2006.7c / Pulp Literature

2006.7.21 (Fri)

トーベ・ヤンソン『トーベ・ヤンソン短篇集』

トーベ・ヤンソン短篇集(113x160)

★★★
20 Short Stories of Tove Jansson / Tove Jansson
冨原眞弓 編訳 / ちくま文庫 / 2005.7
ISBN 4-480-42119-X 【Amazon

「トーベ・ヤンソン・コレクション」からセレクトしたアンソロジー。「夏について」、「往復書簡」、「カリン、わが友」、「森」、「猿」、「愛の物語」、「自然のなかの芸術」、「リス」、「絵」、「嵐」、「ショッピング」、「植物園」、「汽車の旅」、「見知らぬ街」、「時間の感覚」、「リヴィエラへの旅」、「軽い手荷物の旅」、「聴く女」、「事前警告」、「雨」の全20編。

ムーミン童話で有名なトーベ・ヤンソンの短編集。<<子供時代>>、<<創作>>、<<奇妙な体験>>、<<旅>>、<<老いと死の予感>>の5つのカテゴリが設けられている。作風というか題材の幅が広いので、人によってだいぶ好みが別れそう。私は、「往復書簡」、「愛の物語」、「自然のなかの芸術」、「絵」、「植物園」、「汽車の旅」の6編が気に入った。

最近アリス・マンローの短編集を読んだせいか、ときおり北欧ではなくカナダの小説を読んでいるような錯覚をおぼえた。英語圏の、メインストリームからやや外れた短編という感じがする。辺境でもなければ、中央でもないというか。フィンランドってもっと異国情緒の激しい国だと思っていた。

以下、各短編について。気に入った短編には末尾に☆をつけた(20編中6編につけた)。

「夏について」

夏についての断章。

ボートや遊泳など、水と戯れながら将来の子供に思いを馳せるのが良い。

「往復書簡」

日本在住の少女がトーベ・ヤンソンに送った手紙。

タイトルは「往復書簡」だけど、載っているのは少女の手紙だけ。少女らしいイノセントな内容に好感を持ちつつ、そこから浮き彫りになるヤンソンの包容力に心が洗われる。返事を載せないからこその存在感が凄い。☆。

「カリン、わが友」

従姉妹にして聖女のカリンとの思い出。

電子音楽を聴いて神を感じるなんてさすがキリスト教圏だ。

それにしても、

「まず罪悪感をかきたて、良心の呵責でたっぷりとなやませ、さいごに気高い心でゆるす、こいつが人をゆるすといわれている代物さ」(p.34)

なんて文を読むと、童話作家というイメージが吹き飛ぶ。

「森」

兄弟がジャングルでターザンごっこ。

語り手が弟のことを息子と呼ぶのが面白い。それは『ターザンの息子』を踏まえていると同時に、父親の不在を埋める意味合いもある。

「猿」

猿を飼う彫刻家の話。

「愛の物語」

芸術展に赴いた画家が臀部をかたどった彫刻に魅せられる。

こういう感情は理解できるし、画家に対してガールフレンドが怒るのもまあ無理もないという気がする。

ラストが素晴らしいね。空想的な話をしてくだけつつ、一緒に彫刻を見に行く流れが最高だ。☆。

「自然のなかの芸術」

展覧会の警備員が夫妻と芸術について語る。

注意しにいってなぜか大好きな芸術について意見を述べてそこでふと真理に到達する。最後の一文が絶妙で後味が良い。☆。

「リス」

孤島の「わたし」とリス。

冒頭でリスは海をわたるとか書いてあって、え? リスって泳げるんかいな? と思ってたらラストでやってくれた。そう来るか。

「絵」

画家として留学した息子と彼に手紙を送る父の話。

意外とベタな道具立てでちょっとびっくり。心理的距離が縮まったことを列車と駅でもって表している。☆。

「嵐」

嵐のなか目が覚める女。

「ショッピング」

荒廃した街で食料を頂戴(ショッピング)する妻。

スタージョンあたりが書きそうな近未来SF。夫婦間の愛もさることながら、よそ者たちと接触しようと歩み寄るところなんかがそれっぽい。

「植物園」

植物園のベンチで暇を潰しているおじさんが、いけ好かない老人と知り合う。

これは良かった。縄張り争いが発端で話すようになって、ひねくれた交流をするという。☆。

「汽車の旅」

少年時代に一級上のボブを崇拝していたアントン。大人になってから偶然汽車で再会する。

やりきれない短編だ。こういうのを読むと、思い出の人間とは会っちゃいけないなあと痛感する。☆。

「見知らぬ街」

ご老体が飛行機で見知らぬ街へ。

言葉が通じない街で得難い経験をしている。いやー、逃げた彼はいったい何者だったのでしょう。

「時間の感覚」

時間感覚の狂った祖母と飛行機に乗る。

「リヴィエラへの旅」

母娘がリヴィエラに行ってすぐ帰ってくる。

ヨーロッパみたいに地続きだと旅もしやすくて良いよなーと思った。

「軽い手荷物の旅」

手荷物を持って家出する。

「聴く女」

「事前警告」

「雨」


上3つは老いについて。

2006.7.26 (Wed)

トニ・モリスン『スーラ』(1973)

スーラ(111x160)

★★★
Sula / Toni Morrison
大社淑子 訳 / 早川書房 / 1995.6
ISBN 4-15-207929-0 【Amazon
ISBN 978-4151200557 【Amazon】(文庫)

丘の上の町ボトムで育った、2人の黒人少女スーラとネル。彼女たちは友情で結ばれていたが、ある日スーラがネルの夫を寝取る。

随所にガルシア=マルケスの面影が散見できて面白かった。町の成り立ちと崩壊が示されるところとか(しかも、それがけっこう特異)、ヤク中の息子を灯油漬けにして燃き殺すエピソードとか、多数の鳥を引き連れて帰ってくるスーラの姿とか、摩訶不思議南米ワールドに似た香気が漂っている。そのうちあからさまなマジックリアリズムが飛び出してくるのかと期待していたら、物語は急きょ昼メロのような展開に突入。

「彼を奪うってどういう意味? わたし、彼を殺したんじゃないよ、ただ彼と寝ただけよ。もしわたしたちがとても仲のよい友だちだったのなら、どうしてあんた、そんなこと乗り越えてしまえないの?」(p.175)

と、女同士で口論することになる。奔放なスーラにとって友人の夫を寝取ることはさして重大事ではなく、なぜネルが怒るのか理解できないのだ。何だこの不思議ちゃんは? とまっとうな読者なら呆れ果てるところだけど、しかし実は堅実に見えたネルも、終盤になってスーラと負けず劣らずの相似形であることが発覚する。そのあまりの変わり者ぶりに、女同士の友情は訳分かんねーぜ、と首を傾げたまま読了したのだった。

スーラは母親が丸焼けになりながらのたうち回っている様を見て快感をおぼえていた。一方のネルも、不可抗力で子供を川に落とす瞬間、快感をおぼえていたことを後になって気づく。スーラとネルは、淫乱と堅実という対称的な性質でありながら、火と水というこれまた対称的なエレメントで繋がっていて、本作が周到に組み立てられた小説であることが窺える。また、他にも家族関係に色々因果があるようで、こういう小説は熟読玩味したほうがいいのだろうなと思った(まあ、しないんだけど)。