2006.10c / Pulp Literature

2006.10.24 (Tue)

ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』(1959)

ブリキの太鼓 第1部 (1)(97x140)

★★★★
Die Blechtrommel / Gunter Grass
高本研一 訳 / 集英社文庫 / 1978.9
ISBN 4-08-760037-8 【Amazon
ISBN 4-08-760038-6 【Amazon
ISBN 4-08-760039-4 【Amazon

精神病院に入院中のオスカル・マツェラートによる自叙伝。3歳のときに自らの意志で成長を止めたオスカルは、ブリキの太鼓を叩きながら大戦期のダンツィヒで生活し、数多くの死を目の当たりにする。

壮大なスケールと、イマジネーション溢れるディテールで読ませるドイツ文学の名作。個人の人生を追っていく教養小説的な形式をベースにして、時にリアリズムの文法から外れた奇妙なイベントを盛り込んでいる。具体的にどこが奇妙なのかはちょっと説明しづらいのだけど、これはたとえば、主人公が超能力(歌でガラスを破壊する)を持っているという設定から推して量るべきだろう。あとはまあ、女の形をした船首像とセックスしようとして死んだり、ナチスの党章を飲み込もうとして銃殺されたり、イエス・キリストの像が動いて太鼓を叩いたり色々。この小説はとにかく多くの個別的な「死」に彩られていて、それらは大抵人を食ったような皮肉な味わいがある(母親なんか鰻の食い過ぎで死んでるし)。と同時に、肝心なところでは哀切な調子を帯びていて、なかなか一筋縄ではいかなかったりもする。

長大な本作の中でもっとも印象的だったのが、「信仰 望み 愛」と題された第1部の最終章。この章は書き出しを繰り返す文章芸が凄まじく、ラストの怒濤の畳みかけを読んだときは危うく落涙するところであった。これは淡々と通り過ぎていった「死」を、リズミカルに振り返ったからこその効果で、まさに「鎮魂歌」と呼ぶにふさわしい章だと思う。

内容の単純な満足度だったら、『真夜中の子どもたち』『豊乳肥臀』(*1)といった後発作品のほうに軍配が上がるかもしれない。この2作には細部のイマジネーションの他に、読者を惹きつける強烈なストーリーが備わっている。できれば出版順(*2)で追ったほうが発展の具合が分かって面白いと思う。もちろん、本作は本作で大戦期のドイツならではの固有性があるから、決して前述の2作と比べて見劣りするわけではない。けれども、この系統は段々と洗練度が増していっているのは確かなので。

>>Author - ギュンター・グラス

*1: この小説の主人公は大人になりきれない恋乳拒食症児で、明らかに『ブリキの太鼓』のオスカルを下敷きにしている。
*2: 本作→『真夜中の子どもたち』→『豊乳肥臀』。

2006.10.26 (Thu)

『内臓脂肪をぐんぐん減らす知恵とコツ』(2006)

内臓脂肪をぐんぐん減らす知恵とコツ(112x160)

★★★
主婦の友社 / 2006.10
ISBN 4-07-253480-3 【Amazon

タイトル通りの健康本。「3大合併症の引きがね、内蔵脂肪を正しく知る」、「運動マッサージで内蔵脂肪を減らす」、「台所にある食材で内臓を減らす」、「工夫の1皿で内蔵脂肪を減らす」、「ツボ刺激と小物で内臓脂肪を減らす」の5つのチャプターから成る。

内蔵脂肪についての基礎的な知識が得られて参考になった。1日に消費されるエネルギー代謝は、基礎代謝(*1)が6〜7割を占めるという。そして、基礎代謝の半分以上を担うのが筋肉であり、人間は加齢と共に筋肉が衰えるから、それと比例して基礎代謝も落ちていく(男性は16才、女性は13才がピーク)。ということは、もっとも効率の良い内臓脂肪予防法は、筋力トレーニングで代謝を維持することになるだろうか(*2)。もちろん、食を減らすという選択肢もあるけれど、しかしまあ体を作るほうが長期的に見て利益が大きいような気がする。それで、既に内蔵脂肪でパンパンの人は有酸素運動(と適度なカロリー制限)を中心にする、と。

コーヒーを飲むと脂肪細胞が燃焼しやすくなるとか、豚肉のなかに内蔵脂肪を減らす成分が含まれているとか、色々な豆知識を仕入れることができた。キャベツ、オレンジ、青背の魚もガチで凄いらしい。個人的に本書の後半は、実践する気がないのであまり役に立たなかったのだけど、所々で知的好奇心をくすぐる栄養知識が見られたのは良かった。

以下、本書で紹介されていた体組成計。

  • 「OMRON 体重体組成計 カラダスキャン HBF-361」【Amazon
  • 「TANITA インナースキャン 体組成計 ブルーグレー BC-539-BG」【Amazon
  • 「TANITA 体組成計 音声インナースキャン ホワイト BC-200-WH」【Amazon
*1: 生命を維持するためのエネルギー消費。何もしなくても使われる。
*2: 追記。筋1kgあたりの消費カロリーは、1日50kcal程度だった。基礎代謝という観点からするとほとんど意味がない。

2006.10.28 (Sat)

ビクトリア・チャールズ他『世界の名画 1000の偉業』(2006)

世界の名画 1000の偉業(129x160)

★★★★
1000 Paintings of Genius
小川彩子・他 訳 / 二玄社 / 2006.10
ISBN 4-544-02098-0 【Amazon

13世紀から20世紀まで、西洋絵画1000枚を載せたガイドブック。

オールカラー543ページの分厚い本。1000枚という縛りのため、必ずしも網羅的とは言えないのだけど(日本で人気のゴッホやミュシャが載ってない!)、西洋絵画の変遷を一通り追いかけるのには適していると思う。とりあえず、個別の画集に進むきっかけにはなった。

以下、目にとまった絵をメモ。

63番。ファン・エイク兄弟「ゲント祭壇画」(1432)。13枚のパネルで構成された祭壇画だけど、およそ15世紀のものとは思えないくらい細密かつ堅実な色彩をしている。この絵は真ん中で座っているイエスがとても神々しい。赤い法衣に金の冠をつけて、まるで中国の皇帝のように鎮座している。両端のパネルには素っ裸のアダム(左)とイブ(右)。イブのお腹が心持ちぽっこりしているのが気になる。

78番。ロヒール・ファン・デル・ウェイデン「聖母を描く聖ルカ」(1484頃)。福音記者のルカが、赤ん坊(イエス)に授乳している聖母マリアと向き合い、その様子をデッサンしている。この絵は顔の皺まで捉える細かさ、建物の外に見える風景まで描き込む細かさが凄い。

85番。ジャン・フーケ「聖母子と天使たち」(1450頃)。CGでぐりぐり描いたような絵でびっくり! 解説には、「幾何学的な画面構成」とある。赤、白、青の3色が基調。

109番。アンドレア・マンテーニャ「カーメラ・デッリ・スポージ(夫婦の間)のフレスコ装飾」(1465-74)。天井に丸天井の絵が描かれている。でもって、その丸天井からは不気味な怪物たちが顔を覗かせている。

167番。レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナ・リザ」(1503-6頃)。モナ・リザってただの肖像画だと思ってたけど、実は背後に風景まで描かれていたのだなあ。輪郭のぼやけた地味なトーンで統一されていて幽玄な味わいがある。あと、実はモナ・リザってかなりの美人だね。

220番。コレッジョ「聖母被昇天」(1526-30)。パルマ大聖堂のフレスコ画。真ん中にぽっかり光源が空いていて、その周りを雲と人が遠近法で幾重にも取り巻いている。これはもう奥行きがとんでもなくて、見ていて吸い込まれるような錯覚をおぼえる。

242番。ミケランジェロ・ブオナローディ「最後の審判」(1536-41)。言わずと知れたシスティーナ礼拝堂のフレスコ画。13.7×12.2メートル。物語性の高そうな面白い絵だと思う。

327番。ウィレム・クラースゾーン・ヘダ「木苺パイのある食卓」(1631)。これは驚いた。ページを捲った瞬間、絵じゃなくて写真が載ってるのかと思った。ガラスと金属の光沢がとんでもなくリアルに表現されている。

350番と351番。ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「悔悛するマグダラのマリア」(1642-44)と「大工の聖ヨセフ」(1642頃)。これぞ光と影のマジック! 暗闇のなかを蝋燭の光で照らしてそこにいる人物を陰影たっぷりに描いている。

384番。ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」(1659頃)。背景はけっこうリアルなのに、人物周りはクレイっぽい妙な質感がある。

433番。カナレット「キリスト昇天祭における御座船の帰還」(1732)。船と建物と青空の壮大なパノラマ。場所はヴェニスかな?

447番。ジャン=エティエンヌ・リオタール「チョコレートを運ぶ娘」(1744-45)。これも写真と見まごうような質感の絵。スカートとエプロンの皺が細かいし、水の入ったコップは本物っぽいし、少女の顔なんか実際にいそうな顔をしている。

452番。カナレット「デレスデン、エルベ河右岸からの眺め」(1747)。でかーい! 巨大建築は正義だ!! 真ん中にでんと建ってる礼拝堂の存在感が堪らない。

641番。クロード・モネ「印象、日の出」(1873)。印象派。これはまだ分かりやすいほうかな。暖色と寒色のコントラストが良い。

727番。エドヴァルト・ムンク「叫び」(1893)。人物と背景のぐにゃーっとした歪みに切迫感がある。そういえば、板垣恵介の漫画でも緊張が背景の歪みで表現されていた。

757番と775番と780番。アンリ・マティス「ボール遊び」(1908)と「会話」(1908-12)と「音楽」(1910)。マティスの絵は独特で、他の画家とは一線を画しているという印象。絵柄とか色使いとか変に大胆だ。あ、『マティス・ストーリーズ』【Amazon】なんてのもあった。

964番。イヴ・クライン「青のモノクローム」(1959)。おいおい、これは何かの冗談なのか? ただの青一色だぞ! 20世紀の絵画は全般的によく分からないけれど、これなんか何でアートとして成立しているのかまったくピンとこない。