2006.12a / Pulp Literature

2006.12.1 (Fri)

ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』(1955)

ロリータ(113x160)

★★★
Lolita / Vladimir Nabokov
若島正 訳 / 新潮文庫 / 2006.10
ISBN 4-10-210502-6 【Amazon

公判中に獄死した中年男、ハンバート・ハンバートの回想記。12歳のロリータに魅了された彼は、ひょんなことから彼女の義父になる。不慮の事故が起こった後、2人は全米を旅して回ることに。

ルックスもイケメンなH・H氏は、ヨーロッパの洗練された知性を備えたインテリであり、日本によくいる大衆的な変態ではない(エロゲーはやらないし、アニメも観ないし、哲学をかじったりもしない)。回想記のなかには深い教養に裏打ちされた引用と、高度な言語能力を発揮した言葉遊びが散見される。ルイス・キャロルの例を引くまでもなく、欧米においてペドフィリアはインテリの嗜みなのだろう(衆道が武士の嗜みだったように)。豊富な学識に冷静な観察、そして偏執的な意志がどろどろと溶け合って、まるでサイコパスのような興味深い一人称が出来上がっている。

ロリータとの生活を維持すべく、当時寡婦だった彼女の母と結婚する。己の肉欲を充たすという目的にしては行動が大胆で、さすが本場のロリコンは一味違うぜって感じだけど、しかしH・H氏はそこからが凄かった。彼の快楽はただの少女趣味に止まらず、擬似的な近親相姦関係にまで及んでいる。うひゃー! 本来はロリータに近づくための方便、または2人で旅行するための隠れ蓑だったのに、そんなオプションまでついていたとは。実はペドフィリアにインセストタブーの豪華二本立てだったとは。さすが本場のロリコンは一味違うぜと寒気をおぼえたのだった。

ニンフェットには造形美術としての美しさが備わっており、我々の日常会話においてそれはしばしば「可愛い」と表現される。一般的にインテリという種族は、「美」に対する感受性が一際強いと信じられているわけで、だから「インテリ=ロリコン」の図式がよく似合うんじゃないかと思う。我々庶民が通り過ぎてしまうものにぴたっと立ち止まる、そして抗しきれずに囚われてしまう。そんなイメージが欧米のインテリにはある。

2006.12.5 (Tue)

エマニュエル・ボーヴ『きみのいもうと』(1927)

きみのいもうと(112x160)

★★★
Armand / Emmanuel Bove
渋谷豊 訳 / 白水社 / 2006.10
ISBN 4-560-02757-9 【Amazon

戦災未亡人の愛人になることで、どん底生活から抜け出した元兵隊の「ぼく」。ぶらぶらとした日々を送る彼だったが、貧民時代の友人と再会し、その妹と顔を合わせることで人生の歯車が狂う。

ぼくはこれまで辛い目に遭うたびに、ぼくが悪いわけじゃない、世の中が不公平なんだと考えてきた。(中略) 結局、世の中が悪いんじゃなくて、ぼくに、愛される資格がないだけなのかもしれない。要するに、ぼくは救われない人間なんだろう。この地上には、ぼくを憐れんでくれる人など一人もいない。こんなふうに思うのは、生まれて初めてのことだった。(p.128-9)

コミュニケーション弱者が空気の読めない行動をとって、取り返しのつかない事態を引き起こす。基本的には『ぼくのともだち』の同工異曲だけど、話が単線で一つの関係性に集中しているぶん、こちらのほうが鬱度は上がっているかもしれない。「ぼく」の駄目人間っぷりは手をつけられないほど酷いものだし、事態の推移も自業自得で救いようがない。そもそも、彼の世間擦れしていない人の好さが致命的だろう。たとえるなら、渓谷の上で綱渡りをしているような危うさが感じられる。本作は底辺層の悲哀が充満した何ともやるせない小説なので、精神的に参っている状態で読むのは止めた方がいいと思う。「ぼく」の弱さを原因とした一連のすれ違いには、同情や共感を突き放す「負け犬」オーラが漂っていて気が滅入ってしまう。

>>Author - エマニュエル・ボーヴ

2006.12.9 (Sat)

『現代漫画博物館』(2006)

現代漫画博物館(113x160)

★★★
小学館漫画賞事務局 編集 竹内オサム 監修 / 小学館 / 2006.11
ISBN 4-09-179003-8 【Amazon

1945年から2005年までの約750作を、図版入りで紹介した漫画事典。各年代の漫画賞受賞作を中心にセレクトしている。

資料というよりはカタログとして有用だった。各作品にはプライオリティを設定せず、全部均等な割付で載せている。スペースの都合上、個々の記述はどれも浅いのだけど、しかしそれを補ってあまりあるのが図版の存在。適切な引用が薄めの紹介文に説得力を与えている。

以下、読んでみたい漫画をメモ。

永松健夫『黄金バット』(1947)

ISBN 4-06-207447-8 【Amazon】。戦前に流行った紙芝居が母体。再放送でやっていたアニメ版を見た記憶があるけれど、実のところ『妖怪人間ベム』【Amazon】(早く人間になりたい!)とごっちゃになっている。髑髏のくせに正義の味方なんだっけか。でもって、ふはははははは! と高笑いするんだっけか。

倉金章介『あんみつ姫』(1949)

ISBN 4-06-176521-3 【Amazon】。江戸時代のお姫さまの話。例によってアニメで見た記憶があるけれど、これもまた例によって『つる姫じゃ〜っ!』【Amazon】とごっちゃになっている。

手塚治虫『鉄腕アトム』(1951)

ISBN 4-06-173221-8 【Amazon】。手塚漫画は、『ブラックジャック』【Amazon】と『火の鳥』【Amazon】と『アドルフに告ぐ』【Amazon】くらいしか読んでない。昔の漫画は絵柄がなあ……。

横山光輝『音無しの剣』(1955)

ISBN 4-06-364509-6 【Amazon】。映画的な構図が斬新らしい。横光漫画は、『三国志』【Amazon】と『項羽と劉邦』【Amazon】と『史記』【Amazon】の全巻を集めている。それと、エロ描写が光る『戦国獅子伝』【Amazon】も。

前谷惟光『ロボット三等兵』(1957)

ISBN 4-8727-0056-2 【Amazon】。これをパロったキャラが『こち亀』【Amazon】に出てきたような。ともあれ、『フルメタルジャケット』【Amazon】が上質のユーモアを備えていたように、軍隊は笑いの宝庫なんだと思う。「よく女子供が殺せるな」「簡単さ、動きがのろいからな」。

白土三平『忍者武芸帳』(1959)

ISBN 4-09-192201-5 【Amazon】。戦国時代の異能の人らの戦いっぽい。山田風太郎の忍法帖みたいなものだろうか。

横山光輝『伊賀の影丸』(1961)

ISBN 4-253-17100-1 【Amazon】。横光の絵ってそんな上手くないんだけど、慣れると愛着が湧くから不思議だ。

白土三平『サスケ』(1961)

ISBN 4-09-192101-9 【Amazon】。未熟なガキんちょが術を弄んで云々というのは『ゲド戦記』【Amazon】を思い出す。政治的に正しい少年ものって感じだ。

森田拳次『丸出だめ夫』(1964)

ISBN 4-06-176631-7 【Amazon】。この眼鏡男子な主人公はのび太の元ネタなのか? 外見がそっくりだ。

白土三平『カムイ伝』(1964)

ISBN 4-09-187851-2 【Amazon】。何とこの漫画はまだ続いているとか。非人の子が主人公ってことは、相当重い内容が期待できる。「被差別文学」というくくりで、小説・漫画の系譜をまとめると面白そう。

園山俊二『ギャートルズ』(1965)

ISBN 4-12-001702-8 【Amazon】。新聞4コマみたいな平易な絵柄。画太郎先生ばりの前衛漫画の予感がする。これも確かアニメで見たな。

さいとう・たかを『無用ノ介』(1967)

ISBN 4-845-81956-2 【Amazon】。引用されてる絵が素晴らしい。決着がついた瞬間の緊張を2枚の止め絵でびしっと決めている。確かに黒澤明の世界観だ。一瞬の抜き打ちから血がぶしゅーって飛び出す映画あったよね?

永井豪『ハレンチ学園』(1968)

ISBN 4-19-902021-7 【Amazon】。教育界と対決する「ハレンチ大戦争」が気になる。『男塾』【Amazon】みたいに血みどろの戦いを繰り広げてくれると嬉しい。

小池一雄 小島剛夕『子連れ狼』(1970)

ISBN 4-09-190401-7 【Amazon】。「柳生一族の陰謀」ってところに反応した! 山田風太郎といい、深作欣二といい、やはり時代ものの悪役は柳生に限る。

小池一雄 神田たけ志『御用牙』(1970)

ISBN 4-862-25031-9 【Amazon】。「エロス&バイオレンス」ってところに反応した! 同心のくせに悪も辞さないという設定は西部劇が由来なのだろうか。

山岸涼子『アラベスク』(1971)

ISBN 4-592-88111-7 【Amazon】。少女漫画は絵柄に難があっていまいち手が伸びないのだけど、山岸涼子の名前は色々なところで目にするので。

手塚治虫『ブッダ』(1972)

ISBN 4-2679-0421-9 【Amazon】。本家本元の大仏パーマだぜ。

土田よしこ『つる姫じゃ〜っ!』(1973)

ISBN 4-12-202377-7 【Amazon】。河童頭(頭頂ハゲ)の女子はインパクト強いな。

ちばてつや『のたり松太郎』(1973)

ISBN 4-09-192731-9 【Amazon】。相撲漫画って、『ああ播磨灘』【Amazon】と『おかみさん』【Amazon】と『大相撲刑事』【Amazon】くらいしか知らなかったよ。これはマスト。

山上たつひこ『がきデカ』(1974)

ISBN 4-253-03264-8 【Amazon】。子供のころアニメの再放送でちらっと見たけれど、当時は耐性がなくて正視できなかった。ぶっちゃっけ生理的嫌悪感しか残らなかった。しかし、汚れちまった今ならいけるかもしれない。

竹宮恵子『地球へ…』(1977)

ISBN なし 【Amazon】。SF漫画。新人類とか旧人類とかマザーコンピュータとか面白そう。

諸星大二郎『孔子暗黒伝』(1977)

ISBN 4-08-617091-4 【Amazon】。色々な知識を詰め込んだ伝奇系の漫画らしい。ボルヘスみたいな感じだろか?

畑中純『まんだら屋の良太』(1979)

ISBN なし 【Amazon】。旅館の話。「おおらかなエロ」と「文学性」というフレーズが気になったので。

山岸涼子『日出処の天子』(1980)

ISBN 4-592-88051-X 【Amazon】。飛鳥時代の話。この時代を扱った漫画は、小学生向けの学習漫画くらいしか読んでない。

諸星大二郎『西遊妖猿伝』(1983)

ISBN 4-267-90315-8 【Amazon】。中国ものが好きなくせにこの著者のことは押さえてなかった。

小林まこと『What's Michael?』(1984)

ISBN 4-06-260009-9 【Amazon】。猫は可愛いにゃー。

なかいま強『うっちゃれ五所瓦』(1988)

ISBN 4-09-193391-2 【Amazon】。高校の相撲部が題材の漫画。『おかみさん』【Amazon】と並んで好角家の評価も高い。

とり・みき『遠くへいきたい』(1988)

ISBN 4-309-26312-7 【Amazon】。9コマのセリフなしギャグ漫画。

楳図かずお『14歳』(1990)

ISBN 4-09-192581-2 【Amazon】。残雪を視覚化したような異形な世界観!

西原理恵子『ぼくんち』(1995)

ISBN 4-09-187701-X 【Amazon】。引用されてるページが強烈。人生の裏表をきっちり捉えてそうだ。

矢沢あい『NANA―ナナ―』(1999)

ISBN 4-08-856209-7 【Amazon】。バンドが絡む青春もの。アニメでちら見した程度だけど、声優のしゃべり方がいかにも「現代」って感じで違和感があった。

こうの史代『夕凪の街 桜の国』(2003)

ISBN 4-575-29744-5 【Amazon】。原爆もの。評判良いので。