという終末系の話。大地が裂けて地軸がねじ曲がる某アニメ【Amazon】を思い出した。★★★。

「選り好みなし」(1952)

原爆の後なのになぜか微妙に人口が増加していた。それを調査するというのが発端だけど、物語はあれよあれよと予想もつかない方向に転がり、主人公はとんでもない事実に直面する。いわゆる「巻き込まれ型」というやつ。とあるSFテクノロジーに抱かれがちな幻想が、木っ端微塵に打ち砕かれるところがスリリングだった。この小説では具体的にかつ論理的に否定される。★★★★。

「昔を今になすよしもがな」(1963)

ニューヨークに自分のことを地球最後の人間だと思っていた女がいた。そいつの前にマッチョマンが現れる。他に人類いないのに商品の代金気にしてたり、初対面なのにお互い警戒心がなかったり、とぼけた雰囲気が微笑ましい。★★★。

「時と三番街と」(1951)

男の買った本のなかに未来の年鑑が混じっていた。それを取り返しに変な男がやってきた。年鑑を使ってどんなお金儲けができるかを論じる部分とか、変な男のほうに妙なロジックが存在するところとか、そういうSFならではの雰囲気が良かった。オチも気が利いている。★★★。

「地獄は永遠に」(1942)

防空壕に集う退廃的な男女が悪魔の力で不思議体験する話。一人一人の体験綴ってくところはエピソード集の趣きだ。刺激欲しさに不思議ワールド飛び込む。特に世界創造と地獄探訪と冤罪騒動が面白かった。どれもビジュアルが異様で読み応えがあるし、地獄探訪については皮肉的な部分にやられた。しかしながら、この3つ以外の2〜3のエピソードは、ケレン味がきつくて読むのに苦労した。★★★。