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2005.3.22 (Tue)
▲シンシア・カドハタ『きらきら』(2004)
★★★
Kira-Kira / Cynthia Kadohata
代田亜香子 訳 / 白水社 / 2004.10 / ニューベリー賞
ISBN 4-560-04795-2 【Amazon】
1950年代のアメリカ。日系3世の幼い姉妹が、アイオワ州からジョージア州へ家族と移り住む。そして、養鶏場で赤貧生活を送ることになる。
ヤングアダルト小説。日系人ということで色々大変だけど、わたしたち家族は前向きに生きていきます。世界はきらきら輝いています、という話。正直なところ、病気ネタや貧乏ネタは生理的共感を押しつけられてるみたいで腹が立つことが多いのだけど、本作は苦難を重苦しく語っていないため、違和感を覚えずすんなり読むことができた。
何といっても妹の素朴な語りが微笑ましい。トーンが暗く沈む終盤でさえ、深刻に語って涙を絞ろうとしていないのだから好感が持てる。たとえば国語のテストを伏線にした演説・作文なんて、情緒に湿りそうな箇所であるにも拘わらず、結語がシニカルで可笑しみを誘う。これに限らず本作は、少女の懸命さというのが随所でユーモアになっている。純粋な子供だからこそ成り立つ、天然の微笑ましさが発揮されている。
女の子は物語がお好き。というわけで、『赤毛のアン』、『ノリーのおわらない物語』、『小公女』のように、本作の語り手も奔放な想像力を駆使して物語を紡いでいる。この手の設定は舶来の少女小説でよく見かけるけれど、現実でも、この年代の子供たちは空想癖を標準装備しているのだろうか。こういう少女らしい設定も、微笑ましさに寄与していると思う。
ちなみに、読む前は表紙から牧歌的な物語を想像していた。というかこの写真、書影では分からないが裏表紙まで続いている。
2005.3.25 (Fri)
▲ロバート・B・パーカー『ハメットとチャンドラーの私立探偵』(1984)
★★★
The Private Eye in Hammett and Chandler / Robert B. Parker
朝倉隆男 訳 / 早川書房 / 1994.3
ISBN 4-15-207839-1 【Amazon】
ロバート・B・パーカーが1971年に書いた博士論文の編集版。元の論文にはロス・マクドナルドの項があったようだが、本書ではなぜか削られている。前半がハードボイルド成立の背景説明、後半が二者(ハメットとチャンドラー)の小説の具体的な分析。翻訳がいつものあの方じゃないので読みやすい。
ハードボイルド誕生の要因については、ごくごく大雑把にまとめると以下の通り。
- アメリカ移民の多くはプロテスタントであり、彼らは聖書を自分で解釈しなければならなかった。ゆえに法に縛られない独自の正義感が育まれた。
- もともと彼らは理想主義者だったが、開拓時代を生き延びる過程で実践的になった(適者生存の法則?)。
- 西漸運動の終焉により、文明が未開原野の代わりとなった。
『赤い収穫』【Amazon】(*1)がそのまま舞台を西部劇に移しても違和感がないという指摘の通り(*2)、やはりハードボイルドは開拓時代の延長上にある文学なのだろう。腐敗と堕落に満ち溢れた都会は、さしずめ「アスファルト・ジャングル」といったところ。ヒーローは自身の純潔を守るために、そういった社会から孤立しなければならないのだな。探偵やるのもなかなか大変である。
後半は具体的な分析。作品論考としては『マルタの鷹』【Amazon】(*3)のブリジットに触れた部分が興味深かった。要約すると、ブリジットがジョエル・カイロを恐れたのは、彼が女性性の通じないホモセクシャルだからとのこと。このロジックは様々な物語に応用できそうなので、覚えておいて損はないかもしれない。その他、本書はアメリカ文学を引き合いに出しながら、ヒーローの行動原理を解き明かしている。
2005.3.29 (Tue)
▽ローレンス・ブロック『泥棒はライ麦畑で追いかける』(1999)
★★★★
The Burglar in the Rye / Lawrence Block
田口俊樹 訳 / 早川書房 / 2001.3
ISBN 4-15-001705-0 【Amazon】
泥棒バーニイ・シリーズ9作目。作家の手紙を盗もうとホテルの部屋に侵入したバーニイが、いつも通り死体に遭遇する。
問題の作家はデビュー作で「多くのアメリカ人の人生を変えた」男であり、極端に露出を嫌う隠遁者だ。サイン会は開かないし、ファンレターには返信しない。写真撮影はいっさい禁止で、住居は頻繁に変えている。病的にプライヴァシーを守ろうとするこの男は、要するにサリンジャーそのまんまであり、件の手紙ネタも現実のゴシップ事件を踏まえているわけだ(当然、先に述べたデビュー作は『ライ麦畑でつかまえて』【Amazon】をモデルにしているのだろう)。
殺人の被害者が感情移入できない人物であるため、誰も正義の達成を気にしないところが面白い。バーニイが殺人事件の謎に取り組むのは、ただ行方不明になった手紙を取り戻すのが目的。犯人に裁きを下すのは二の次で、通常のミステリとは秩序回復の軸がずれている。この小説は殺人事件の解決とは別に、もっと重大な正義が設定されており、それが成就されることでカタルシスが得られるようになっているのだ。誰だって人生を変えられた一冊くらいはある(そうでもないか?)。本好きならバーニイの心情に共感できるだろうし、また彼の行動に快哉を叫ぶことだろう。前作同様、心憎い趣向である。
というわけで、サリンジャーファンのみならず全ての本好きにお勧めしたい。ミステリネタも、今回は中の上くらいの出来で読ませるし。