2005.2a / Pulp Literature

2005.2.2 (Wed)

塩野七生『ローマ人の物語 ハンニバル戦記』(1993)

ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) 新潮文庫

★★★★
新潮文庫 / 2002.6
ISBN 4-10-118153-5 【Amazon
ISBN 4-10-118154-3 【Amazon
ISBN 4-10-118155-1 【Amazon

『ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず』の続編。第1次ポエニ戦争(紀元前264年〜前241年)から第2次ポエニ戦争(紀元前218年〜前201年)を経て、カルタゴの滅亡(紀元前146年)まで。

再読。相変わらず文章が鬱陶しかったけれど、それ以上に歴史的事実が面白かったので楽しんで読めた。特にハンニバルが登場する第2次ポエニ戦役の項は、その巧みな戦術にスポットを当て、一つ一つの会戦を詳細に叙述していくのだから引き込まれる。スペインから1人軍隊を率いてピレネーを越え、さらにアルプス越えまで果たすハンニバル。イタリアに到着したときはわずか2万6千人しか兵がいなかった。とてもじゃないが一国を相手にできる人数ではなく、これからどうするのかと思ったら意外な方法で兵を増やす。で、戦力を拡大したハンニバルは数々の会戦でローマに勝利。10年以上にわたってイタリア半島に居座ることになる。

物語としての戦争は、状況が困難であればあるほど相手を打ち破ったときの快感が大きい。その点、われらがハンニバルは、後世の野次馬の期待に応えてくれている。新戦術を駆使してイタリア半島を蹂躙してくれている。塩野のような英雄史観の持ち主は、才能のない人間に対して必要以上に厳しく、読んでいて鼻白むことが多い。だがそのぶん、才能ある人間への(それも若い人間への)愛情は深く、本書でもお腹一杯になるほどハンニバルの魅力を語り倒していたのだった。

それにしても、歴史というのはよくできている。向かうところ敵なしだったハンニバルが、ザマの会戦で新星スキピオに完敗するという流れはとてもドラマチックだ。それは主役としてのハンニバルの「死」を象徴すると同時に、地中海世界における英雄の世代交代を意味する。孤軍奮闘で戦ってきたハンニバルに対し、レリウス、マシニッサ(亡国の王)と共闘するスキピオ。ザマの会戦はまさに、友情、努力、勝利の少年ジャンプを思わせる展開だった。

>>『ローマ人の物語 勝者の混迷』へ。

>>Author - 塩野七生

2005.2.8 (Tue)

リチャード・バック『イリュージョン』(1977)

イリュージョン

★★★
Illusions / Richard Bach
村上龍 訳 / 集英社文庫 / 1981.3
ISBN 4-08-760068-8 【Amazon

複葉機に客を乗せて稼ぐジプシー飛行士が、同じくジプシー飛行士をしている救世主と知り合う。

副題は「退屈している救世主の冒険」。この救世主というのがずいぶんと変わっている。彼は普通にアメリカで生まれ、普通に学校に通い、普通に自動車の修理工となって、いつしか救世主としての自覚を持った。奇跡を起こして民衆に崇められていた矢先、うんざりして蓄電してしまう。まず、このことがイントロダクションとして、断章形式で語られる。あたかも福音書のように。

本編に入ってからは、飛行士が救世主と知り合って行動を共にし、色々と話をするのだけど、救世主の考えがあまりにエキセントリックなので噛み合わない。

「よくわからないな、一つ不思議だと思うのはね、人々が救世主と呼び始めた時、なぜ、やめなかったのかなあ、やめちまえば良かったんだよ、[……]そのかわりに、イエスが選んだ道はロジックだったんだぜ、イエスはこう言ったのさ、"OK、私は神の子である。しかし私達みんながそうなのである。しかしあなた方もそうなのだ。だから、私がなし得ることはあなた方もなし得るのである" そんなこと言うだけなら誰にだってできるぜ、ええ? リチャード、そう思わないか?」(p.53-4)

何だか伊坂幸太郎っぽいセリフである。この小説は、倦んだ救世主が奇跡を行いつつ、常人の斜め上をいった人生観を開陳するのだから、雰囲気はかなりへんてこだ。だいたい戦死者の遺族に向かって、「戦争で死んだ奴はそうしたかったのさ」(p.180)と言い放つのだから相当キている。

その一方で、

「やりたいことだけをだな、やり続けていくと、類は友を呼ぶの法則に従って、俺達から何かを学ぼうと思う人達を引き付ける、そして俺達もまたその人達から何かを学ばなくてはいけない」(p.155)

などど気の利いたことも言うのだから油断できない。この救世主は、まるで直球と変化球を織り交ぜる好投手みたいである。

男2人で客乗せ飛行してるところは、『華麗なるヒコーキ野郎』【Amazon】みたいだなあと思っていたら、作中でしっかり言及されていた。その前に2人は映画館で、『明日に向って撃て!』【Amazon】を観ている。著者はジョージ・ロイ・ヒルのファンなのだろうか? いずれにせよ、ゆるい雰囲気に惹かれるものがあったので、近いうちに『かもめのジョナサン』【Amazon】も読んでみようと思った。