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2006.7.11 (Tue)
▼桜庭一樹『少女七竃と七人の可愛そうな大人』(2006)
★★
角川書店 / 2006.6
ISBN 4-04-873700-7 【Amazon】
いんらんの母から生まれた絶世の美少女・七竃。彼女の周辺にいる大人たちの哀しみと、彼女自身の青春期の喪失を描く。
浮世離れした美少女、その同族というべき美少年、そして狭い空間に回収されていく人間関係。東京と地方の対立といい、大人たちに目配りしているところといい、全体的な着想は悪くなかったのだけど、異形さを前面に出そうとした七竃視点がきつかった。安易な体言止めと単調な擬態語を織り交ぜた、ポエム文体(エロゲー文体?)というべき雰囲気作りの文章が散見される。文体に凝るのは良いとして、もっと表現を練ってくれないかと注文をつけたくなった(一応、「文芸」にカテゴライズされているようだし)。
あと、この小説は七竃と母親の相克から、「女の人生」が浮かび上がってくるのだけど、
「女の人生ってのはね、母をゆるす、ゆるさないの長い旅なのさ。ある瞬間は、ゆるせる気がする。ある瞬間は、まだまだゆるせない気がする。大人の女たちは、だいたい、そうさ」(p.267-8)
これが「大人の女たちは」で括れる普遍的な事象とは思えず、読んでいていまいちしっくりこなかった。
2006.7.14 (Fri)
▼マシュー・スケルトン『エンデュミオン・スプリング』(2006)
★★
Endymion Spring / Matthew Skenlton
大久保寛 訳 / 新潮社 / 2006.6
ISBN 4-10-505251-9 【Amazon】
12歳の少年が、オックスフォードの図書館で「エンデュミオン・スプリング」なる魔法の本を手に入れる。その本には、グーテンベルクの時代にまで遡る秘密があった。
現代のオックスフォードと1452年のドイツ、2つの物語が交互に語られる。内容は「最後の書(ラスト・ブック)」というボルヘス的奇想を基点にしたものだけど、魅力的な設定のわりに展開がしょぼくて拍子抜けしてしまった。どちらの時代の物語も、ラスト・ブックが平板な追いかけっこを導く道具にしかなっていないのである。せっかく魔法のアイテムが登場しているのに、やってることが本を守って逃げるだけ(それも生身の人間からだ)というのは、いくら児童書とはいえ手抜きの誹りは免れないんじゃなかろうか。ラスト・ブックという発想と、2つの時代を往還する構成から、ファンタジーらしいイマジネーション溢れる話を期待していた。なので、この小さくまとまった内容にはがっかりした。
2006.7.18 (Tue)
▼シャン・サ『女帝 わが名は則天武后』(2003)
★★
Imperatrice / Shan Sa
吉田良子 訳 / 草思社 / 2006.6
ISBN 4-7942-1503-7 【Amazon】
則天武后(武則天)の生涯を彼女の一人称で綴っている。太宗の後宮に入った武照が、彼の死後息子の高宗に気に入られ出世する。皇后になってからは政治にコミットし、権力闘争に勝ち残ったすえ、周王朝を開くことになる。
呂后、西太后に並ぶ中国三大悪女の則天武后を、1人の女として、共感の眼差しでもって描いている。後宮に入ってからの怒濤の百合展開にのけぞったものの(さすが女の園だぜ)、歴史上の人物である則天武后の心理を丁寧に追う筆致は新鮮だった。史書が伝える極悪非道な性格とは打って変わって、政治にも恋愛にも概ねピュアな心で向き合っている。高宗や楊昭媛と大恋愛を繰り広げたり、民草のことを思って政治に取り組んだり、男尊女卑の制度を改めようとしたり、そこには旧来的な悪のイメージはほとんどない。天運を得て激変していく人生と、頂点を極めた者ならではの孤独が、現代人に対して感情移入しやすいように示されている。
則天武后については、史実の再解釈というよりは完全に別人の域にまで到達していて、その願望妄想的な造型にいまいちついていけなかった。歴史上の人物に現代的な感性を投影しすぎていると思う。則天武后をフェミニズム的観点から再評価し、愛と孤独というテーマを見出すのは分からないでもないけど、個人的には作中に蔓延するむせかえるようなロマンス感がしんどかった。